怪談17 石
石が好きだ。世の中には色々な石との付き合い方があるけれど、地中から出た神秘の雫として鉱物が好きな人間として、あまり危険なものを除けるために使いたくはない。
けれど、時には起こることから守ってくれるチカラがあるもの…それもまた、真実だと思っている。
ある日のこと。その日は山の怪について調べていました。間で怪談を聞きつつ、日本の山々で起こる奇妙な出来事や事件に思いを馳せるなか
ふと、日本各地にいる名のある神・名のない神、自分がいつかどこかに帰らなければならないなら、制約がある場所よりも、奥深い山の神のところへ帰りたいと思ってしまったのです。
その日の夜、眠る前に、何か頭がクラクラするのを感じました。頭痛がするわけでもなく、あれ、これは何か変だなとすぐ布団の入り、気分を変えるために可愛らしい動物の動画を見ながら眠りについたのですが
何故か、いつもならそれを見るとゆっくり眠れるはずが、眠ったかと思うと目が覚める・眠ったかと思うと目が覚めるの繰り返し。そのうちに、何か体がグググと締め付けられるような、全身を圧迫されるような妙な感覚に襲われました。
そして、段々と目を瞑ると、そこに異形のものが浮かぶようになりました。
怖い…というよりも、それを凌ぐ重たい・危険な視線。すぐさま、山の「何か」であることに気付きました。
山に行くと、時折、日が射しているのに仄暗い場所があります。ズシリとした、嫌な湿っぽさ。気味の悪い空気。それを思い出す、人を飲み込むような何か。私が好きな山のモノでない、畏怖する神とも霊とも違う、精霊(ショウリョウ)とも、魔物ともいうような何か。
それが、私の中に入ろうとしている気味の悪さを感じたのです。
咄嗟に、枕元に置いてあった石を掴みました。
手のひらがビクビクと動き、持った石がズルズルと何かを飲み込んでいくのが分かります。しばらくして、感じていた気配から解放されたものの、そのまま無防備にいることも出来ず、握っていた石を枕の下に忍ばせ眠ることにしました。
翌日。
石は無事かと取り出すと、ズシリと驚くほどの重さになっていました。物理的な重さが変わったわけではないのに、持ち上げづらいというか、手のひらに包める大きさ以上の重さを感じるというか。ああ、これはこのままにしておけないと、急ぎ水道水で洗いドライハーブで燻しました。
ふと、重さがマシになる瞬間があり、とても気に入っていた石なので元に戻ると良いなぁと思ったのも束の間
大丈夫かなとクルクルと石を回して観察いると、しっかりとそこに、異形のものの顔が刻まれているのを見つけました。
そして、もうこれは持ってはおけないと、手放すことにしたのです。
一応山のモノということで、お神酒をかけて塩と共に包み、さようならをしました。
あれは本当に精霊だったのか。それとも魔物と呼ばれるものなのか。それは、今のところ分かりません。
手放して一件落着はしたものの、後々に、あの時石を掴んでいなければ、あの顔になっていたのは私の体だったのではと思うと、ヒヤリとします。
石のおかげで救われた。そして、理解及ばぬうちに、不用意に山に想いを馳せるものではないのだな…とも感じるのでした。
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