人間以外の知性がどれほど多様で、どのように働いているかを様々な側面から書いた「WAYS OF BEING」 を読んで、作品づくりやデザインの参考になりそうなコンピュータ(など)についてまとめた。ほとんどの事例は第六章「ノンバイナリーな機械」より引用しているが、それ以外の箇所で触れられた作品も多い。 既存のコンピュータは0と1で計算するバイナリーのコードを用いるが、「コンピュータのようなもの」はそれに限らず、多様な制御方法やアウトプットをもつ。著者はそれら「ノンバイナリーな機械」を再考することが、コンピュータと人間、それ以外の生物のために重要だと主張する。
これらの機械はすべて、基本的な構造を共有し、処理装置や記憶装置が同じように配列され、同じ基礎的な言語、つまり0と1で表される二進法(バイナリー)のコードを話す。だがこれは、わたしたちが想像し、組み立てることのできる唯一のコンピュータではない。 (中略)わたしたちの考え方や、生活の中でのコンピュータの働きかたを変えるためには、コンピュータそのものの形を考え直す必要があるだろう。そうすることで、わたしたちは人間を超えた世界からの新たな発想と、そこに手を伸ばす新たな方法を見つけられるかもしれない。 幸運にも、コンピュータについてのほかの考えかたはたくさんある。それらはひとつの正しい未来へと脇目もふらずに競争するなかで破棄された、あるいは十分に探求されることのなかった、歴史上の多くの枝だ。(p252)
ウォルターの亀(マシナ・スペクラトリクス) ウォルターの亀型ロボットは光センサーと真空管2本の構成。電球のある方向に走っていき、光の強さが一定限度を超える(つまり近づきすぎる)と、舵を切って旋回するように仕組まれていた。これだけのメカニズムだが、電球に対して遠巻きにするようににじり寄っていくという面白い動きを示すのだ。 ウォルターは同じロボットを2台製作して、それぞれにエルマーとエルシーという名前をつけた。鏡の国のアリスに登場する2匹の海亀の名前をもらったのだ。このエルマーとエルシーのそれぞれの鼻先には電球がつけられている。すると、互いににじり寄っていきながら、近づきすぎると互いがそっぽを向く。その様は、「あたかもエルマーとエルシーの二人はダンスを楽しんでいるかのようだった」とウォルター自身が書いている。 さらに素晴らしいのは、充電の方式。このロボットはバッテリー駆動なのだが、バッテリーが少なくなると、自分で巣に戻って充電するのだ!これは、巣にいちばん明るい電球をつけておくのがミソ。バッテリー電圧が低下すると、光センサーの感度が弱くなり、いちばん明るい巣の電球にしか反応しなくなる。このため、ロボットは巣に向かって進んでいく。さらにバッテリー電圧が低下し、光センサーの感度がさらに低下すると、「光が強すぎると舵を切る」動作が行われなくなる。それで、巣に一直線に入って、あとはガイドゲージにしたがってバッテリーに接続されるようになっていた。 メカニズムは中学生の夏休みの工作のように単純だが、そこに仕掛けられている工夫はただごとではない。
上記ブログ記事から引用 参考事例 2024年9月に、デザイナーコレクティブのPlayfoolさんが、ウォルターの亀にインスピレーションを受けた作品を発表しています。単なる機械制御の「カメ」ではなく、そこにAIを組みあわせて、既存AIの人間中心主義的な発展を批評するスペキュラティブデザインの作品のようです。
PlayfoolさんのTwitterアカウントより画像を引用 ホメオスタット(W. Ross Ashby's homeostat) ウィリアム・ロス・アシュビー komatsu.bairin.sub.jp 軍事用の爆撃照準器を4つ連結することで、それらお互いが外部から送られたノイズを打ち消しあい、平衡状態を作り出す機械。開発者のアシュビーは、ホメオスタットが人間の脳に似た恒常性を持っていると考えた。
スタッフォード・ビーアのサイバネティック工場 スタッフォード・ビアがアラートンで発表した論文は、社会的、経済的テーマで、「サイバネティック工場に向けて」と題されていました。彼はイギリスのユナイテッド・スチール・カンパニーズでオペレーションズ・リサーチのディレクターを務めていました。彼のサイバネティクスに対する熱意はすさまじく、彼と彼の研究チームが働いていたシェフィールドの建物は「サイバー・ハウス」と名付けられていました。 ビア氏によると、工場にはサイバネティックスの言葉でしか理解できない 3 つの特徴がある。第一に、工場は非常に複雑で常に変化しているため、相互接続のパターンは過度に単純化できない。第二に、工場の内部動作と変化する環境との相互作用の複雑さを考えると、膨大な数の潜在的な軌道が同等に起こり得る。そして第三に、工場は自己組織化している。感覚と推論、記憶と需要関数、確率的結合と感情、好ましい状態と「学習変換」、損益と判断を混ぜ合わせた図には、上司はどこにも見当たらない (図11)工場は「産業の生態系全体の中で密接に相互作用しなければならない環境内で機能する統合された有機体」とみなすことができると彼は言った。「サイバネティック工場のコンセプトは、産業工場全体が生きた有機体であるということです」。
The cybernetics of learning 引用部は上記ページを一部Google翻訳したものビーアが考えたのは、もしそれらふたつのシステム―池と工場―になんらかの関係を持たせることができれば、片方の変化が他方の変化を引き出すはずだということだった。工場の創業を改良すると、池の動的な平衡は乱され、池は新たな状態へと自らを修正し、それに工場を巻き込んで、結局、それはふたつのシステムの間の新たな超平衡に達するまで続くだろう。(P269)
オジギソウが衝撃を記憶するという実験 モニカ・ガリアーノ Plants Remember You if You Mess With Them Enough (Published 2016)
進化生態学者のモニカ・ガリアーノ 氏がオジギソウ を使用して行った2014年の実験 では、非常に低い高さから鉢植えのオジギソウを落下させ、オジギソウの葉がどのような防御反応を取るのかについて研究しました。すると、オジギソウは最初のうちこそ落下に対して葉が防御するように反応していたものの、次第に「落とされたところで害はない」ことを学習していき、落下に対しての防御反応を取らなくなっていったそうです。
Gigazineの記事から引用 モジホコリによる都市間ネットワークの構築
画像は下記記事より引用 脳ミソ0gの"単細胞"に人間凌ぐ"知性"…関東地方の形の容器に粘菌を置くと26時間後に本物の「JR路線図」完成 迷路を解き、「入り口」から「出口」の最短距離を見つけることができた (2ページ目)
2008年にイグノーベル賞の認知科学賞を受賞した研究者は、粘菌が簡単な迷路を解けると発見した後、もっと複雑な形で粘菌のかしこさを調べてみることにした。 関東地方の形の容器を作り、大きな都市がある場所に少しだけエサを置いた。また、都心部であるJR山手線の内側には大きなエサを置き、さらにその上に粘菌の一種のモジホコリを置いた。 数時間経つと、モジホコリはエサを食べるために容器中に体を引きのばした。次第にエサが置かれた場所は管でつながれ、26時間後にモジホコリは、大きな都市をつなぐ鉄道網のような形になっていた。その形は、本物のJRの路線図と似ていた。
プレジデントオンラインより引用 カニコンピュータ 神戸大学 と西イングランド大学 (英語版 )の研究で、ビリヤードボール の代わりにカニ を使って論理ゲートを実現したというものがある[5] [6] [7] 。実験に使われたカニは西表島 に生息するミナミコメツキガニ の仲間(Myctiris guinotae )で、英語で兵隊ガニ と呼ばれ、群れて同じ方向に移動する習性がある。群れがぶつかり合流したとき方向が一定に定まることを利用して、論理演算を行うことができる。仕切りで作った交差点に群れを同時に追い立てることで計算を実行する。演算の結果はカニが交差点の先のどの終端にたどり着いたかでわかる。
Wikipediaより引用 ボールの通路内での規則的な動きを計算に用いるビリヤードボールコンピュータを参考に、群れで移動するカニを使って演算を行うコンピュータ。カニコンピュータを作った神戸大学の郡司ペギオ幸夫さんは、他にもユニークな研究を多数行っているようだ。ビリヤードボール・コンピュータ - Wikipedia YUKIO PEGIO GUNJI LAB
「イルカ大使館」建築の提案 Ant Farm 画像は下記リンクの記事より引用 Ant Farm — tyler survant Ant Farmは1960年代後半から活動していた建築コレクティブで、スーパースタジオやArchigramのように、建築物そのものだけでなく、空想上のプランやコンセプトも作品とした。この「イルカ大使館」の事例では、海中で生活するイルカと人間の研究者が会合し、お互いフラットな立場で議論が行えるような建築物のコンセプトが描かれている。