チェスのエンドゲーム劇場:異色ビショップと追い求めた勝利の幻影
今回は初めてエンドゲームをテーマにした記事です。『異色ビショップ』が織りなすドラマチックな攻防を、ぜひお楽しみください。
実戦紹介:対局背景と局面図
今回もChess.comラピッド戦からの取材で、相手の方のレートは1800点台です。
私が黒番でe4に対してe5を選択しました。
e5はc5のシシリアンと併用しながら育てています。白はルイロペスを選択。定跡通りに進み、マーシャルギャンビットの形になりました。
マーシャルギャンビットは個人的に大好きな作戦です。実戦で試しながら少しずつ育ててきました。
本譜は途中でクイーンが交換になり、クイーン交換後も駒交換が続き、難しいエンドゲームに突入しました。そして迎えたのが下図の局面です。1. Kc3
ドローの局面に隠れた勝利への欲望
今、白がd2からキングをc3に進めたところです。現局面を簡単に整理してみましょう。
白がワンポーンアップ
白のb,eポーンがパスポーンになっている
g,fファイルはポーンが閉じている状態
お互いのキングはアクティブ
上記を考慮した上で次の手を選びました。
…Bd7
黒はビショップを引いてeファイルのパスポーンをブロックする構想です。Bd7は地味な手ですが、パスポーンを止める準備をして負けにくい形を構築しています。
2.Be7 c4 3.b3 cxb3 4.Kxb3
黒にとっては、懸念だった白のbポーンが盤上から消えました。これで黒は一安心です。
この対局はドローが濃厚になりました。おそらく白もドローを覚悟していたかもしれません。
…Be6
Be6は白のパスポーンをブロックしながら、白のキングも間接的に射程に入れる味の良い手です。
5. Kb4
Kb4の時点でお互い残りは約3分、いよいよドローが見えてきました。ここで黒は方針を固めるために貴重な時間を使います。
「勝ちたい。勝ちたい、ドローになりそうだけど、勝ちたい。マーシャルギャンビットで勝ちたい!」
しかし、この勝利への欲望と心理状態が、私のプランを狂わせることになりました。
異色ビショップの罠:悪手Ke4で形勢が激変
Kb4と指した局面の結論はドローです。私も対局中はドローだと感じていました。(対局後にエンジンも使って調べたところ、Kb4の局面は0.00でした)
しかし、局面を眺めているうちにふと頭をかすめたのです、勝てるかもしれない……!という言葉が。その悪魔のささやきに私は抗うことができませんでした。
…Ke4??
Ke4の瞬間、白に形勢が大きく傾きました。白勝勢です。ただ、対局中はもちろん評価値のグラフが見えていません。私はまだ自分の勝ちを信じていました。
もしかしたら、本当に勝ちになったのではないか、と心臓がドキドキしていたくらいです。しかし、結末はシビアでした。
白の鉄壁の防御:決定的なBh4の一手
6.Kc5 kf3 7.Kd6 Bc4 8. e6 Kg2 9.Bh4
Bh4と指されて思わず、あ!!と声が出ました。Bh4はg3のポーンを守りながら、e6のポーンの前を開けた一石二鳥の手です。
黒はh2のポーンは取れますが、g3のポーンが絶対に取れません。g3のポーンが取れないということは、g4のポーンは絶対に前に進めないということです。
…Kxh2 10. e7 Bb5 11. Ke6 Be8 12. Kxf5 h5 13. Kg5
黒は懸命のディフェンスで対抗しましたが、白は最後まで正確でした。
fファイルにもパスポーンが誕生して防御不能になりました。白のプロモーションが濃厚なのに対し、黒のポーンは前に進めません。黒の投了となりました。
正解はKc6:ドローを確保する技術
Kb4に対してはドローにする手がありました。
黒はKc6と下に引けば、これ以上の進展はありません。白は黒マスビショップが残っていますが、白のポーンは全て白マスにあるためポーンが取れないためです。
白のポーンに目を移すと、白のポーンは全て黒マスに配置されています。黒の白マスビショップでは白のポーンを取ることができません。
まとめ:学びと次への教訓
ドローの局面を確実にドローで終える技術の大切さを痛感した1局でした。痛い敗戦でしたが、転んでもただでは起きず、この経験を次につなげていきたいと思います。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。