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怪談16 鴉天狗

先日、夜中にふと目が覚めました。目を開けても特に何もなく、さぁまた寝ようと瞼を閉じると、そこにギョロリとこちらを睨む目が見えました。

これは怖いものなのか?と思いながらじっと意識を集中していると、そこに浮かんだのは鴉天狗でした。天狗を見たことはなく、山から山に天狗が飛ぶのを見たという人の話を聞いては「嘘だ」と思っていたのですが。

怖いと同時に、初めて見た(感じた)天狗の姿に、少しだけ感動したのを覚えています。

わー…と思いながら姿をよく見ると、他に何か大切そうに抱えているのが見えます。それは、顔の削れた大きな生首でした。獣に食われたのか、それとも古くて朽ちたのかは分かりませんが、それでも抱えているのを見ると、大切な人だったのでしょう。

しばらくすると、奥にもう一人、鴉天狗の姿がありました。何も物言わないながらも、どこか悲しそうにしています。

その二人を見ていると、ふと「ああ、帰るところがないのだな」と思いました。

幽霊や妖怪と、話してはいけないと言います。そして、約束もしてはいけないと言います。

しかし、その時の悲しそうな顔を見た私は「じゃあ、あなたたちの好きそうな山を描くよ。他には何も出来ないけど、私は絵が描けるから、山を描くよ。」と心の中で想いました。

なんとなく、彼らにはそうしたかったのです。

そして、遠のいていく鴉天狗たちを感じながら、眠りについたのでした。

次の日。その約束を果たしたくて、一枚の山の絵を描きました。道具は黒のアクリル絵具ですが、山水画を描くのが好きですし、修験に使われたとされる山に行くこともあったため、描き上げる時間はとても心地よいものでした。

あれからしばらく経ちますが、それ以来、天狗たちは現れていません。

描いた絵を前に、この話を知人にした時「あの絵の中で、天狗たちが住んでくれていたらいいね」と言ってくれました。

天狗とは…人間にとってどういう存在なのか。私の中で、まだ全然定まっていませんが。少なくとも、彼らのいる山は険しく、しかし澄んでいる、素晴らしい場所なのではないかと思うのです。

そしてきっと、山を愛する人にとっては、恐ろしくもどこか同じものを大切にしている仲間のような、そんな存在なのかもしれないな…と思うのでした。

奪われることのない山の中で、静かに暮らせ




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