司書の失敗談④「そんな刑事さんがいるんですか……!?」
こんばんは、古河なつみです。
図書館に所蔵されている本の中にはミステリ小説もたくさんあります。
ミステリ小説と言えば名探偵・名刑事が登場するのが醍醐味ですよね。
よく問い合わせでも「あの刑事のシリーズの続きが読みたいけど名前が思い出せないんだよねぇ……」という相談を受けます。
そのせいで私も先入観を持ってしまっていたために情報の特定までに時間が掛かってしまったレファレンス(調べ物)を紹介します。
(※出てくる単語などは適宜本来の内容と差し替えています)
「女性の刑事さんの小説を探してるんだけど」
カウンターへやって来た男性に尋ねられ、私は聞き取りを始めました。
「えーと、日本の方ですか?」
「いや、日本人じゃないよ。アメリカかイギリスだったかな」
「マロリーさん、ですか?」
「マロニー?」
「マロリー、です(それは鍋に入れるとおいしいヤツです……!)」
男性のリアクションからすると的外れな事を言ってしまったようです。
(マロリーシリーズはクールな女刑事マロリーが活躍する海外小説です)
海外ミステリには多くの名探偵・名刑事が登場します。
「シャーロック・ホームズ」や「ミス・マープル」「ブラウン神父」「ジャック・フロスト警部」……古くから続くシリーズもあれば『カササギ殺人事件』のように新たな名探偵も続々と生まれています。
じつは私自身そこまでミステリ小説は詳しくなかったので、他の同僚に相談する事を考えつつ、もう少し話を聞く事になりました。
CIAの女性……?
「もう少し何か思い出せることはありますか? その人がどういった刑事さんか、とか」
「そうだ、FBIだかCIAに所属してた……多分CIAだな」
「(CIAって刑事だっけ……?スパイだったような……?)」
「で、男の名前を名乗ってたんだよ」
「ふむふむ(男装の女スパイ……すごい格好いいなそのキャラ……)」
「それで最後には旦那を拳銃で殺して、自分も自殺しちゃってさ」
「はぁ……重たい内容のミステリなんですね……」
「違うよ~!」
そこで利用者さんが呆れたように笑いました。
「SF作家の話!俺が言ってるのは登場人物の話じゃないよ?」
「ええっ?」
そんな小説の主人公みたいな女性のSF作家さんが実在するの!?
私は「失礼しました……!もう一度調べ直します!」と謝ってからインターネットを使って調べると……
超ビックネームの作家さんだった!?
「わかりました! ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアさん、では?」
「おお、その人その人! ここの図書館にその人の本ある?」
「はい、ご案内します!」
……ということで無事解決しました。
まさかこんな物語みたいな経歴の小説家さんがいらっしゃるとは……事実は小説より奇なり、と言うべきでしょうか。
後でわかりましたが『たったひとつの冴えたやり方』や『接続された女』など数々の名作SFを遺していて、その不思議な生涯も含めて伝説のように語られている作家さんでした。ジェンダーやフェミニズムにまつわる話題でも取り上げられることがあるようで、彼女の名前を関した小説賞もありました。
こんなに面白い経歴の小説家さんであれば、伝記が出版されているのかな?と思って調べたのですが、まだ邦訳された伝記は日本にないようです。英語で書かれた書籍は海外で出ているようですが……流石に読めないので、いつか日本でも彼女の生涯を詳しく知れる機会ができたらいいですね。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。
古河なつみ