新しいバイクの話。
新しいバイクを譲り受けることになった。後期型のBMW R100RS いわゆるモノレバーと言われているモデルだ。
正直なところBMWを増やす予定は全くなかった。
大型二輪の免許を持ってなかったのもあるけども、普通二輪を取って初めて買ったGSX250Rのキャラクターは自分の使い道にすごくあっていたし。デザインもお気に入り。大型バイクの世界に興味はあれど、小型で少し華奢な印象のある250ccクラスのバイクがもともと好きだったのもあって、GSX250Rを乗りつぶしたら大型バイクにステップアップしても良いかなぁぐらいに考えていたのだった。
とはいえ、いろんなバイクが好きだし、原付きを除けば、まだバイクを乗り出して2年目なのであのバイクが気になるとかこういうバイクが好きとか妄想は止まらないわけで、Twitterで空冷のフラットツイン2バルブのBMWも好きなんだよなぁと呟いていたら、縁が出来てしまい初めての大型バイクがBMW R100RSとなってしまった。
正直なところまだ信じられなくて、今でも自分がBMWオーナーになる実感がない。
BMW R100RSというバイク
自分がバイクが好きになったのは高校生ぐらい、2006年前後なので当時は排ガス規制もあり2ストを初めとした多くのスポーツモデルのバイクが引退し、ビッグスクーターブームの全盛期といったところ。
当時の自分はレーサーとレトロ趣味が強かったので、当時好きだったのはRC166のような往年のレーサーやキノの旅直撃世代だったのでブラフ・シューペリアのようなレトロなバイクに、GSX-RやNSRのようなレーサーレプリカだった。
バイク熱は上がっていく一方で、自分が生まれる前のバイクブーム時代に母方の親戚がバイク事故で死んでいて、母親はバイクに猛反対。
自分がバイクの本を読んでいるのを見るだけでもヒステリーを起こして半狂乱になってしまうぐらいだった。
そんな母親だったが、サイドカーなら転倒しないから乗っても良いと言っていたのと(サイドカーなら転倒しないなんていうことはないのだが)
ミリタリー趣味もあった自分はとあるバイクに興味が湧くことになる。
BMW R75だった。
レトロな外観に、他のバイクにはないシャフトドライブ機構は特別に思えたし、見た目も格好良い。そして特徴的な水平対向エンジン。
インターネットで検索するとBMW R50も格好良いし、BMWのバイクをちょっと調べてみようと思い買ってみたのがエイ出版の「BMW OHVボクサーの世界」で、表紙のBMW R100RSの愛嬌のあるフルカウルデザインと特徴的な2バルブOHVのフラットツインにちょっと惹かれたのだった。
BMW R100RSをバイク史と絡めながら教科書的に紹介していこう。
第二次世界大戦の終結で、多くの復員兵が市民生活に復帰した1950年頃
アメリカは、復員計画の中で多くの支援を受けた元兵士の若者たちは、経済的な自立とともに大きな購買力を持つようになり、市民生活では手に入らない危険な軍隊生活でのアドレナリン分泌の代替手段としてレジャーとしてのバイクが人気を集めるようになっていく。
(これがアメリカやイギリスでのアウトローライダーの母体にもなっていくらしいのだが今回はとりあげない)
そんな中、戦争の痛手から回復を模索していたイギリスのトライアンフはアメリカ市場に6Tサンダーバードを投入。
サンダーバードの650ccのツインエンジンは当時のヨーロピアンバイクからすると大きな排気量を持つハイスピードマシンで、ハーレーやインディアンよりも軽快で速いトライアンフのバイクはアメリカ市場で大ヒット、ヨーロピアンスタイルの大型バイクの需要が誕生し、トライアンフはアメリカ市場を意識した大型バイクを次々と投入、これを見ていた各国のバイクメーカーもアメリカ市場に参戦しBMWもR69などの北米モデルを投入していくことになる。
当時のバイクでユーザーを最も魅了した性能は最高速度性能であり、各国のバイクメーカーがビッグモデルを投入し続けた結果、バイクは最高速度性能を競い合う時代へ突入していくことになっていく。
日本メーカーが海外市場で躍進を始めるのもこの頃で、前述の通りアウトローのイメージが付いていたバイクへのアンチテーゼとなった”ナイセスト・ピープル・キャンペーン”とスーパーカブはホンダの北米市場進出成功の原動力となり、カワサキもアメリカ向けのモデル、2ストロークスポーツの250A1サムライの輸出開始、妥当トライアンフを目指したA7 アベンジャー等次々と新型モデルを投入、ホンダもビッグスポーツのCB750FOURを出せばカワサキも対抗モデルとしてZ1を出し、いつしかバイクの最高速度は200km/hに到達するほどに。とはいえマニアならご存知の通りこれらの開発競争はエンジン主導で行われ、フレームやタイヤ、ブレーキ、チェーン等の部品は熟成不足で、故障や不具合が多くオーバーに言えば200km/hを出すのは命がけの時代だった。
このあともバイク最速競争は続き、80年代にはトップガンで有名なGPZ900Rの登場、20世紀の終わりに隼による300km/h時代の突入していく。
一方で、ただ最高速を求めるのではなく200km/hでも快適な巡航を目指したのが1976年に登場したBMW R100RSだ。
BMW R100RSといえば市販車世界初フルカウルマシンであり、初めてツアラーというジャンルを確立したバイクとして有名だ。
(というふうに雑誌ではよく書かれるが実際にただフルカウルというだけであれば50年代に少数ながらヴィンセント・ブラックプリンセスが試みていたり、グランドツーリングモデルもホンダのゴールドウィングのほうがちょっと早かったりするのだが、現代的なフルカウルでライダーを風から保護して長距離ライディングに主眼を最初のモデルという意味ではR100RSが最初だろう)
BMW R100RSはBMWの新世代のフラッグシップマシンとして大きな影響を与え、BMWといえばツアラーのイメージを作ったバイクで、R100RSの少し前に発売されたロケットカウルのドゥカティ 750SSと共にバイクメーカーにカウリングというトレンドを生み出したと言って良いバイクだったが、同時に進化の袋小路に入り込んでしまったバイクでもあった。
元々イギリスのダグラスの水平対向エンジンの模倣からスタートしたBMWの空冷2バルブフラットツインは長年の熟成と共に大型化を迎え1000ccとなった一方で、日本車メーカーが中心となって水冷化と大型4気筒化が進んでいて排ガス規制も年々強化されていくと、伝統のフラットツインも性能向上の限界を迎えてしまったのだ。
そこでBMWはフラッグシップモデルを水冷4気筒のKシリーズに移行し、フラットツインは排ガス規制に対応しやすいミドルクラス専用にシフトするためR100RSは1984年に終売することになったのだが、BMWの元にはユーザーからフラットツイン存続を望む声が毎年届きその声に押される形で1986年にBMW R100RSをモデルチェンジして再販することに、これが今回新しいバイクとなることになった後期型のBMW R100RSで、BMWは1993年には完全新規設計のフラットツインを導入し現在に至るまでBMWのイメージを支えることとなってしまう。
(最もR100RS人気は日本のもので海外ではR100RTのほうが主流のようだったみたいだが)
加熱した性能競争に疲れたユーザーが絶対的な性能ではなく個性の強いバイクを求め始めた転換点にあったのもBMW R100RSというモデルだったのかもしれない。
奇しくもこの流れは同じドイツのカメラメーカー、ライカのモデル変異と非常によく似ている。ライカもM4でフルマニュアル機械式レンジファインダーカメラが成熟してしまい、新しいデザインで露出計内蔵のM5や日本メーカーのような一眼レフライカフレックスを投入するも市場には受け入れられず、経営破綻、1978年にM4を復刻したM4-2を投入し、マイナーチェンジ機のM4-P M4スタイルを維持して露出計を内蔵したM6などを出し続けて経営を回復、デジタル時代になった現在でもマニュアルフォーカスのレンジファインダーのデジタルカメラを出し続けている。
現在のBMW R100RSの立ち位置
さて、現在から見たBMW R100RSはどういうバイクだろう。
後期型のBMW R100RSは排ガス規制でパワーが削られ、オリジン具合が低いことから初期型の通称ツインサスと比べると生産年が新しいこともあり、やや格が低い扱いを受けることも多かったが、後期型の最終年でさえ1992年と30年以上前のバイクで、基本的には足回りを除けば70年代の設計のバイクであり、旧車、場合によってはクラシックバイクと呼ばれることも増えてきている。ただ、その年式の割には社外品を含めればパーツ供給は豊富で新品で多くの部品が手に入るし、絶版部品を取り合っている同年代の2ストレプリカや国産車と比べれば、安価で供給も安定していて部品面ではどうやら困ることは少ないようだ。
ただ問題は、古い構造の分現代とは違う設計思想で作られているバイクなので、R100RSのような世代のバイクを触れるメカニックやショップが減っていることだろう。
二輪館のようなお店ではこのようなバイクの重整備は難しいだろうし、ディーラーでも受け付けないという噂を聞くし、個人店は高齢化やバイク人口の縮小でどんどん減少傾向にあるし、10年後とかにはBMWで有名なショップも後継者がなくて廃業ということもあるかもしれない。
お店の方からすれば旧車はパンドラの箱のようなもので、自分のショップで販売して手掛けたバイクならまだしも、経年劣化によって何もしてないのに壊れたが起きるかもしれないようなバイクを預かって整備するのはリスキーだし、預かったとしても修理の見立てや部品集め、場合によっては専用の特殊工具を手配しないといけない大変なバイクはどうしても作業は後回しになるだろう。
一方ユーザーからすれば修理してほしいだけなのに、見積もりも出ないし1年経っても修理が終わるかわからないなんていうことになるかもしれない。
ショップとユーザーの持っている情報量や知識の差が大きいため、この溝が埋まることはないだろうし、今回の僕のような個人間取引のバイクなんか扱いたくは無いだろう。
幸い構造は単純なバイクなのと、オイル交換やフルード交換やパッド交換等の基本整備は今の自分のバイクでもやっているし、必要なマニュアル等の資料もある程度譲り受けているため基本的な部分は自分でもできるとは思うが、自分の技量も向上させないと行けないし、自宅では難しいエンジンのOH等は、事前に任せられるショップを探して整備をお願いできるような人間関係をしっかり構築しないと行けないかもしれない。(少なくとも町のバイク屋にいきなり持っていって見てもらえる類のバイクではないだろうし、シャフトドライブでホイールがブレーキを兼任している特殊構造なので場合によってはタイヤ交換さえもお店によっては断られそう)
正直な話 BMW R100RSを所有するのは楽しみ半分 不安半分といったところだ。
どんなに好きなバイクでも自分と合わなければ直ぐ手放してしまうかもしれないし、特に思い入れのないバイクがフィーリングが合って一生のバイクになってしまうような世界。
不安はあれどR100RSが自分にとっていい出会いであることを祈っている。