あおり運転をするものは
早朝あおり運転を受けた。距離にして1キロくらいか。中央線はオレンジ色の県道で。田畑の多い田舎道で。車間を十分にとらないで運転するものもいるが、このものはぐいぐいと後ろから押すような運転である。まるでぶつからんばかりに。
腹がたってきたので私は速度を落とした。ルームミラーで確認すると、あおりの張本人は片腕を頭の上にあげて軽薄そうな姿である。片手運転でずっとあおってくる。やがて赤信号にさしかかり車を止めると。後続車は急ブレーキをかけた。
ルームミラーで後ろを見るとあおりの当事者はずっと視線を下方に向けている。ナビ画面でも見ているのだろうか。再度その顔を確認すると少しショックを受けた。細めの禿頭で側頭部に毛がわずかに残っている60代くらいのどこにでもいそうな男だった。映画に出すならエキストラ決定のように特徴がない。
信号が青になり、私は車を出す。後ろのあおりをしている車は出遅れた。青信号にすぐには気づかなかったのだろう。なぜか今度は大きく後ろを走っている。猛スピードで追いかけてくることはなかった。信号で後続車からクラクションでも鳴らされたのか。
カーブがつづき、やがて視界から消えた。私が振り切ったわけではない。巡行速度で走っていたにすぎない。
私の母は障害者である。車のリアには障害者のマークを貼っている。禿頭のクレー爺はいやでも障害者マークを見ただろう。にもかかわらず……で、ある。
どこかに心を忘れてきてはいないか?