第十二回 O・ヘンリ『賢者の贈り物』
遅くなりましたが、クリスマスイブに開催の読書会の感想まとめです。
http://www.hyuki.com/trans/magi.html
今回、よりクリスマスへの理解を深めようと、山奥の修道院まで出張しながらの開催となりました。
※そろそろ深夜・早朝は道路の凍結が心配される時期。修道院までの道のりは舗装されていないところもあり、「殉教」しないよう慎重なドライブを心がけました。
哀しい話か、ハッピーエンドか
短編小説として、伏線回収とミスリードのハラハラドキドキ感はすごいですね!
この『賢者の贈り物』、「切ない話」という意見がけっこうありました。
わたし自身は「めっちゃハッピーエンドやん!」と感じたのですが、
日数をおいて検討してみると、たしかに「切ない要素」はあるのかな、と気づかされます。
持続できない、刹那性について
この話の「尊い」ところの意見は一致すると思います。
それは自分の大切なものを投げ出して、誰かを喜ばせたい、という思いそのものです。
物品ではなく思い、それが作者の意図する「賢さ」なのでしょう。
でも、クリスマスのたびに、自分のすべてを投げ出してしまえるのか?
このカップルの人生のピークはもしかしてここなのじゃあないか?
(もちろん、若い頃に絶頂を迎えるのを是とすることもできましょうが)
というバランス感覚の危うさが「切なさ」に繋がっているのではないでしょうか?
「分」というものについて
「分相応」という言葉があります。
ようは自分の「器」にあったことをしましょう、という東洋の知恵だと解釈してます。
言うは易し、で実のところ、とても難しいものです。第二回目の読書会『吶喊』、あれほどの頭脳を持つ魯迅ですら自身の「サイズ」と「特性」を当初は見誤ったのですから。
「贈り物」に話を戻すと、一般的には適正価格が存在しますよね。
(すみません、ここからロマンチックさは皆無になると思います)
結婚指輪(否、婚約指輪だっけ?)は「給料3ヶ月分」とかね。
とくにその根拠はなくても「しばり」があるとラクになる部分はあると思うのです。
これは「みんな買ってるから私も!」の「バンドワゴン効果」の一種だと考えるのですが、
そんなマーケティング業界に振り回されずに、「分」を保つコツとしては、
「ついで」の精神が肝要だというのがわたしの意見です。
「ホスピタリティ」全般に言えることでしょうが、自分が犠牲になって誰かにサーヴィスすることは健全ではありません。持続性がないですし。
長い目で見て、自分が後悔せず、食うにも困らず、むろんサラ金に手は出さない、というのが「適正」なのでは、と考えます。お互いに重くなりすぎない人間関係にも繋がるのでは、と。
(独身者なので、ここらへんはドライすぎかな〜とも思いますが)
マニュアル化はしづらいですね。
あらためて「給料3ヶ月分」のキャッチコピーとしての秀逸さに舌を巻きました。(←強迫観念じみてしまうのはマニュアルの弊害でもありますが)
あらためて、「賢い」贈り物とは
「自己の、相手への捧げっぷり」を競うのは重たすぎるので、
「相手のことをどれだけ気にかけているか?」という軸で考えてみるのはどうでしょう?
作中のカップルも、相手が大切にしているものへの洞察は素晴らしい。
「贈り物」によって相手のことをどれだけ気にかけているか、理解しているかを伝えること。物品の譲渡、その瞬間を切り取るのではなく、人間関係の大きな流れとして捉えることが重要なのではないか。
そう考えると「贈り物」という物理だけではなく、「気づかい」で相手への敬意や愛情を伝えることができるのではないか、と結局、話は「ハレの日」だけではく「日常」へと行き着きます。
誰かのために? か この人のために?
以上、贈り物のハードルを下げよう下げようと努力してきましたが、
ここで違う視点も。
わたしが冒頭「ハッピーエンドやん!」と直感したのは、
「それほど喜ばせたい相手がいるっていいなあ」ということです。
「誰も彼も喜ばせたい」というのは聖人です。
たとえば。若い頃は「詩人になりたい、でなければ何者にもなりたくない」という自己中心的だったヘルマン・ヘッセも晩年は「万人への愛に目覚める」...。
というケースもありましょうが、きっとわたしたちはこの境地ではない。
だから「ひいき」は発生します。
「このひとにこそ!」の一方で、
「このひとはあんまり...」ということが。
そういうときに攻撃的にならず、「敬遠」「保留」という知恵を活用することも重要です。
(個人的な話ですが、ここらへんは2019年・実経験での大きな学びと進歩でした)
最後に、やはり「受け手」あってこその「贈り物」です。
喜んでもらってこその、プロジェクト達成。
そのためには、あまりにも考え方のベースが遠く隔たっていると、しんどい。
「ひいき」の相手と「価値観」が似ているって奇跡的に幸せなことだと思いますね。
以上です。今年もお世話になりました。
来年は心機一転...ではなく「賢さ」の対比の「愚かしさ」を学べる
テキストを取り扱えればと思います。
モーパッサン『頸飾り』を。https://www.aozora.gr.jp/cards/000903/files/43555_16642.html
では皆様、良いお年を!
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