怪談09 女子高生
ある日の夕方。
妊娠していた私は眠気に耐えられず、昼寝をしていました。主人が帰ってくる時間が近づき、そろそろ夕飯を作らなければと起きあがろうとしたときのこと。
ふとベッド横のドアに目をやると、一人の女の子が立っていました。
薄暗い部屋の中に、特徴的なリボンをした、ブレザー姿の女子高生。陰っているような、心ばかり透けたような色合いで、顔は見えない。
それまでも、気配を感じたり、頭の中の映像をそこに見るようなことはあったりしましたが、肉眼で真っ直ぐ向けた視線の先に「幽霊を見てしまった」のは、それが初めてでした。
ホラー映画では、恐怖にキャー・ギャーと叫びながら幽霊から逃げるシーンがありますが、本当に恐い時には声も出ないものだと知ったのはこの時です。
うっ…わ…としか声が出ず、壁までたじろく私の目の前で、その子は扉の向こうにスッと消えていきました。
主人が帰ってくるまでの時間、私は部屋で呆然とするしかありませんでした。
静まり返った部屋には、夕方6時を知らせる地域の音楽と、時計の音だけが鳴り響いていました。
それから10年以上。私にとってそれは「恐怖体験」でしかなかったので、出来れば思い出さないようにしていました。
けれどある時、ふと気になって「あれがもし本当に幽霊で、ここに居たのならば、制服も実在する学校のもののはず」と記憶に残っているリボンを元に高校の制服を検索してみることにしたのです。
そこで、それがとある学校の制服であることが判りました。
その学校は、私と所縁のある場所と近いところにあったため、当時移動した際に付いてきてしまった…のかもしれません。
ただ、この時にはもう子供が大きくなっていたので、本当に実在する制服だったことが怖いというよりも「あの子、あんな遠いところからついてきて、ちゃんと帰れたんかな」という心配と「知らん人に付いてきたらいかんし、ちゃんと家に帰りよ」という何とも言えない親心がムクムクと湧いてきました。
それをキッカケに「幽霊=全部怖いもの」ではなく「幽霊=元は人間」で、ただ迷子になっただけの子もいるのだと思うようになったのでした。
普段は見えていないものが見えたというのは、なかなか不気味な体験です。元は人間と分かった今でも、遭遇したいとは感じません。
ただ、そういうものもいていいし、居るなら自分の場所に帰ってほしい。なぜなら、その人たちにも待ってくれている家族やご先祖さまがいるでしょうから…ということは、忘れずにいようと考えています。というお話でした。
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