阪急電車
電車の中で本を読んでいる人を見かけると、運命共同体めいたものを感じる。
それがたとえ「俺はこんな難解で分厚い本を目的の駅に到着する片手間に読んでいるんだぞ」とブックカバーもつけずに大袈裟にページをめくる音を響かせている人であろうと。
この感情はおそらく「エモい」という言葉に分類されるのだろう。
エモいという人間の本来持つ何とも言えない情緒的な心の揺れ動きを、簡潔で端的に表現してしまうそれこそエモーショナリズムにかけた言葉があまり好きでは無いのだが、阪急電車はエモい。
夕暮れ時、車窓から見えるマンションの前を通過するだけで「この灯り一つ一つに帰るべき場所があって、家族がいて、それぞれの人生を形成しているんだな」とSNSポエマーもドン引きの思想をしてしまう。
有川浩さんの「阪急電車」は圧倒的な文章力と構成力によって、そんな僕の陳腐で漠然とした感情を完璧に言語化してくれていた。
「阪急電車」の中で「阪急電車」を読んでみてほしい。おそらく僕と似たような考えを浮かべてしまうはずだから。
あらすじ
片道わずか15分のローカル線で起きる小さな奇跡の数々。
乗り合わせただけの乗客の人生が少しずつ交差し、やがて希望の物語が紡がれる。
恋の始まり、別れの兆し、途中下車――人数分のドラマを乗せた電車はどこまでもは続かない線路を走っていく。
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