(ショートショート) 信者ブラスバンド
「ブラスバンドを結成するんだ、この4人で」
急に閃いたように、山川が言う。
島田、橋本、根岸の3人は一様に(楽器なんてとんと縁がねえぞ・・・・)という顔をしている。彼らは職に就いているが、山川は無職である。
山川は潰れる間際の勤め先を時々思い出す。給料の支給遅れが3か月連続した。そして急に本社と連絡がつかなくなった。坂道を転げるようだった。
山川は、人は漂流者だと思うようになった。3人にもよく「俺たちはヴァガボンド、もっと自然に、自由に生きないか」と説いている。3人はともかくも島田はチェロ、根岸はバイオリン、橋本はトランペットの担当となる。山川はピアノである。空き時間に練習した。
半年が過ぎた。街のクリスマス会のステージに、山川たちバンドオブヴァガボンズが立っている。
「君たちもっと自然に、自由に生きないか?曲はいつかのメリークリスマス」
それは孤独な聴衆に響くメロディーだった。幾人かの目が輝いていた。まるで4人の信者かのように。