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(ショートショート)数学ダージリン

 山田久夫は数学が嫌いである。小学生の時に3+6=36と答えて以来、数学アレルギーになった。山田は理工書を発行する出版社で働いている。学生時代の就職活動でそこしか受からなかったのである。展示会で本を20%オフで手売りしたが、暗算が苦手で困った。電卓も使い慣れていない。客から釣銭が違っていると注意される場面が何度かあった。

 多少の心境の変化があったらしい。自社発行の『素数の孤独』という本を手に取った。どうもタイトルに惹かれたようである。山田は生粋の文系である。本をよく買う。最後まで読み通せることは珍しいが。紅茶を飲みながら本を開いた。「ふむ、素数とは1とその数でしか割れない数のことか」。〈俺も素数かも知れないな。友達が少ないし・・・・〉。

 だんだん本から意識が遠ざかった。そのうち居眠りを始める。カップの衝突音で目を覚ました。『素数の孤独』でカップを倒していた。山田はつぶやいた「数学ダージリン」。幼い日の足し算のようである。

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