見出し画像

核融合ロケット研究(14)/どこに向かうのか&補遺

ここまで、核融合ロケットの現状などを紹介してきましたが、今後どうするかですね。要は、核融合ロケットをなるべく早く実用化すれば良い。それに少しでも貢献できないか。今のところ以下のものでしょうか。私の個人的な見解です。
 米国とは、何しろマンパワー、資金も全然違う。アラバマ大学は、Propulsion Research Centerを持っているが、我々は、研究室の一部を使用し、核融合ロケット関連の院生は数名程度、これを教員が面倒を見ている。何かあれば、相談に乗っていただける先生方が、数名程度。IHIさんに、数年来ご協力いただいていて、これは企業で初めてで、大変有難い。(As of Oct. 2022) できる努力はやっている。しかし、日本は、2050年に核融合実用化とゆったり構えているので(私には、そう思える、今研究している年配の研究者は、もうその頃にこの世にほとんどいない、悪いけど)、今までもそうだし、今からでも核融合ロケットの関心は低い。一方、アラバマは、2040年実用化に意気込んでいる。
 別に日本人科学者がどうのこうのと期待するよりも、NASA/Adams, Univ. Alabama(PuFF)に協力した方が早いし、hybrid/diry fusion(targetにUを配置)でもあるけど、ここでの経験は、今後のpure/clean fusionにも生きる。特に、磁気ノズルのところ。(しかし、hybrid targetは、Adamasさん以外は、アンタッチャブル)
 なので、水素だけでなく、Uプラズマも磁気ノズルでシミュレーションを行い、彼らの主張するaxial nozzleのシミュレーションも、実験もやってやろう。せっかく、10月から、Alabamaより研究員がこちらに来たので。性能が良くなければ、そう伝えよう。一方、レーザー核融合の独自路線を続けるのもあろう、余裕があればだが。しかし、これはなかなか先が見えてこないので、苦しい。
 もうこちらの計画は、今すぐ変えられないので、出来るところから共同研究を始めよう。もちろん、彼らの年次計画を確認してから。
 私は、以前から、2030年代に核融合ロケットの実験機を飛ばすことを願っていたので、PuFF型で地上で危険なら、月でやることになるのでは。

補遺:何しろ新入生の入門・ガイダンスの目的もありこの記事を書いていますので、これだけは知ってほしいということも書いてみます。

■レイリー・テイラー不安定性の体系/ 磁気ノズル:
 水(密度大)が上で、油(密度小)が下、重力加速度が上から下にかかっている体系では、ポテンシャルエネルギー的に、油が上で、水が下の方が安定、なので、少しの乱れが境界面にできると、乱れが成長し、油と水が入れ替わろうとします。
 我々の場合、磁気ノズルでは、油が真空(磁場)、水がプラズマに相当、磁場によるプラズマ膨張の減速がかかっているので、加速度はプラズマから真空の方向。そうすると上と同じ条件が成立。ネットからの不安定性成長の図を表示しています(図1,時間は右に進む)。青色が油に相当、bubbleとなって上昇、赤は、水に相当、jetになって突入。


図1レーリー・テイラー不安定性の成長過程・ネット

不安定性の体系でも、摂動・乱れも小さければ、不安定性も発達しません。前に紹介しましたNagamineの論文、64p右ランに、初期プラズマに、2%摂動、m(mode)=50(周方向に50の凸凹)を与えましたが、結果的には、不安定性は、発展しませんでした。後から思えば、mode数が大きすぎて、また乱れが細かすぎて、メッシュに反映されず(メッシュを細く切れず)、ならされてしまったからではないかと、推測します。
 実際問題として、推進剤などの乱れ・凸凹がどのくらいかを今後検討し、それを初期に与えての計算が必要かと、思います。しかし、今は、3D printerの性能が上昇し、初期の・乱れは、小さいものと期待します。

Yoshihiko Nagamine and Hideki Nakashima, "Analysis of Plasma Behavior in a Magnetic Thrust Chamber of a Laser Fusion Rocket ," Fusion Science and Technology 35, 62-70 (1999)

■核・遮蔽設計:

 DT核融合燃料を使用(ゲインが大きいので)する時、T(Tritium)を少しでも船体・ブランケットで生成したいのですが、何しろ、VISTA typeでは、DT反応で放出される中性子の船体を見込む立体角・占有角は、4%にしか過ぎません。なので、ほとんどの中性子は宇宙空間に放出され、船体・ブランケットにLi含有物質を装荷してもT 増殖率は、0.04程度です、1.05は必要ですが。これを回収して、またペレットに装架するのは、あまり利点がないと考えられます。従い、Tは、最初から必要量、持っていくことを考えています。トリチウムの専門家と議論したところでは、これは、非現実的ではなさそうです。

 Tを増殖することを考えなければ、ブランケット・遮蔽体の材料の選択に自由度が増します。我々の設計では、中性子の吸収・遮蔽性能、熱的安定性を考慮してB4Cを選びました。今は、コードが整備されていて、PHITS、計算も随分便利になりました。詳しくは、下記の資料の3章をご覧ください。B4C中の核発熱分布などが示されています。

小特集レーザー核融合ロケットの原理実証研究(プラズマ・核融合学会誌vol97 2021/11)(pdf)
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2021_11/jspf2021_11-jp.pdf

■エネルギー回収・pick-up coil:
 レーザーを連続的に発射するためには、最初は、小型原子炉で電気エネルギーを供給しますが、その後は、図2に示しますように、核融合のエネルギーの一部を磁気ノズル・スラストチャンバーにおいて回収し、次のレーザー発射に使用します。その時に用いるのが、ただのコイル(conducting sheet of beryllium)、pick-up coilです。ファラデーの電磁誘導の法則を利用しています。回収原理を図3に示します。最近、hybrid codeにpick-up coilの回路を組み込み、回収効率を池辺くんが評価しました。定量的に書けないのは、残念ですが、まだ論文にしてないからです。


図2エネルギー・フロー


図3エネルギー取り出しの原理/pick-up coil

■detachment/デタッチ:
 図4/Katsuraに示しますように、最終的には、イオン、電子とも磁力線から離脱(detachment)しないと、推力は発生しません。黄色線はコイル、黒線は磁力線を示します。イオンは、ラーマー半径(磁力線に巻き付く時の半径)は、大きく、磁力線が戻って来てもそのまま離れていき問題には、なりませんが、電子の場合は、ラーマー半径が小さく、磁力線に沿って、そのまま戻ってきて、船体が負にcharge-upし、最悪の場合は、イオンを引き戻す可能性があります。
 この問題は、随分前から指摘されていたのですが、最近、児島君が2D full PIC code(2次元、電子、イオンとも粒子で取り扱う)を用いて、シミュレーションを行い、本当に電子も離脱するのか検討を行いました。残念ながら、3次元シミュレーションは、計算資源的に現段階では無理です。


図4デタッチ模式図

少しづつでも、研究の進展があるのが楽しみです。


いいなと思ったら応援しよう!