へバーデン結節ミューカスシスト(粘液嚢腫)手術記録

手術当日

―手術が始まる―

お昼を食べ、人気のない整形外科外来の待合室でひたすら待つ。
午後2時20分になると、看護師さんに呼ばれて診察室に入った。中に看護師さんの他には誰もいない。
手術するのは右手なので、左腕に、血管確保のためのポートを作られた。(写真を取っておけば良かったけど忘れた)
あとは、手術箇所の確認として右手の患部に目印シールが貼られ、左手首には、名前とIDが印字されたリストバンドが巻かれた。
その後また外の待合で待ち。
午後3時頃、ついに看護師さんに先導されて、別の階にある手術室へと向かうことになった。

まずは、手術室に隣接した更衣室で手術着にお着換え。自分の着衣はパンツだけで、用意されたピンクの手術着に着替えた。頭には不織布の帽子をかぶって、髪の毛を全部収めた。
(なんか、前回の手術と随分違う……。前回は手術着にも着替えなかったのに。)
不安感が増してくる。
サンダルに履き替え、ロッカーに鍵をかけて、ここから手術室の看護師さん(以後オペ看と呼ぶ)に連れられて手術室へ。

――そこは、医療ドラマで見るようなガチな手術室だった。

いやこれ、かんっぜんに手術室なんですけど!!こんな大ごとになる手術なんて思わなかったわ! たかがへバーデン結節の、関節に一本メス入れて終わり、みたいな手術に何これ!
前回、同じくへバーデン結節で左手を手術したときは、土足のままで手術室に入り、手術着にも着替えなかった。下足を脱いで直接手術台に上がったし、もっと全体的に軽い雰囲気だったんだけど! スタッフも、医師と看護師一人くらいだったんだけど。(大学病院だったので、見学する研修医は大勢いた)
今回は緑の手術衣を着たスタッフが5人くらいいる! どんな大手術を受けるの、私!

――どこで間違えてしまったのか。申し訳なさと、逃げ出したい気持ちと、でももう逃げられない気持ちで、思わず低姿勢になり(気分的に)、歩いているときに看護師さんに訳の分からない言い訳話をしてしまった……。

ここでA医師と再会。当たり前だが師も既に緑の術衣である。術衣と帽子とマスクとで人の判別がつきにくい上に、私は今までA医師と1回しか会ったことがない。はっきり言ってオペ看と区別がつかなかったのだが、私に挨拶してくださったので恐らくA医師であろう。

しかしともかく、手術台に上がって横たわった。不織布のふかふかの敷物があって案外寝心地はよい。
オペ看さんたちはてきぱきと、私の胸に心電図の機械、左腕に血圧を測るカフと、左腕のポートに点滴の管をつけていった。私に対して何かする時には必ず「これから〇〇しますよ。」と教えてくれる。
「まぶしくなりますよー。」
手術台の上の無影灯が点灯する。気分はまな板の上の鯉である。
右腕と頭の間には衝立が置かれて、私からは手術は見られない。ほんと、それで良かったよ。

心音モニターが作動開始し、心拍をピッピッと告げる。
A医師による手術開始の宣言。
「これからへバーデン結節の✕✕✕✕✕術を始めます。」
手術室内にある、手術時間を示すデジタル時計がカウントを始めた(多分)。
今回は、伝達麻酔というものをするとのこと。「前の手術も伝達麻酔でしたか?」と聞かれたけど、よくわからない。
首筋のあたりを超音波のプローブで探りながら、腕につながる神経に麻酔薬を入れるらしい。
そして、針を刺された! ビリビリとすごい衝撃が走る。痛みと衝撃を、足だけよじって耐える。
「〇〇〇〇(←薬品の名前。聞き取れず)、3ml」
麻酔薬を入れる度にA医師がそう言う。その度に電撃。5回かそれ以上繰り返して、やっと麻酔かけは終わった…。

「腕を動かしてみてください。」
あれ? まったく動かない。
「これ、触っているの、わかりますか?」
「なんとなくわかります。」
「触られている感覚は最後になくなりますからね。でももう痛みは感じないはずですよ。」
そうなのか。
そうこうしているうちに、もう手術は(切開は)始まったらしいのだが、私には全くわからなかった。
何なら腕そのものの感覚がまったくない。腕を伸ばしているのかどうかもわからない。腕がなくなったというよりは、私は肘を曲げて、腕を胸の上に置いていると思っているのだが、そこに腕はない。

ところで、今日はA医師ともう一人別の医師(仮にC医師と呼ぶ)が立ち会っているらしい。C医師が、今日外来で見てもらったB医師かどうかはわからなかった。
時折、二人が会話を交わす。
C医師「いやあ、A先生と並んで手術するなんて十何年ぶりじゃない?」
A医師「そうだね」
――ため口なので、同期か!?
C医師「この間〇〇の症例で✕✕の手術をしたんだけど、△△を◇◇でやったんだけど、よくなかったかなぁ。」
A医師「あまりよくないんじゃない?」
――業界の内情をぜひとも聞きたいところだが、二人ともごく小声なのと、耳の隣りに衝立があるのであまり聞こえない。
C医師「へバーデン結節の手術って……」
A医師「破裂を繰り返すと感染リスクがあるからね……」
――そうだよね、へバーデンのミューカスシストで手術する人って滅多にいないよね。複数の医師から散々言われたもんねぇ。たぶんC医師が見にきたのも手術が珍しいからじゃないかな。

そんな感じで時は過ぎていった。手術中、心拍モニターから流れてくる心拍音が、速さによって高さが変わるので、「これはレだな」とか「半音あがったな」などと考えていた。手術室内のデジタル時計『手術時間 XX : XX : XX』も動いていた。


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