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接客業の会話術

 接客業をしていると、沈黙を避けて間を繋ぐためのお客さんとの何気ない会話から、無自覚に相手のデリケートな面に触れてしまうことが度々ある。

ああやってしまったと自己嫌悪に陥る。


一歩立ち止まって、想像するということがどれだけ大事なことかを日々痛感している。




話は変わるが、私は高校生の時から働いてて、自分の生活にかかるお金は全て自分で出している。

私の実家は少し変わっていて、洗濯、掃除、料理は全て各自で行う。決して仲が悪いわけではないけど、互いにあまり干渉し合わない。全員がめっちゃ働いてて、財布も全員別。父、母、私の核家族だけど、社会人3人のシェアハウス、と呼んだ方がしっくりくるかもしれない。



わたし自身、いろんな接客を受けにいく。

そこでの店員さんとの会話で「実家暮らし?一人暮らし?」と聞かれて、実家ですと答えると、「楽で良いね!」とか「じゃあ料理とかあんましないよね!」とか言われる。

実家ですけど家事はやります、と言うと、

「えー!?なんでお母さんがやってくれないのー!?」

と無邪気に驚かれる。しかもまぁまぁ年上の美容師とかネイリストとか鍼灸師とかに。

少しモヤっとする。 


たぶんその人にとっては実家にいればお母さんがなんでもやってくれることが当たり前で、小中学校に居た周りの人もそういう人ばかりの環境で育ったんだろうなぁと。

そしてそれが恵まれていたことに気づかず大人になったのかもしれないな、と。

だれもの家庭環境が自分と同じわけがない。

片親のことだってあるし、親がいない場合もあるし、いろんな事情で高校生から一人暮らしをしている人もいる。

家庭環境はデリケートな問題だ。

だからこそ、想像力を働かせないといけない。

私は、変わってはいるけど自分の家庭環境は面白いと思ってるし、恵まれてるとも思っている。

「えー!?なんでー!?」って言われてもモヤっとするだけで傷ついたりはしない。


でも、もし私に父か母がいなかったら。そう言われたら絶対に傷つくし、ああこの人は恵まれて育ったんだなぁ、と妬ましく思うだろう。

類は友を呼ぶ。学校、特に首都圏の公立や私立校には同じ学力レベルで同じような家庭環境の生まれの子供が集まりやすい。

箱入りで育てられてそのまま仕事に就いた人は、自分たちの育った環境が世の中の標準だと思ってしまう可能性がある。

そう言う人を何人も見たことがある。



他にも例を挙げてみる。

「彼氏いるの?」
『いないです』
「モテそうなのに勿体無い!欲しくないの?」

この会話は、

①私の恋愛対象が男性であること 
②だれもが恋人を欲しがっているという価値観

が前提に置かれている。

10人に1人がLGBTQに該当する世の中で、その人の恋愛対象が異性だとは限らない。

同性が好きかもしれないし、モノに愛情を感じるかもしれないし、自分自身が恋愛対象かもしれない。無性愛者かもしれない。そんなの、見た目じゃわからない。


そんなこと初対面の人に聞くこと自体失礼だけど、聞ける関係性になって、知りたいと思ったならせめて

「恋人はいらっしゃるんですか」

と聞くべきだろう。



「何歳?」
「19歳です!」
「えー見えない!大学どこ行ってるの?」

見た目の年齢と実年齢が剥離している人はかなり多いし、本来年齢は聞かなくていい内容だ。それに、誰もが大学に行っているわけじゃないのは当たり前の事実だ。

高卒で就職しているかもしれないし、専門学校に行っているかもしれないし、フリーターかもしれないし、ニートかもしれない。


私は、美容院などに行って歳を聞かれたら23歳だと答える。見た目年齢がそのくらいだからだ。実年齢を言うと説明がめんどくさくなる。すると
「社会人1年目か!会社はもう慣れた?」
などと言われる。
「あ、そうっすね〜」
などと適当に話を合わせる。


仮に23歳だって、浪人や留年や院進していたらまだ学生かもしれないし、高卒就職で社会人5年目かもしれないし、何もせず家でゴロゴロしているかもしれない。

「きっとこうだろう」と言う自分の価値観を前提とした質問はしないほうがいい。


「普段は何をされているのですか?」などと、オープンな質問方法の方が、より正確で内容の深い話が聞ける。濁すようであれば、話したくないと言うことだからそれ以上触れない。

接客業における会話であれば、正確な情報はサービスに活かすことができる。リピートにつながるような会話の広げ方もできる。

クローズドなクエスチョンをした結果、言いたくない内容をカバーするために少しでも嘘が入り混じった状態で会話が進むと、心の距離はいつまでも縮まらない。小さい嘘をついてしまった罪悪感や気まずさから、足が遠のくかもしれない。

それから、ある程度年齢を重ねた人に対してよくある質問で

「お子さんは何人いるんですか?」


と言うのがある。これを、気楽で便利な質問だと思って、そう簡単に聞いて良いものではない。


「2人だけど、流産しているから、自分の中では3人だと思っている」

「ずっと欲しかったけど、産めない体質で、子供はいない」

こういうケースもある、と言うことを想像できただろうか。

そういう返事が返ってきたら、なんと言葉を返すだろうか。



視野を広く持ち、一人一人の価値観や生活環境は違うと言うことを根本から理解し、世界には自分の知らないことの方が圧倒的に多いと言う前提を持ち、自分の価値観をフラットな状態にし、言葉を発する時は一歩立ち止まって、想像力を働かせること。

これで、少しでも無自覚に相手を傷つける可能性が減らせる。


そして、もし無自覚に固定概念に基づいた質問をして、想像と違う答えが返ってきた時に、咄嗟にカバーする方法を身につけることも重要だ。

「しまった!」という感情は隠そうとしても相手に伝わる。急に腫れ物に触るような対応をしたりよそよそしくするのは1番やってはいけない。

美容院でもネイルでもマッサージでも、カフェでも水商売でも、無限にライバルがいるサービス業において、指名され続けるということは並大抵のことではない。


技術を磨くことは大前提として、「この人と話したいからまた予約しよう」と思ってもらう事から始める必要がある。


そこから、サービスに見合った適切な価格をつけること(安ければいいわけではない)、そしてブランディングを重ねることで固定客がついていく。


自分が気持ちよく話せているならば、それは相手に気を遣わせていると言うことだということを常に忘れてはいけない。(忘れがち!!)


サービス業でお金をいただく側ならば、相手に気持ちよく話させる必要がある。自分のことを話して興味を持ってもらうのは、その上で、であろう。


今までツラツラと書いたことについて、「そんなのは出来て当然、当たり前のことだ」と思う人も居るかもしれない。

だけど、人間の固定概念は思ったより強固に染み付いている。そしてそれは年をとるごとに粘度を増すように思う。


本当に無意識に、地雷を踏んでしまうのが人間だ。踏んでしまってからでは遅い。

だから、常に自分の言動に目を向け、驕らず、謙虚に、成長し続ける姿勢を持たなければならない。

本を読むことで他人の人生を追体験できるのだから、いろんな本を読んでいろんな人生を知ると同時に会話の引き出しを増やさなければならないのだろうと思う。



これは自戒です。


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