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富士山について3
深夜1時に山小屋を出発し、山頂へ向かう。
何時間か歩いた後、体力のない私は、先に頂上まで行ってほしいとお願いし、残りを自分のペースで登ることにした。
小学生の少年に追い越される。朝の通学路を歩くように何でもないって感じで登っていく。父親と二人。頼もしい小さな背中を見送りながら、少年は大人になっても年老いてもこの日のことをずっと覚えているんだろうなって思った。
数分歩いては休んで、気休めで買った酸素スプレーを吸うようになる。吸うとなんだか安心して、ああ、ヤク中の人ってこんな気持ちなのかなと思う。酸素スプレーは、効果があると思い込めるという意味で強力な助っ人となった。
そんな様子を見られたからか、すれ違う外国人女性から「OK?」と心配そうな顔で話しかけられた。海外旅行先で現地の人を心配して気遣えるなんて、優しくて勇気ある人だと思った。有り難かった。
いつもの自分なら英語コンプレックスのため表情と頷きでごまかしていたが、この時はちゃんと自分の言葉でお礼がしたくて、下手糞な発音で「オーケー、サンキュー」と伝えた。
しばらく歩いてふと見上げると、頂上を目指す人たちのヘッドライトの光が一列に連なって揺れていた。何処かを目指して進む人魂みたいに見えて不思議な気持ちになった。昔観た黄泉がえりという映画を思い出した。
誰かと一緒に登るのも声を出して笑えたり予想外のことが起きて面白いし、1人で登るのも、色々な景色や人に気付けてやっぱり好きだと実感した。