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とある駅で 就活 面接の思い出

総武線のとある駅


取引先の新規開拓のために降り立った駅
まとまらなかったものの商談が終わり駅周辺で昼を食べながら
「確かこの駅だったよな」
大学4年の夏休み。
この駅近くにある会社の就職面談を受けたことを思い出した。

時計を見ると次の仕事までには時間がある。
どんな様子か会社の前を通ってみよう。
そう思い駅周辺を歩きだす。

日本人女性と結婚した欧州人が営むその会社はドイツなどから
食器類を輸入販売している会社で社員は2~30人だったと思
う。

取り寄せた求人誌に「将来的には現地バイヤーの道も!」との
言葉に魅力を感じて応募した。
当時、海外で働くことが夢だった私にとって会社の規模や給料
などは2の次だった。
とにかく海外へ出るチャンスが欲しかった。

面談日当日。


慣れないスーツを着て会社を訪問。
会社の専務が笑顔で迎えてくれたのを覚えている。

個室へと案内され
「今社長が来るのでちょっと待っててね」と専務さん。
とてもフランクな感じの方だった。

しばらくすると社長登場。
「コンニチハ」と日本語で挨拶してくれた。
面接中はほぼ日本語。
難しい言葉も流暢に話されていた。
言い回しが難しいときだけ
「エイゴ、イイデスカ?」と確認を取ってから英語での
会話。

大学のこと、家族構成。
会社の成り立ちや業務内容。
「ガイコク ヒトリ ダイジョウブ?」
「ハイ。全く問題ありません!」
と答えるとニッコリとしてサムアップしてくれた。

社長との面談が終わるころに専務がノックしてドアから
顔を出し
「社長、この際だから〇〇君にも会ってもらったら?
「ソウデスネ。カレ ハ イマ ジカン アル?」
「はい。応接室で待ってますよ」

「アナタ ジカン アリマスカ?」と今度は社長が
私に時間に余裕があるか確認してくれた。
ジェントルな方だ。
「はい。大丈夫です」
「デハ センム ガ アンナイシマスノデ」
「ありがとうございました」
私が席を立ち上がると社長が手を差し伸べてくれた。
(えっ?握手???まぁいいか)
私も手を差し伸べて社長とガッチリ握手した。

な~んか良い感じの会社だなぁ。


社長や専務さんに対してとても良い印象を抱きながら歩
いていくと応接室へと到着。

専務がドアをノックすると
「どうぞ」とハリのある声が返ってきた。

専務に続いて応接室へ入ると30代前半くらいの男性が
席に座って待っていた。

「忙しいところごめんね。こちら面接を受けに来てくれ
 た方。会社のことなど少し話をしてもらえる?」と専務
が男性社員に笑顔で話しかける。
「はい。わかりました」と男性社員。

「じゃあこちらへ座って〇〇君から話を聞いてみて。質
 問があればどんどん聞いてみてね。年齢が近い方が話 
 し易いこともあるだろうからね」と笑顔の専務。

「ありがとうございます」と専務に挨拶してから男性の
方を向き「よろしくお願いします」と会釈。

「じゃあこちらへ座って」
男性社員にうながされて席についた。

男性の手元には私の履歴書。
端から端まで目を通している。
しばし無言。

「じゃ、ちょっと質問させていただきますね」
と男性社員。
「はい」と私。

「君の年齢なんだけどさ。新卒の割には。。。普通の学生
 より3歳も上だよね?なんで?」
ちょっとぶっきらぼうな聞き方だ。
「はい。高校卒業後に就職して学費を貯めてから専門学校 
 を経て大学へ入ったので」

「ふ~ん。なんでそんな遠回りを?」
「はい。学費のことで親に負担をかけたくなかったので」

「ふ~ん。立派だね」
「ありがとうございます」
立派だねという言葉に少し棘を感じた。

「でもさぁ~。あっ、ひとこと言わせてもらえば大学なんて
 行く必要あったの?無駄に時間過ごしてない?」
「えっ?」
「無駄」というワードに私の心が反応した。

「大学4年間が終わろうとしているけど意味あった?」
「はい。ゼミに入り経営学を学びゼミ長も務めました。
 休みを利用して海外へ行き見分を広めることもできま
 したので全く無駄とは思っていません」
ややムキになって答える私。

「海外?海外旅行でしょ?遊びたいだけだったんじゃな
 い?」
「それもありますが一人で海外を回り自分がどこまでで
 きるのかを知る意味では大きな学びになりました」

「そうやって理由をつけて現実を見ないんだよなぁ、今
 の奴って」
男性社員は投げ捨てるように言った。
目には私に対する敵対心のようなものが宿っている。
そう私には感じられた。

「では〇〇さんの学生時代は意味があったのでしょうか?」
と私。
「私?私は専門学校で輸入業に必要な実技と英語を学びこの
 会社に就職して無駄なくキャリアを積んでるよ。世の中に
 出るのは早い方が良いに決まってるでしょ?考えなくても
 わかることだよ」となぜか上から目線。

「そうでしょうか?」
「そうだよ」
「そんなことはないと思いますけどね」
「どうして?」
「学生時代にいろいろな人と会い経験を積むことで見聞を広
 める。そうすればあなたのような狭い了見にはならないと
 思うんですよね」
(わぁ~言っちゃったよ~)

「狭い了見?僕が?」
面接に来た学生が口ごたえをしてきたので少し驚いている様子
だ。
「はい。世の中、人の数だけ人生があるわけで自分と違うから
 意味がないとか無駄だとか。。。知識や常識のある人なら絶
 対にそんなこと言わないと思います。そんなこともわからず
 に仕事してるのですか?同じことを取引先の人に言えますか
 ?」

「そんなこと取引先の人と話すわけないだろ!」
「学生の私には言えて立場が上の取引先の人には言えないだけ
 なんじゃないですか?そうやって大人って自分の尺度でし
 か(もう私も十分大人だったのですけど)。。」

そのとき

「君たち、一体何をしてるんだ!」とやや顔を引きつらせなが
ら専務さんが応接室のドアを開けた。

私も男性社員も言葉を発するのをやめた。

売り言葉に買い言葉。
相手を押さえつけようとする言葉の応酬になってしまった。
気が付かなかったけど大分大きな声になっていたようだ。

「この辺でいいでしょう、2人とも」
専務が分厚い手を私の肩の上に乗せて席を立つよう促してくれ
た。

「すみませんでした。僕が言い過ぎたかもしれません」と男性
社員。
「いえ。私も熱くなり過ぎてしまい」と私も謝った。

応接室から出ると欧州人の社長が不安そうな顔で私の顔をうか
がっていた。
「お騒がせして申し訳ありませんでした」と私が頭を下げると
「ダイジョウブ?」と心配そうな表情。

「はい。全く問題ありません(まだ腹の虫がおさまらないけど)」
「ok. マタ アイマショウ」
「はい。ありがとうございます」
(また会えるのか?こんな生意気な私と会う気ないでしょ?)

「ありがとうございました」と頭を下げて会社を後にした。
振り返ると社長と専務が笑顔で手を振ってくれていた。
私は再び頭を下げた。

「あぁ~~~やっちまったなぁ」
相手の言葉と言い方に問題があるとは言え面接会場で口喧嘩な
んて。。。
と反省しながらも納得いかない男性社員の言葉に自分の考え
や価値観を自分の言葉で返すことができていた自分を誇らし
くも思い、ちょっと痛快な気持ちになった。

「こりゃ落ちたな。でもいいや。世の中には会社なんていく
らでもあるんだから」

面接を受けた会社への未練は全くなく帰宅する電車に乗りこ
んだ。

後日。
あの会社から採用可否の手紙が届いた。
封を開いてみる確認すると
「採用」の文字が。

あれ?採用なんだ。なんで?(笑)

あれから10年(当時)


まだ会社は続いているのかな?と思いながら当時の記憶を頼
りに会社のある場所へたどり着いてみると。。。

会社が入っていたビルはカラッぽになっていた。
ドアや窓には「テナント募集中」の告知が貼ってあった。

移転でもしたのかな?
あると思っていたものがないと気になるもの。
たまたま通りかかった初老の女性に
「あの、すみません。以前、ここに食器を輸入している会社
 があったと思うのですが。。。」
「あぁ~あのヨーロッパの人が経営していた会社でしょ?何
 年か前に倒産しちゃったみたいなのよね」

えっ???倒産しちゃった????
「そっ、そうでしたか。。。」
「お知り合いだったの?」と女性。
「いえ、そういうわけではないのですがちょっとお世話にな
 ったことがありまして。。。」
「そう。会社が生き残るって大変なことって聞きますもんね」

正確な数字は分からないけど企業した会社のほとんどが10年
後には消えていると聞いたことがある。

カラッぽになった賃貸ビルを見上げながら欧州人の社長やニコ
ニコ専務の顔が浮かんだ。

そしてあの男性社員。
今はどこで何をしているのだろう?
あれから10年ほど経過しているから40代。
就職先は見つかったのかな?

要らぬ心配をしている自分がいた。

(おわり)


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