馬を鹿だというネットの口コミ
先日、親孝行もかねて、ある老舗の名料亭で食事をしてきた。
その料亭は、なかなか高額な料金設定で、私も人生初の体験だった。
その料亭について、ネットの口コミでは賛否両論であった。
褒めている人は星5つが多く、
褒めていない人は星1つが多かった。
褒めていない人の口コミで共通して度々登場していたのは、ある料理のことだった。
「これだけの金額を払わせて、メインのところで家庭で誰でも簡単に作れるこんなもの出してくるんですか」
という内容で、写真もセット。
同じような料理の写真がいくつもあって、、、写真だけ見ると、確かになぜこの料亭がこれ、つまり安っぽいこの料理にこだわるのか不思議に思えた。
でも、私の気持ちは揺らがなかった。
このお店は良い。
そう直感していた。
いざ料亭に足を運び、1つ1つ運ばれてきた料理を食べていくと、どれも初体験といえるもので、とても美味しい。
さて、例のものが出てきた。
口コミの写真ではわからなかったが、我々が一般に知っているあの料理と大きさがちょっと違った。
そして、色合いも、味も、食感も違った。
一見、誰でもつくれるあの家庭料理である。
でも何かが違うのである。
聞いてみた。
食材の産地からして、稀有なものであった。
そして調理法はとても素人には真似のできないものであった。
とても、家庭では食べられる代物ではなかった。
五感全てがそう言っていた。
紙一重の差が、天地ほどの差に広がっていた。
むかし、むかし、
中国の秦の二代皇帝の胡亥に、
「これは馬です」
と言って、「鹿」を献上した趙高という丞相がいた。
胡亥は当然
「これは鹿ではないか」
という。
しかし、他の家臣たちは口を揃えて
「これは馬です」
と言う。
家臣たちは趙高の権威を恐れて、鹿を馬という。趙高は自分の権威を確認するために、あえて鹿を馬と言わせる。
この出来事が「馬鹿」という言葉の由来になったという説がある。
しかし、このときは、王の胡亥も趙高も家臣たちも、馬と鹿の違いはわかっていた。
みんなそれが鹿だとわかっていた。
それに比べて、今回の料亭の口コミで、あの料理を批判していた人たちは、馬を本気で鹿だと言い放っていたのである。
そういう口コミを信じる人も、やっぱり馬を本気で鹿だと言い放つ人なのだろう。
それで、同じような写真も口コミが増えていく。
しかしそれでも、この料亭はいつも賑わっている。
馬を馬だとわかる人が集まっているから。
だからこの料亭は、馬を鹿だという口コミなど、相手にしていない。
価値がわからない人がまた1人増えた、というだけの話なのである。
この料亭に学ぶことは実に多い。