洗礼式、それぞれの出会い
「どうやってイエス・キリストを信じるようになったんですか」
助手席に座る有生の質問に、
ノリコさんは前を見ながら、キリスト教を扱うテレビ番組がきっかけだと答えた。
愛知県蒲郡市
この街で二人の人と会う為、有生と私は訪れた。
蒲郡市は、東三河地方に位置していていて、三河湾に面している観光都市だ。
ヨットレースの最高峰、「アメリカスカップ」に出場した日本チームのベースキャンプが置かれていた街としても有名で、駅前には実際に練習に使われていた巨大なヨットが設置されている。
有生は、この蒲郡に住む二人から「来てほしい」という連絡をもらっていた。
偶然、同じ街に住む、互いのことを全く知らない二人の女性。
一人は、ミキさんという、キリスト教系の幼稚園で働く女性。
そしてもう一人がノリコさんだった。
ノリコさんは数年前、中川健一牧師の発信する番組を見て、キリスト教に触れた。
その頃、ノリコさんは自身が抱える病気の苦しみでいっぱいいっぱいの状況だったという。
何となしに番組を見続ける中で、
ある時、番組の中で一つの聖書の言葉を聞いた。
「疲れた者、重荷を負う者は、誰でもわたしのもとにきなさい。休ませてあげよう」
〜マタイによる福音書11:28〜
この言葉を聞いたとき、
「イエス様しかいない、このイエス様に苦しみを取り除いてもらいたい」
と強く思ったのだという。
それから少しずつ、イエス・キリストに近づいていき
自分はクリスチャンだ、と人に公言するまでになった。
しばらくして、洗礼を受けたいと思うようになったが、教会に通わないノリコさんによって、洗礼のハードルは高かった。
そんなとき、YouTubeで有生のことを知り連絡をしたのだという。
4人を乗せた車は、やがて目的地に着いた。
見かけは一軒家の様だが、2階部分がレンタルスペースになっている。
真新しいフローリングの匂いがする室内は、机と椅子を並べただけの即席の洗礼会場になる。
「父と子と聖霊の御名によって、洗礼を授けます」
3人が見守る中で、ノリコさんは洗礼を受けた。
洗礼を受けること、それは皆の前で自分の信仰を言い表すこと。
もちろん、全てを知って洗礼を受けるわけではない。
洗礼を受けた後も、ずっとイエス・キリストのことを知り続ける過程を歩んでいく。
「イエス・キリストを信じたときとは違って、洗礼を受けても実感って湧かないですね」
そう言ってノリコさんは笑った。
お祝いも込めて、4人で海辺のレストランで昼食をとった。
『ondina』というこの店は、白が基調の木造建築で、中に入ると全ての席から海が見えるようになっていた。テーブルの上に敷かれた濃い青色のクロスは、窓から見える海の色のようだった。
初対面だったノリコさんとミキさんは、ミキさんの人懐っこい性格もあり次第に打ち解けていった。同じ街に住み、それぞれがイエス・キリストを信じて、そして二人とも有生に連絡をすることで知り合った二人。
ミキさんは、家族に連れられて教会に行ったのがきっかけでクリスチャンになった。
同じ教会に通うスコットランド人の男性と結婚し、同じ職場で働いている。
しかし、ミキさんも自分の病気があって教会に行き続けることが難しくなった。
信仰を持った二人は、信仰について話ができる友を求めていた。
二人が互いの出会いを喜んでいる様子を見て、
「神様の奇跡だね」
と有生は言った。
どんな方法でイエス・キリストと出会うかなんて、人によって全く違う。
人がそれを自ら枠にはめ、計画しようとしてもなかなか上手くはいかない。
それでも、思わぬところで、思わぬ方法で、人はイエス・キリストと出会うようだ。
そんなことを実際に聞くと、
あぁ、本当に神様はいるのだ、
なんて思ってしまう。
神様の働き方は一通りではない。
そんなことを改めて気付かされた。
様々な状況下に置かれた人々の元に、神様御自身はちゃんと手を差し伸べている。
そんな神様の働きを、会いに行くキリスト教会の活動を共にしながら
体験していきたいと思った。