『サンクラウンの花嫁〜薄明の街〜』後日談
前作:『サンクラウンの花嫁〜薄明の街〜』
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聖剣トニートルアが私のお付きになって十数日。イヴァンがまだ青い花と竜のお話を書いている頃。トルア爺やは私に供を増やせと何度も催促した。女神ティナ・サンクラウンは専用の侍女もいないし、天空神のように武装した小人の兵隊を付けている訳でもない。恒星の末裔たる女神ならば侍女も兵士も抱えて然るべきだと彼は口酸っぱく言った。
「そんなこと言われたってねえ」
私はトルア爺から逃れ私室でナーシャとミーシャに髪を触らせている。
「専用のお供を付けたら家が狭くなっちゃうわ」
「でしたらティナ様専用の屋敷を作っては?」
「嫌よ! ナーシャとミーシャから離れるなんて!」
私は振り向いて二人にぎゅっと抱きつく。
「ミーシャ、そんなことしたらわたくしたちもティナ様のお世話が出来なくなるわよ?」
「そうねナーシャ。それは困るわ。ティナ様はわたくしたちの妹であり奥様ですもの」
私を宥めて双子は髪結いを再開する。
「聖剣は天空神の伴侶だからこそ格式高い生活をして欲しいのでしょう」
「言いたいことはわかるわ。でもでも、ナーシャとミーシャ、小人に私にレイヴンで一つの家族なんですもの。無理に変えたくないわ」
「そうですね」
「困りましたね」
「本当に」
三人ではぁと溜め息をつく。髪結いを終え、私は双子が繕った新作のドレスに袖を通す。まだ調整があるそうなので今は試着だ。純白から空色のグラデーションになっている豪奢な刺繍のドレス。袖口と裾は広くゆったりしている。女神にふさわしいよそ行きのドレスだ。私はくるりとその場で回る。
「どう?」
「お似合いです」
「ええ、とても」
「完璧に見えるけど、完成していないの?」
「ええ。やはりティナ様に着ていただかないと細かい調整が出来ませんから」
二人はそう言って針刺しを左の手首に装着し、ミーシャはレイヴンの羽から紡いだ白い糸で腰のあたりの布を調整し始める。ナーシャは私を前から眺めて裾の折り目を弄り始める。
「二人とも本当に器用よね」
「ティナ様も針仕事はすっかりお上手になりましたでしょう?」
「前よりはね。でも二人の熟練の技術には負けるわ」
「お褒めに預かり光栄です」
本当の最終調整をするからと双子はドレスを抱えて私室に引っ込む。私は薄着のさらりとしたドレスに着替え居間へ戻る。レイヴンが変わらず静かにソファで本を読んでいて、トニートルアの姿はなかった。
「あれ? トニートルアは?」
「いい加減煩かったのでな、剣に戻した」
「あらま」
レイヴンの横に腰掛けると彼の膝の間に聖剣が立て掛けてあった。
「そのままでも良かったのに」
「これの堅苦しさは昔からでな。俺も飽き飽きしていたところだ」
「昔から爺や気質だったのね……」
「悪気がないのはわかっているが形式にこだわるきらいがあってな。聖剣故仕方のない部分ではあるんだが……。まあ無理に口を利く必要もあるまい。この状態で持ち歩け」
「え? 家の中でも持ち歩くの?」
「うむ。この庭が今どう言う生活をしているのか見せて歩くといい」
「わかったわ」
私はレイヴンから受け取った聖剣を膝に置いた。鞘の上でぱたぱたと手を動かして、双子に剣帯があるか聞きに席を立った。
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