名古屋市長選を振り返る〜推薦政党支持率2%未満の候補が自公立国推薦候補を破った理由〜
渡瀬裕哉さんに「その通りだと思います。」とお墨付きをいただいたことを誇りに思います。
党か、政策か。
名古屋市長選において、広沢一郎候補が20時に当選確実とした。いわゆる「ゼロ打ち」である。現在名古屋市では市長不在のため、すぐに任期が始まる。まずは広沢一郎市長の誕生に祝意を表す。(以降、原則「広沢市長」と表記。他の方は「元候補」と表記)
一方、選挙戦前の下馬票で圧倒的有利とされていた大塚耕平元候補の票は伸び悩んだ。投票用紙に理由を書く欄は無いため、100%これが正しいと言える理由は誰もわからないが、私なりの分析を書き綴る。
はじめに:もしも推薦政党支持率通りに支持されていたら?
今回、広沢市長に対して日本保守党が、大塚元候補に対して自由民主党・公明党・立憲民主党・国民民主党が、尾形元候補に対して日本共産党が、それぞれ推薦した。
こちらに選挙ドットコムが実施した、今月の政党支持率調査がある。名古屋市民がその通りに支持し、その通りに投票がなされたものとして考える。
まずは電話調査から見ていく(カッコ内は得票率)と、
広沢候補→1.7%(53.4%)
大塚候補→52.7%(35.6%)
尾形候補→5.1%(7.3%)
その他候補・浮動票→40.5%(3.7%)
ネット調査だと、
広沢候補→1.5%(53.4%)
大塚候補→33.8%(35.6%)
尾形候補→2.2%(7.3%)
その他候補・浮動票→62.5%(3.7%)
となり、どちらにせよ圧倒的に大塚元候補有利だった。
しかし、現実にはそうはならなかった。その源は投票行動という民意に他ならない。
個人的に面白いなあと思うのは、左派と呼ばれる日本共産党支持者の約4人に1人が、右派と呼ばれる日本保守党推薦候補者に投票していることである。それほどまでに減税というのは全世代に訴求効果が大きいのだ。
①争点となった「定義」
広沢市長は当初より、終始一貫して「河村市政の継承」すなわち減税を訴えた。ポスターも変わらない。
一方で大塚元候補は、途中でポスターを貼り替え、「元祖減税派」という謎ワードが途中から出てきた。「手取りを増やす」とも言い始めた。そんな大塚元候補には、SNS上で次のような声が挙がった。
「減税派だと言うなら、市民税を何%減税するか数値で示せ」
「減税派なら広沢候補の応援をすれば良い」
「給食費や敬老パス無償化は『手取り』とは言わない」
「あなたの古巣の榛葉幹事長は『取ってから配るなら最初から取るな』と言っている、これが減税だろう」
これらの声に対し、大塚元候補は説明責任を果たさなかった、というのが今回の投票行動における民意であろう。
②敵に回した「民意」
説明責任を果たさずにダンマリを決め込むだけならばまだマシであるが、大塚元候補は悪手を打ってしまう。「ここがおかしいと思うから教えてくれ」という声に対して、支持者ともども「デマ」という表現をしたのだ。
仮に納得がいかなくとも、説明責任を果たせば一定の支持は得られる。その根拠は、不倫騒動を経て、国民民主党・玉木雄一郎代表が何故議員を、代表を続投できているか、である。しかし大塚元候補は「デマ」と言って、説明責任を果たさず取れる票を逃した。有権者を馬鹿にしては選挙で勝てない。
有権者を馬鹿にしたのはそれだけではない。ここに大塚元候補の選挙公報がある。
大塚元候補は過去5回の民意をもって選ばれた河村市政に対して、「15年の催眠術から市民を解放」と発した。まるでそこに民意は無かったかのように。民意を軽んじた者は政治家になれない、この名古屋市長選でよくわかっただろう。
選挙戦最終日、実際に大塚候補支持者と大塚候補不支持者にアンケートを取った結果がこちらである。
【支持者】
https://x.com/917ervqs/status/1859992365433606179?s=46&t=d6PwdcSM0uZTpjaSqpwTwg
【不支持者】
https://x.com/917ervqs/status/1859977194132672669?s=46&t=d6PwdcSM0uZTpjaSqpwTwg
ご覧の通り、支持者・不支持者どちらも、選挙公報の文言に問題があると考えている人の割合が一番多い。多面的・多角的に見てもやはり、問題のある表現だったのだろうと推察される。
③払拭しきれなかった「自己矛盾」
先に述べた通り「減税」「手取り」の定義で矛盾を抱えた大塚元候補だが、残念ながら市民が抱えたであろう最たる矛盾はそこではないと考える。「推薦」だ。
推薦をしたい、と言われた時、受けるかどうかは候補者が選べる。何故大塚元候補は、つい4週間前に激戦を繰り広げた自公立国全ての推薦を受けたのか、無所属無党派の私には全く理解できない。
私は投開票日当日、京都府福知山市で行われた地域政党サミットへと参加していた。
第12回となる今回は石丸伸二前安芸高田市長をゲストスピーカーとして迎えた。
石丸氏の話の中で、大塚元候補を思い起こさせるようなこともあった(勿論、投開票日に名前は出しておらず、あくまで「例示」にすぎないが)。
この講演内容をもとに推測すると、石丸伸二氏は名古屋市長選において、大塚元候補がもし市長になっていたら「まともな政治が生まれない」と考えている、と言えるだろう。
無所属で市長になり、都知事選に出馬した方のリアルな、冷静な見方だ。
またもう1つ付け加えるなら、この画像をSNSで見る機会が多かった。
私に言わせれば、順序が違う。検証や判断は立候補の前に行うべきだ。なってから考えます、では、有権者は何を基準に票を投じれば良いのか。メディアが賛否を聞くような重要なことが決まってないのに、選挙に出てはいけない。有権者に失礼である。
つい2か月前まで「検討使」と呼ばれていた人が首相だったことをもう忘れたのか、と言いたい。
④「実績」に勝る詭弁なし
国民民主党は「手取りを増やす」を掲げ、4週間前の衆院選で議席を大幅に増やした。だが、まだ特別国会が開かれたのみであり、日本国民の手取りは1円たりとも増えていない。
一方で、河村市政において15年間、実際に行われたのが市民税減税であり、手取りを増やし続けてきた。今回、名古屋市民は実績に民意を託したと言えよう。
では何故、期待値よりも実績が上回ったのか?常にそうなるなら、自民党が過半数割れすることなどあり得ない。
時を河村市長誕生の2009年に戻そう。この年、国政では何があったかというと民主党政権の誕生である。ご存知の通り、既に「民主党」は無い。残るのは「詭弁だった、出来なかったよね」という、故・安倍晋三元首相が「悪夢の民主党政権」と発したことに象徴される評価のみだ。
その頃から先月に至るまで、時に議会解散をしてまで一貫して減税政策を続けてきたのが「河村たかし」前名古屋市長である。名古屋市民にとって、減税は裏切らない象徴なのだろう。裏切らない象徴を「効果を見定めて検証」や「反対」と言う候補は、民意に支持されなかったということだ。特に、その頃民主党の参議院議員だった大塚元候補に対しては、強く、強く反発しても不思議ではない。
⑤今後の「政/勢」展望は
まず「名古屋市政」であるが、とりわけ何も変わらないのではないか。
現在の名古屋市議会(定数68)において、広沢市長を推す減税日本ナゴヤが占める割合は13%に過ぎない(9名)。大塚元候補を推した自公立国で50名が民意を得ている名古屋市議会で、そう簡単に市民税10%減税が通るとは思えない。かつて河村前市長はリコールまでしたのだ。
続いて「党勢」である。自民+公明、立憲が衆院選から僅か4週間で政令指定都市長選で手を組み、負けた。これは政党政治不信を招くだろう。
また、代表、幹事長、地域選出の衆参両国会議員が、4週間前の選挙で民意を得た「手取りを増やす」政策の定義を曲げてまで応援した国民民主党は、これで党ではなく政策が日本国民に支持されていることが顕著になった。この結末は皮肉にも、代表の不倫騒動と同じである。
とりわけ苦境に立たされるのは、「手取りを増やす」を掲げて初当選した愛知県の3名、日野さりあ衆議院議員(愛知7区)、丹野みどり衆議院議員(愛知11区)、福田とおる衆議院議員(愛知16区)だろう。
彼らには国会議員としての実績がまだ無い。にもかかわらず、誰1人異を唱えず、自分達が4週間前に得た民意と異なる政策方向性の大塚元候補の応援へと入った。
特に福田衆議院議員は、私も開票立会人を務めたが、4週間前の選挙戦で当確が出たのが24時過ぎと薄氷を履む勝利、まさに辛勝だった。ほんの少しの行動の変化で、ひっくり返るとしたら愛知16区の彼からである。
最後に「国政」である。先の国民民主党の大躍進は、党ではなく政策が支持されたものだ、という認識が広まれば、大きな党こそそれだけブレーンがいるのだから、良い政策を掲げるようになるだろう。小さな党は差別化できなくなれば淘汰されるだろう。
また胡座をかき始めるまでの間、短いかもしれないが政党政治ではなく「政策政治」が進む。このことから、広沢市長の誕生はひとまず日本国民にとってプラスに働くだろう、というのが私の見立てである。
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