見出し画像

スカイラインが、好きだ。

小学生のころ、私は大阪郊外の新興住宅地に住んでいた。
鉄道駅が近くそこそこ分譲住宅が建っており人口もあったが、学校が建設されるほど大規模なものではなかったので小学校は旧村落の中にあった。
校区の端に位置する我が家から子供の足でまじめに歩いて45分はかかっただろうか。遊びながらの帰り道だと1時間を優に超えた。
小学生ながらにこれは苦行以外の何物でもなかった。

そんな小学校生活の3年だったか4年のころだったか、S君という同級生が我が家の近くに引っ越してきた。いま思えば転勤族のお父さんの借り上げ社宅で一軒家になったのだろう。
そのS君とクラスが同じになり、なんとなく友達になり、一緒に帰るようになり、自宅にも遊びに行かせてもらうようになった。
S君の家は交差点に面して建っており、角の2面に接する形で道路側が駐車場。東京のナンバーをつけたディープマリンブルーパール色の日産R33型スカイラインGTSが交差点にお尻を向けて停まっていた。家に入るとSのエンブレムがあしらわれたキーがケースに収まっていた。カッコよかった。

小学生も成長してくると悪知恵を働かすようになる。
ある日の放課後、携帯電話もPHSも普及していなかった小学校の職員室の前にある公衆電話に10円を入れ、我が家に電話をした。
『迎えに来てくれへん?S君も居るねん』
当時の母は専業主婦でS君の母もたぶん専業主婦だったと思う。それが郊外の新興住宅地の標準だと思っていた。
電話を切り、学校の門前というのはどうもなあと母から指定された合流場所に移動するとほどなくして我が家の自家用車である地元ナンバーのペールイエローオパール色のトヨタT190型カリーナがやってくる。クルマだと我が家から小学校の前まで5分かかるかどうかの距離だったのだ。
母たちを呼び出す役目が順繰りになるまで時間はかからなかったと思う。
かくして、あこがれのスカイラインに乗ることができた。

クッションのきいた肌触りの良いシート、高ぶる加速感、ここち良いエンジン音、車速連動で一斉に閉まるドアロック。
すべてが新鮮で、圧倒的だった。

それからの日々、S君とは毎日のようにクルマの話をした。
時々私の領分である電車の話もしたが、基本的にはクルマを話題の中心にするようにしていたと思う。母からは『アンタの影響でS君が電車の話をするようになったで』と言われた記憶もあるので本稿のように脱線は多かったのだろう。

S君は6年生の時にまた転校していき、スカイラインともここでお別れであった。そして、私は卒業アルバムに『スカイラインGT-Rの4ドアを買う。』と書いた。
現況を交換しておらず、いまどうされておられるのかはわからないが、当時のS君の顔とS君の家のスカイラインだけが私の心の中にずっと居残っている。


画像はこちらより拝借しました。
https://toprankglobal.jp/stockdetail/90389/1996%20Nissan%20SKYLINE

いいなと思ったら応援しよう!