日記20220814 映画「式日」

YCAM(山口情報芸術センター)で庵野秀明監督の「式日」という映画を観た。
忘れないうちに感想をメモ。
・山口県宇部市を舞台にした作品。
見覚えのある風景もたくさん出てくる。
(宇部中央銀天街、宇部興産の工場など)
ただし、商店街は寂れ、巨大な工場は煤け、かつて栄えた炭鉱住宅はボロボロの空き家になっている。
「滅びの美学」というと大袈裟だが、輝きを失ったものこそが美しい、という庵野監督の美学を感じた。
・家族との確執から心を病んだ女性と、名声を得た後に虚無に陥り故郷で過ごす「監督」の心の交流を描く。
主演の藤谷さんの演技力がすごい。岩井俊二のぶっきらぼうな棒読み演技を補って余りあるほどの迫力。
・主人公の女性は廃墟になった「太陽家具」の店舗に住みついている。
空き店舗になった太陽家具のビルは老朽化してボロボロだ。
かつては繁盛していた店が朽ちていく姿は、炭鉱や重工業で栄えた宇部の街で、商店街が徐々に寂れていった様子に重なる。(太陽家具=かつての繁栄と衰退の象徴、と感じられた。しかしこの感覚は、太陽家具という店を知っている山口県民特有のものかもしれない)
・映画の中で、太陽家具のビル内には過去に使っていた物がそのまま置かれている。
無造作に積み重ねられた地元の段ボール箱が、『山口県が舞台の映画である』ことを強力にアピールしていた。(部屋にあった松月堂製パンの箱も)
・映画の冒頭で監督が小さな商店でたばこを買おうとするシーンがある。
店の外にはペプシの古い看板。コカコーラではなくペプシなのは、宇部興産飲料がかつてペプシのボトリング事業を行なっていた為だろう。些細な部分にも宇部らしさを感じられるシーン。
・終盤、姉の姿になりきった主人公が突然、過去に自分の家庭が抱えていた問題について語り出す。
流暢な山口弁で、非の打ち所がない話し方だ。
怒りにまかせて主人公を追いかけてきた「自転車の男」もまた、山口弁で自分の気持ちを捲し立てる。

今まで、主人公の妄想とも虚言ともつかない言葉を通して、幻想のような世界を見てきた鑑賞者は、いきなり過去の家族関係や生い立ちなどの生々しい現実を突きつけられる。
山口弁が、鑑賞者を夢から現実の世界に引き戻すツールになっている気がした。
(これは、山口弁の方言話者だけが感じることかもしれない)
#日記
#式日

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