核融合ロケット研究(15)/hybrid target 解析手法
磁気ノズルだけでなく、我々も、炉心、つまりターゲットについては、関心があり、以前から検討を行って来ました。それをここでは、少し紹介します。
ターゲットに核分裂性物質を装荷する(hybrid target)。これは、NASA AdamsさんのPuFF設計案にもありますが。普通は、pure DT燃料です。しかし、これにU, Puなどを装荷すると、核融合点火が容易になったり、n+U=fissionの反応により、核分裂エネルギーも追加され、エネルギー発生量は増加します。
このプロセスの解析・シミュレーションのためには、従来のpure fusion code/implosion code(爆縮流体コード)に、中性子輸送コードをカップルさせる必要があります。以前、我々は、中尾さん(九大・名誉教授)のグループとこの件・運動する高密度媒質中の中性子輸送について検討し、流体コードとカップルさせて、統一コードを作成し、シミュレーションを行っています。ただし、Uなどは装荷していませんでした。この中性子輸送の定式化は、以下の中尾さんの2個の論文にまとめてあります。DT反応で生成される14MeV中性子のターゲット/pellet中の輸送・エネルギー付与に関心がありました。
当時は、城崎さん(現広大・教授)が研究に参加され、エネルギー付与について定量的な論文も書いています。以下の論文3)参照。ILESTA implosion code+n transport codeの統一コードを使用。
Uのfissionも考慮することは、それ程難しくはないかも知れませんが、複雑なのでは。Uのfissionで、Uが膨張し、DTを圧縮、すると核融合反応が進む、すると中性子が多量に発生、それによるUのfissionと、feed backがかかるので、面白いが、ややこしい。我々の方は、ただもう、今は資料が散逸して、すぐには、hybrid target(DT+U)のシミュレーションは難しいでしょうが、できないことではありません。もちろん、他のグループでもその気になれば。ただ、核分裂性物質を生成するのが課題か、しかしやる人がいてもいいのでは。
1)Y. Nakao, et al., Calculational method for neutron heating in dense plasma systems, (I). Model and formulation , Journal of Nuclear Science and Technology Vol.30, No.1, p.18, 1993
2) Y. Nakao, et al, Calculational method for neutron heating in dense plasma systems, (II), Application to Burning D-T Pellets
Journal of Nuclear Science and Technology, Vol.30, No.12, p.1207, 1993
3)T. Johzaki, et al., Effects of neutron heating on ignition and energy gain of laser-imploded D-T pellets
Laser and Particle Beams 15(02):259 - 276, 1997
もともとは、DD, D3He核融合燃料いわゆるadvanced fuel(先進燃料)がなかなか燃えないので、pelletの中心にDT燃料(ignitor)を置き、まずDTを点火させて、DD, D3He main fuelを燃やそうとしたのです。その時に出てくるDT14MeV中性子がどの程度 、周りのDD, D3Heを加熱・点火するのかを調べました。
4) T. Shiba, et al., Burn characteristics of D-T ignited D-D and D-3He fuel pellets for inertial confinement fusion reactors
Nuclear Fusion 28(4):699, 2011
このDT ignitor/DD or D3He main fuelのpelletについて、高速点火方式についても中尾さんにより検討が行われています。上図右。(高速点火については、これからnoteを始めます 参考文献2参照)結果として、Driver energy ~7MJ, Pellet gain~97と、得られましたが、やはり、Driver energyがDTに比べて、かなり大きくなります。また、特筆すべきは、D3He反応で生成される14.7MeV protonのプラズマ中の減速を計算する時には、通常のクーロン散乱だけでなく、核弾性散乱:nuclear elastic scattering (NES) の効果を考慮すべきと言うことです。 NESを考慮しないと、gainは、非常に小さくなり、過小評価します。
5) Y. Nakao, et al. IGNITION AND BURN PROPERTIES OF DT/D3He FUEL FOR FAST-IGNITION INERTIAL CONFINEMENT FUSION
FUSION SCIENCE AND TECHNOLOGY VOL. 56 , 401,2009
と言うことで、我々の関心は、ターゲット中での中性子、もっと一般的には、反応生成物の輸送・加熱過程に関心があり、先進燃料について、検討を続けて来ましたが、DTに比較して、なかなか燃えてくれないなあという実感があります。
先ほど、NESのことも書きましたが、先進燃料を効果的に燃焼させる、新しいメカニズムの提案など、今から色々と出てくることを期待します。
これを、核融合ロケット設計の面から見ますと、ーーー
荷電粒子が磁場と相互作用しますので、磁気ノズルの観点からは、利用できる荷電粒子のエネルギーが大きいかがポイントとなります。
DT燃料では、レーザー1MJでGain=200、αp(荷電粒子割合)=0.3なので、
Ech(荷電粒子エネルギー・推力に利用可能エネルギー)=1x200x0.3=60MJ
となります。
一方、DD、D3He燃料では、レーザー1MJでGain~0、αp=0.6~0.9ですので、
Ech=1x0x0.9~0MJ
となり、推力を得ることができません。従って、同一レーザーエネルギーに対して、利点の指標(FGM:figure of merit)は、
Gainxαp
が大きいことです。
それで、こちらは、hybrid blanket。ボーイング社の特許で、ネットで見れますが、詳細はわからない。レーザーでDT targetを照射して、核融合を起こすのは、我々と変わらないが、balnket/shield 多分、図の20の所にUなどを置き、DT14MeV高速中性子で核分裂を起こし、発生する熱エネルギーを回収するようである。地上用では、随分前から、私が学生の頃、約50年前からhybrid blanletの構想はある。Uなどを用いれば、blanket energy gain(=発生エネルギー/ 入射中性子エネルギー)は、10程度は、比較的簡単に(核設計上は)得られるので。
6) H. Nakashima & M. Ohta, Energy Multiplication and Fissile Production of D-D Fusion-Fission Hybrid Reactors , Journal of Nuclear Science and Technology, 15:10, 791-794, DOI: 10.1080/18811248.1978.9735591
しかし、しかし、記事には、coatedとあるので、Uは、薄い層か。あまり薄いと中性子は相互作用することなく、抜けるのでは。また、自由空間で、核分裂が起きれば、放射性物質が飛び散り、周りが汚染されるのでは。熱エネルギーが欲しいのは、電気エネルギーに変換して、次のレーザーを発射するため。
ボーイング社もどんどん、このアイデアを進展させてくれれば面白いと思います。これ以外にも、他に、色々、新しいアイデアが出てくるのを期待します。
それにしても、つくづく思うのは、核分裂は、本当に理想的なエネルギー源である。Uを置いて、中性子を当てればエネルギーが発生する。しかも、ある程度のUを集めれば(臨界とすれば)、連鎖反応が可能である。温度を1億度とか上げる必要がない。放射性物質(廃棄物)を発生するのが玉に瑕だが。
原爆とかは、火薬でUなどを圧縮すれば(超)臨界になり、大きなエネルギーが発生する。今でも、原爆を推進に使おうと考える人は、ずっといる。前にも述べましたが、Orion Projectは、1950年頃に非常に熱心に検討された。