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巻き爪


 夫のおばあちゃんと大の仲良しだった。夫は実の母親と折り合いが悪く、何か困ったらおばあちゃんに頼っていた。県外の大学から、帰ってきた時もおばあちゃんの家に住んでいた。だから、私もお嫁に来て、仲良しになるのは自然とおばあちゃんだった。
 おばあちゃんって、自分としては少し遠い存在だった。父方の祖母は、29歳でなくなっている。遺影でしかあまり見たことがないから、怖かった。昔の遺影って、黒くて、暗くて怖いから、思い出話なんて聞いたこともなかった。母方の祖母も、遠くに住んでいるせいか、縁遠い気がしていた。
 夫のおばあちゃんは、誰が見ても優しくて、かわいいおばあちゃんという感じで、誰からも好かれていた。  
 私がある日お財布を無くして、お金がなかった日もおばあちゃんに相談したし、一人目の子供が生まれて、職場復帰をした時に上司に、子どもが悪くなった時預かる人は居るのかと言われて、震え上がった日も、おばあちゃん家に駆け込んだ。台風で断水した日もお風呂に入りに行ったし、正月はいつもおばあちゃんの家でパーティーをしていた。
 
 何年も何年も、おばあちゃんは私の近くにいて、困ったときは話を聞いてくれると思っていた。でも、ある時から三男の名前を覚えられなくなり、とんでもない早朝から起きるようになり、ごはんも一日に何回も炊くようになって、義理の父が旅行に出ると、不安でずっと玄関先で持つようになった。
 ある時、いつもは起きて自分でご飯の準備をしてお茶を入れるおばあちゃんが、それらを全くできなくなった。すごくすごく悲しかった。脳梗塞だった。脳幹が梗塞して、呼吸器系を司るところだから、私は覚悟をした、亡くなると思っていた。
 しかし、神様はおばあちゃんを連れては行かなかった。5年という長い間、生かしてくださった。認知症ではあったが、優しくほほ笑み、おいしくご飯を食べるその姿は、おばあちゃんそのものだった。
 おばあちゃんの爪は相当な巻き爪だった。私はその頃、看護師ではあったが、怖すぎてニッパーでの足の爪切りができなかった。切ってあげたいのに、出来なくて、悶々とした日々を過ごしていた。
   
 ある時、仕事場で足の爪切りの勉強会を主
催した。やっぱり、しっかりとした知識を持って爪切りができたら良いな、何よりおばあちゃんの爪を切ってあげたい!!と。
 しかし、おばあちゃんはその前に亡くなってしまった。すごくすごく悲しくて、ここ数年は、私も分からないから話すこともなくっていたけど。
 そんなある日、看護協会が主催するフットケアの研修に行けることになった。たった2日間だったけど、アセスメントから実際のつめ切りの練習まで学ぶことができた。
 おばあちゃんの爪は、うまく切ることはできなかったが、今はたくさんのおばあちゃんたちの爪を切っている。
 今日は大きく肥厚した足の爪をグラインダーという機械で爪を削った。削ったのはフットケアのナースだったけど、爪を切ってもらった方は大変喜んでいた。
 爪は意外と軽視されている。歩いていると、陥入していてもさほど痛みがない。だから、そのままにしてしまっているのだという。いつの間にか、水虫が入っている方も多く、それがどんどん爪が伸び積み重なることで、肥厚しているのだ。
 人間の爪は常に伸び続ける。私も爪たちに負けないように、日々学びを続けなければと、爪から学ぶことも多い日々だ。
 いつかフットケアの学びもnoteで綴れる時が来たら書いていこうと思う。


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