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1月24日 拝啓 14歳の君へ

拝啓 14歳の君へ


君は今、もうすぐ1時間目の授業がはじまるというのに、教室に入れず、家庭科室の隣のトイレでうずくまっているね。

教室に入るのが怖いんだね。
周りの視線が怖いんだね。
いっそこのまま消えてしまいたいと
思っているね。

君はその後、学校に行こうとすると突然謎の腹痛に見舞われることになるんだ。
そうして朝のうちは自宅のトイレから出て来れなくなるんだ。

勉強にもついていけなくなり、自宅でなにもしていないといたたまれなくなって、一向に進まない時間から逃れるために本を読むようになるよ。
なんとかして口角を上げようと、母親が知り合いからもらってきたiPadでバラエティ番組をたくさん見るようになるよ。

ダウンタウンのごっつええ感じ、吉本新喜劇、
どれも凄く笑わせてくれるけど、なかでも君は
毎週日曜日に放送の「ざっくりハイタッチ」と
いう番組に釘付けになるんだ。

その番組の中で、適当な嘘をついてその場を切り抜けて、誰1人傷つけない千原ジュニアさんの存在を意識するようになり、過去のライブ映像や著書を掘り進んでいくうちに、「14歳」というジュニアさんの自伝小説を読んで、これは自分のために書かれた本なんじゃないかと衝撃を受けることになる。

外へと続く扉をこじ開けて、君をどこか遠くに
連れて行ってくれる、まさに君にとっての
「日曜日よりの使者」だね。
しかもジュニアさんは君が住んでいる宮古島の
観光大使をしているんだ、びっくりするよね。

そこから自分でもネタが作ってみたくなって、
本屋さんまでノートを買いに久しぶりに外へ出るんだ。
そしたら君が外に出れなくなった原因の奴らが
近くのフードコートでたむろしていて、バレないようにこっそりとノートを買うんだけど、結局見つかってしまう。

けど大丈夫。
君はもう自分のやりたいことが見つかっていて
コイツらとは違うんだ。
積み上がっていくネタ帳が自信に繋がり、外に
出れるようになるんだ。

中学3年生になり、唯一仲の良かった友達を2人誘ってトリオを結成することになる。
そして、初めて人前で漫才を披露するんだ。
しかも島中の中学生が集まる「中文連」という
催しで、いきなり800名の前で。
本来中文連は、琉球舞踊や三線など沖縄の伝統芸能を披露する場なんだけど、恩師の協力もあって特別に漫才で舞台に立つことが許可される。

そこで君は、人生で1番多くの笑い声を聞くことになるよ。
情けない話だけど、今こうやって君に手紙を書いている僕は、まだあの時以上の笑い声を聴けずにいるよ。

そして、その催しで大賞を受賞し、テレビ出演や取材、島のイベントに呼ばれるようになる。
信じられない話だよね。

中学を卒業したらすぐに吉本に入って芸人になろうとするんだけど、周囲の猛烈な反対、家庭の金銭的事情もあって宮古島の高校で3年間を過ごすことになる。
そのことに君は絶望し、再び暗黒期に突入することになるんだけど大丈夫。
君は高校でも漫才コンビを組むし、高校生活最後の半年くらいは通っていて良かったと思えるようになる。
そしてやっとこさ吉本の養成所に入るんだけど…

まあとにかく沢山の紆余曲折を経ることにはなるけど、三又又三さんと水道橋博士という芸人さんのおかげで、君は千原ジュニアさんと舞台の上で共演することになるんだ。

そして、ついに明日がその日。
ここから先は僕だってどうなるか分からない。
もしかしたらめちゃくちゃスベるかも知れないし、積年の思いが目からこぼれてなにも話せないかも知れない。

僕が君にこれから起こる未来をネタバラシしてまで手紙を書いたのは、トイレでうずくまって出てこれない君を安心させるためだと、書き出しの時は本当にそう思っていたのだけれど、それは建前なのかもしれないと書いていて気がついた。

本音では明日が怖いんだと思う、過去の君ではなく、今の自分を安心させたいんだと思う。
できればトイレにこもってまたやり過ごしたいんだと思う。
人はそう簡単に変わらないもんだね。
エヴァンゲリオンの中で「逃げちゃダメだ」って碇シンジ君が言ってたけど、あの時のシンジ君も14歳だった。
僕はこの歳になってもまだそう思っている。

辛い現実ではなく、たとえ長年の夢であっても
いざ目前に迫ると目を逸らそうとする。

でも、この手紙に僕はもう逃げないと宣言する。
路傍の石じゃ終われない。
たとえスターにはれなくとも、一瞬で消え去ってしまう流れ星のような光だとしても、明日だけは眩い光を放ちたい。
同じように暗黒の時期を送っている人たちの、
手元だけでも灯せるような光になりたい。

だから君には、どんなに辛くとも今この瞬間を
生きてほしい。生き抜いてほしい。

君の今が、未来の僕の明日に繋がっているから。
明日の僕も、逃げずにやり抜いてみせるから。
お先真っ暗だと思っている君の元にも、明日の僕が放つ光が少しでも届きますように。

敬具 23歳の君より

歌:ザ・ハイロウズ
作詞:甲本ヒロト作曲:甲本ヒロト
ジョナサン 音速の壁に
ジョナサン きりもみする
ホントそうだよな どうでもいいよな
ホントそうだよな どうなってもいいよな

一発目の弾丸は眼球に命中
頭蓋骨を飛びこえて 僕の胸に
二発目は鼓膜を突き破りやはり僕の胸に

それは僕の心臓ではなく
それは僕の心に刺さった

※リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ
リアル よりリアリティ リアル※

土星の周りに丸く 並んで浮かぶ石がある
アリゾナの砂漠 逆立ちで沈む石がある
置かれた場所に 置かれたままの石がある
金星のパイロンをかすめて
輝きながら飛び去る石がある

(※くり返し)

流れ星か 路傍の石か 流れ星か 路傍の石か

ジョナサン 音速の壁に
ジョナサン きりもみする
ジョナサン 人生のストーリーは
ジョナサン 一生じゃ足りないよな

(※くり返し)

あの日の僕のレコードプレーヤーは
少しだけいばって こう言ったんだ
いつでもどんな時でも スイッチを入れろよ
そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ

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