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怪談12 海

ある日の夕暮れ。友人と浜辺を歩いていました。

落ちている流木を拾ったり。鳥の羽を探したり。

少しずつ暗くなる浜辺で、のんびりと話をしながら過ごしていました。

夕日が段々と沈み、海の向こうに落ちていく。そして、プツッと小さな陽が姿を消した瞬間、海の向こうから何かがやってくるのを感じ始めます。

姿は見えません。波の音だけが当たりを包んでいます。しかし、真っ暗になりきる海の向こうから波の上を進み、ゆっくりと何かが迫ってくるのだけが分かるのです。

そろそろ、行こうか。

友人に告げ、二人で夕食を食べるためにその場を離れました。

お盆には、海に近づいてはいけない…と言いますが、海を超えた先には、私の知らない何かがあるのだと感じたのは、この時が初めてでした。

数年後。ニライカナイという言葉を知ります。

沖縄の言葉で、海の向こう・海の底にある、神々が住む理想の楽園、あの世のような場所を表す言葉なのだそうです。そして、神女=ノロと呼ばれる人々は、海の向こうにいる神の言葉を聞いて政治を動かしていたのだとか…

沖縄特有の文化とのことですが、個人的には仏教的な極楽浄土の概念が広がる以前にあったのは、人は海に・山に、その人を包み込んでいた場所に戻るという考え方で、それを楽園と呼んだのではないかと思っています。

神様も、その場所と共にいた…いえ、今でも居るもののことを指していたのではないかなと…。


あの時、海の向こうからやってきたものは、とても重たいものでした。けれど、それは私たちが住む前から変わらずに、存在しているもののような気がしましま。

これからも夜になると、きっと、そこにやってくるのでしょう。

私は、神社が好きです。お寺の催事も好きです。しかし、その影で忘れられて、暗く重たいながらも風習の中に息づいているナニカたちのことも、一緒に覚えていたいと

そう思うのでした。


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