黒木一家のファストミステリ集_大人の飛び降り自殺
大人の飛び降り自殺
「日本の自殺者数は減らないですね。皆それぞれ事情があるんでしょうが。自殺現場にばっかり立ち会っているとなんだか悲しくなってきますよ」休暇中の伊藤アキラは黒木探偵事務所のオフィスで黒木トオルに対して吐露した。
「ネットの普及のせいか、誹謗中傷で行動を起こす若者も多いって聞いたよ。大人がもっとサポートしていかなければならないな」黒木トオルが言うと、伊藤アキラはおもむろに話を始めた。「ただ、一週間前の土曜日に立ち会った自殺者は大人でした。交通事故で左腕を失った男性がビルの屋上から飛び降り自殺したんです。ビルの屋上には靴が揃えられ、手書きの遺書がありました。左腕を失った苦悩が綴ってあり、無気力になったのだと」
「その方は一人暮らしだったのか?」黒木トオルは尋ねた。「いいえ、所帯持ちの方でした。そう言えば、身元の特定が大変でしたよ。遺書には名前が書かれていませんでしたからね。ただ遺書のなかで奥さんの名前と幼い息子さんの名前が書かれていました。二人が留守のときにこっそり家をでて、命を絶つと」
「所持品には身元を特定するようなものは何もなかったのか?」黒木トオルは更に質問した。「遺体の所持品を調べたところ左ポケットには携帯電話、右ポケットには電子タバコ、後ろの左ポケットには小銭とマネークリップ、後ろの右ポケットにはハンカチが入っているだけで、上着の外ポケットや内ポケットには何も入っていませんでした。歯科所見で身元を特定しようと試みたんですが、記録が全くなくてお手上げでしたよ」伊藤アキラはため息をついた。
「ご家族がいらっしゃるなら捜索依頼が普通あるだろう」黒木トオルは言った。「ご家族からではなく、月曜日に職場の方から連絡がありました。しかし、夫が帰って来ないのに何も不思議に思わないんでようかね。自殺されたことを伝えてもあんまり反応がなかったですし」「まぁ、しっかり奥さんに事情聴取したほうがいいだろうな。殺人の容疑者としてね」黒木トオルは伊藤アキラに至急再捜査するよう伝えた。
【問い】
黒木トオルはなぜ奥さんに事情聴取したほうがいいと考えているのでしょうか。
【解答編】
「左腕を失っているのに良く使う携帯電話やマネークリップを左ポケットに入れているのはおかしいだろう。それに二人が留守の時に家を出たのなら鍵がないのも不自然だ。自殺に見せかけてビルの屋上から突き落とした後、適当に所持品をポケットに入れたのだろうな」黒木トオルがそう言うと、伊藤アキラは急いで事務所を出て行った。
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