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ペペロンチーノ•キャンディ
愛してる、と口にすればなんだか嘘くさい気がして、恥ずかしいような照れ臭いような、なんともいえないムズムズとした気持ちになった。
愛なんて証明できない。だって形がないから。目に見えるものでも触れられるものでもないから、私は困り果てる。確かにそこにあるのに。どうやって伝えればいいのだろう。私の胸の底には確かにあの人のことが好きな私がいて、でもこの気持ちを表す術を私は持ち合わせていなかった。
言葉にする以外、どうやって伝えればいいか分からない。
「私は、あなたが好き」
人は簡単に嘘をつくし、口ではなんとでも言えるのは分かってた。この世に永遠なんてないことも、分かっていた。それでも、だからこそ私は言葉にする。声にしてあなたに届ける。あなたが好きだと。それが今できる私の精一杯の愛だから。
恋とは投影なんだと。見たいものを自分の都合の良いように見てるだけで。
私はあなたを守れなかった母に重ねて、ただあなたに愛されることで、幼い頃の自分を慰めてるだけかもしれない。
私はあなたに恋をしてるといって、あなたをただ自分の都合の良いように利用してるだけかもしれない。
それでも、この気持ちを恋と呼ぶ以外、なんて呼べば良いか私には分からないんだ。
あなたを見るとドキドキする。あなたが私を見てくれると嬉しい。名前を呼んでほしい。触れてほしい。あなたが笑顔でいてくれると嬉しくて、自分まで嬉しくて笑顔になっていた。あなたがただの物語じゃなくあなたの言葉で、自分の気持ちを話してくれるのが嬉しくて、嬉しくて。私はもっとあなたのことが知りたいと思う。
知らないから、知りたいんだ。それを愛と呼ばずになんて呼べば良い。今まで演劇しか夢中にならなかった私が、こんなに誰かに夢中になったことなどあっただろうか。
私は、せんせいがすき。
お嬢さんが、好き。
それだけで、生きていけるような気がした。
せんせいにキスされた時、目の前で閃光が起きて、何も見えなくなった。チカチカのキラキラで、眩しくて何も見えなくて、せんせいのことしか考えられなくなった。
途端に世界が輝いて見えた。私は昨日までの私となんら変わりないはずなのに、今日の私はなんだってできそうな、根拠のない自信に満ち溢れていた。足が軽い。心臓が高鳴る、そのリズムがなんだが心地よくて、今にも踊り出しそうな気分だった。
うっとりして、お嬢さんの顔を眺める。
それだけで満ち足りた、幸せな気持ちになって私は微笑む。今まで生きてきて良かったと、心の底から思う。だってせんせいに出会えたから。せんせいは桜の園のお嬢さんで、綺麗で、心もきっと美しい人。私には分かる。どんなにグレても、歳を取ってもせんせいは桜の園のお嬢さんだ。その事を周りのみんなが分からなくても、おかしいと言われても、私にだけ分かってれば良い。そんな気がした。
私は今、恋をしている。
精一杯の恋を。自分のちっぽけな身体の命を全身で燃やしながら、
今日も私はお嬢さんに恋してる。
これからも、その先も、はるこの中で桜の園のお嬢さんは城ゆきこ先生たった一人だ。
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