解剖学と生理学のはなし
カラダのことを学ぶ際に、まず最初に壁になるのが解剖学と生理学ではないでしょうか?
そもそもこの二つは何を学ぶ学問なのでしょう?
まず”解剖学”とは、体のどこに何があるかを知る学問です。
体内の地図を見ていくようなものが解剖学ですね。
一方で”生理学”とは、それらの組織がどのようにして働くのか?を知る学問です。
動きがない"静"の状態を知るのが解剖学、動いている"動"の状態を学ぶのが生理学とも言えると思います。
静止した状態のものを見るだけでも実際には使えませんし、動きを知るだけでもその構造がわかっていないと不十分です。
なのでこの二つの学問は車輪の両輪のように補い合いながら基礎医学を支えています。
臨床の場でどのように使うのかというと、これら解剖学、生理学に照らし合わせてどのような相違があるか?を意識して症状を診ていく訳です。
ですので解剖学と生理学はいわば"症状を判断するための基準"ですね。ここからどのようにずれているのか?を考えて体に何がきているのかを考察して、必要な処置を考えアプローチをしていくのが基本的な流れになります。
という意味では施術する立場の方は、やはり医療系国家資格向けの教科書に載っているような内容はしっかりと理解しておいた方が良いとは思います。
しかしそれだけで十分とも言えません。
特に解剖学に関しては、学問として学ぶときに非常に細分化しているので、例えば骨は骨、筋肉は筋肉でと組織毎に分類して学びます。
でも実際の体にアプローチする際にはもちろん各組織がバラバラに存在することはなく、皮膚や脂肪や筋肉や一緒になった状態で体を診ていく必要があります。
ですので骨だけや筋肉だけをみてアプローチすることは不可能というか、無意味というか、現場では色々な組織間の関係性を考慮することも必要不可欠です。
また神経や血流などの位置関係や、それらの働きも考えないといけないので生理学的な視点も必要になります。
解剖学は動いていない状態を分析するので、実際に動きが加わると考えられていたのと全く違う状況が起きていた、というケースが多々ありますので、生理学的な要素も含めて考察していかないといけません。
一例を挙げると骨盤底筋の動きです。
解剖学的には左側の赤い部分のような形状をしていると考えられていましたが、実際にMRIを使って動きを分析してみると右側の赤の部分のように全く違ったパターンで動いている事か判明しました。このケースは解剖学だけで身体を捉えることの限界を明らかにしていると思います。
ですので解剖学、生理学を学ぶことは必要条件ではありますが、体を診ていく際の十分条件ではない、という事です。
もちろんどのようなセッションを提供するかによってどこまでが必要条件に含まれるのかは大きく変わってきますが、あくまで必要条件である事に変わりはありません。
解剖学、生理学に加えて機能解剖学、整形外科学、病理学はもちろん、心理学的な側面まで考慮してセッションを組み立てる必要がある、というのが実際のところです。
ですので解剖学や生理学は大切な要素ではありますが、そこだけに執着して学習を進めると人の体を診る際には視野が狭くなってしまう恐れがあります。
実際、人のカラダのことは日進月歩の今の医学を駆使してもまだまだわからないことの方が多いわけですし、更に自分の理解の及ぶ範囲はその中でもほんのわずかな領域に過ぎません。まずはこの事実を強く認識しておく必要があると思います。体の中で起きている正確なことなど誰にもわかりません。個人差も大きいですし、毎日、毎時、毎分、毎秒、常に変化しています。
この事実を忘れずに、謙虚に学びを進めていく姿勢が、解剖学、生理学という基礎医学と向き合う際には大切ではないかと思います。