涙がキラリ☆|脚本
※シナセンの課題「ハンカチ」に挑戦した脚本となります
梗概
大学生の龍(20)は恋人波瑠(19)を事故で失った悲しみから立ち直れずにいる。
ある日、龍が眠っていると目の前に死神が現れる。死神に死んだものと勘違いされた龍はあの世へと連れ去られてしまう。
あの世では波瑠が暮らしており、龍は一年ぶりに波瑠と再会する。
思い出話に花を咲かせる中、龍は波瑠にハンカチを見せる。高校時代、部活の試合に負けて悔し涙を流す龍に波瑠が渡したもので、それが二人の関係の始まりだった。
やがて龍を現世に送り返すための手はずが整い、二人に別れの時間がやってくる。
波瑠を失って以来生きることに悲観的な龍はここに残ると言い出す。波瑠は断固として反対し、拗ねる龍からハンカチを取り上げる。
現世に戻るための期限が迫る中、波瑠は「私が好きになった人はどんなことがあっても諦めない」と過去と同じように龍にハンカチを渡す。波瑠の言葉に龍は戻ることを決心する。
別れの時。龍は波瑠に「人生を諦めない」ことを約束し、涙の口づけを交わす。
こうして龍は目を覚まし、涙で濡れたハンカチを握りしめると晴れやかな気分で歩き出すのだった。
《登場人物》
龍(20) 大学生
波瑠(19) 龍の恋人。故人
デス助(46) 死神
デス太(18) 死神
ウロボロス(27) 死と再生の神
サリエル(50) 死を司る天使
工藤(20) 龍の友人
脚本
○大学キャンパス
春の日差しが降り注ぐ。
龍(20)、死んだ目で歩いている。
芝生で工藤(20)らがサッカーをして遊んでいる。
工藤、龍に気づいて、
工藤「(叫ぶ)龍! 一緒にやらんか?!」
龍、無言で通り過ぎる。
工藤、寂しげに見送る。
× × ×
龍、ベンチに座っている。
龍、ポケットから真っ白なハンカチを取り出す。
龍、ハンカチを見つめる。
龍、日差しを遮るようにハンカチで顔を覆う。
龍、そのまま眠り込む。
× × ×
ベンチへ近づく人影。
人影、龍の前に立ち止まる。
○オフィス
声「バカタレがっ!」
室内にサリエル(50)の怒鳴り声が響く。
サリエルの机の上には「大天使」と書かれた役職プレート。
サリエル「生きた人間の魂を奪う奴があるか!」
サリエルの前でスーツ姿のデス助(46)とデス太(18)が萎縮している。
デス助「(頭をさげる)申し訳ございません! コイツ、なにぶんぺーぺーなもので!」
デス太「(頭をさげる)ハンカチを白い布と間違えて申し訳ありませんでした!」
○大学のキャンバス(回想)
デス太、顔をハンカチで覆って眠る龍の前に立っている。
デス太、手を合わせる。
デス太「ご愁傷様です。これよりあの世へお連れいたします」
○(戻って)オフィス
サリエルの手元に書類。
書類には龍の顔写真と、「死亡」の文字。
サリエル、書類をデス助へ放り投げる。
サリエル「この件はお前たちで始末をつけろ」
○道
龍、歩いている。
龍、不思議そうに周りを見渡す。
龍「…なんや? ここは」
とデス助とデス太、駆けてくる。
デス助「龍さん! やっと見つけましたぜ!」
龍「…?」
× × ×
デス助「というわけでして、コイツ、なにぶんペーペーなもので。おい、謝れ!」
デス太「(頭をさげる)ハンカチを白い布と間違えて申し訳ありませんでした!」
龍「(困惑して)…よくわからんのやけど、要は手違いで自分は死んだことにされ、今俺がおるのはあの世の世界ってことですか?」
デス助「ご安心を。ウロボロスって粋な野郎がいましてね。奴さんに頼めばすぐに元の世界にあなたを帰せますんで。少しばかりお時間をくだせえ」
龍「…」
龍、ポケットからハンカチを取り出し、じっと見つめる。
デス助「ではあっしらはウロボロスを探しますんで!」
デス助とデス太、立ち去ろうとする。
龍「(呼びとめる)あ、あの」
デス助「(振り向く)へぃ、なんでございましょ?」
○丘の上へと続く階段
龍、登っている。
○道(回想)
龍、デス助とデス太へ、
龍「会いたい人がおるんです」
○(戻って)丘の上
桜が咲き誇っている。
龍、やってくる。
波瑠(20)、桜の木に寄りかかって本を読んでいる。
龍、はっとして立ちどまる。
龍「(ぽつりと)波瑠…」
波瑠、顔をあげる。
波瑠、呆然と佇む龍を見て、
波瑠「(驚く)…龍?」
○ファミレスの店内
龍と波瑠、パフェを食べている。
波瑠「そっか。龍もか…」
龍「うん…」
波瑠「でもなんで?」
龍「説明が難しいんやけど、事故っちゅーか」
波瑠「え。龍も?!」
龍「まあ、うん」
波瑠「うちらさ、生前なんか神様に罰当たりなことでもしたんかな?」
龍「え」
波瑠「だって二人とも事故死やで? 確率ヤバくない?」
龍「…うん」
波瑠「しかも私が死んでまだ一年やろ? たった一年の間に龍まで…」
龍「…」
波瑠「(察して)ごめん。龍は来たばっかで心の整理がついてないよな。私はもう慣れたもんやけど」
波瑠、パフェをスプーンでいじらしくかき混ぜる。
波瑠「なんや久しぶりに龍に会えたことが嬉しくて…」
龍「…いや、俺も波瑠に会えてめっちゃ嬉しいで(と笑う)」
波瑠「(笑う)」
○道
龍と波瑠、歩いている。
波瑠「死んだ人は生まれ変わるまでの間ここで順番待ちするんや」
龍、周りを見渡している。
波瑠「うちらは同い年やけど、ここでは私のほうが一つ先輩や。龍、何でも聞いてええで」
龍「うん。頼む」
波瑠「頼む? 先輩には敬語やろ?」
龍「え」
波瑠「冗談や(と無邪気に笑う)」
龍、波瑠の笑顔に見とれる。
波瑠「(気づいて)ん?」
龍「…いや」
○公園(夕)
龍と波瑠、ベンチに座っている。
龍「一人んなってから、波瑠はなんで俺なんかと付き合ったんかずっと考えてた」
波瑠「どしたん急に?」
龍「いや、そういうこと、話したことなかったから」
波瑠「…確かにな」
龍「高校んとき、菊池も波瑠のこと好きやったみたいだし」
波瑠「菊池くんが?」
龍「うん。菊池は顔がええから女子からようモテたし、サッカーも俺よりうまい。勝てる要素ないなって」
波瑠「…菊池くんかー。私も菊池くん好きやったよ」
龍「え?」
波瑠「二股かけててん」
龍「…あ、そうなんや」
波瑠「(吹き出す)え? 冗談に決まってるやろ?」
龍「びっくりした」
波瑠「(笑う)騙されたん?」
龍「いや、もしかしたらって」
波瑠「そんなわけないって」
龍「うん」
波瑠「(考える)龍と付き合ったんは、あれや。顔がタイプだったから」
龍「マジで?」
波瑠「なんかごめん」
龍「嬉しいけど…」
波瑠「龍は?」
龍「え」
波瑠「龍はなんで付き合った?」
龍「…」
波瑠「私も教えたんやから」
龍、ポケットからハンカチを取り出す。
波瑠「(見て)それ…」
龍「波瑠がくれたハンカチ。俺は波瑠の全部が好きやけど、何よりも波瑠の優しさに惚れたよ」
波瑠「え。顔とかいうた私が申し訳ないんやけど」
龍「(笑う)高校のサッカー部でさ、俺が試合に負けてズタボロになっとったとき…」
○サッカーグラウンド(回想)
高校生の龍、ベンチでうなだれている。
龍の顔から汗とも涙ともつかぬものがこぼれ落ちている。
と龍の目の前に一枚のハンカチ。
龍、顔をあげる。
制服姿の波瑠が立っている。
龍「…」
○(戻って)公園
龍、ハンカチを見つめる。
龍「あの日から波瑠のことが…」
とクラクションが鳴る。
龍と波瑠、振り返る。
一台の車が停まっている。
デス助、車の窓から顔を出す。
デス助「どうも! お待ちどうさんです! (助手席を振り向いて)おい! 謝れ!」
デス太の声「お待たせして申し訳ありませんでした!」
デス助「(龍へ)ウロボロスの野郎と連絡が取れやした! 案内するんで乗ってください!」
波瑠「…?」
× × ×
車の前でデス助とデス太が待っている。
龍と波瑠、ベンチに座っている。
波瑠「(納得して)そういうことか」
龍「…うん」
波瑠「また一緒にいられると思ったのに。寂しなるな(と微笑む)」
龍「…」
波瑠「でもよかった。龍が生きとって。そりゃそうやって。確率おかしすぎやもん。龍がここにくるには早すぎや」
龍、考え込んでいる。
波瑠「…龍?」
龍「…帰る話、断ろうと思うんや」
波瑠「…なにいうんてんの?」
龍「たとえ手違いでも、書類が受理されればこのままここで暮らせるんやって。あの人たちがそういうとった」
波瑠「…」
龍「そしたらまた一緒におれるようになる」
波瑠、笑い出す。
龍「…?」
波瑠「そっかそっか。マジメな龍も冗談がいえるようになったんやな」
龍「(ムキになって)冗談やない」
龍、手にしていたハンカチを握りしめる。
龍「波瑠がおらんなってから…ずっと波瑠のことばかり考えてた…」
波瑠「…」
龍「今でも波瑠が好きや…だから…」
波瑠「…」
波瑠、龍からハンカチを取り上げる。
龍「…?」
波瑠「このハンカチはな、生きられるのに死にたいなんていう、そんな人のためにあげたのではありません」
龍「…」
波瑠、立ち上がる。
波瑠「さ、はよ車に乗りぃ。あの人たち、待ちくたびれてるよ」
龍、動こうとしない。
龍「(声を震わす)…なんでや? 波瑠は俺といたくないんか?」
波瑠「…」
龍「…生きてる気がしないんや。全部がどうだってええ。生きてたってもう何も楽しいことなんかない…波瑠のいない人生なんか何の値打ちもないんやッ!」
波瑠「(冷たく)さっさと車に乗りぃ」
龍、乱暴に立ち上がる。
龍、車とは反対の方向へ歩き出す。
波瑠「龍!」
○駅前(回想・夜)
龍、スマホをいじっている。
LINEで波瑠から以下の写真が送られてくる。
初心者マークのついた新車と共に写る波瑠の写真。
龍、見て、ふっと笑う。
波瑠から以下のメッセージ。
「バイト終わった? 今から車で迎えにいったるよ」
「いいって。心配や」と返す龍。
「平気やって。そこで待っといて」
龍、笑顔でメッセージを眺める。
× × ×
龍の前を通り過ぎてゆく車。
龍、待ち遠しそうに車道を眺めている。
と遠くで救急車のサイレンが鳴って…
○(戻って)丘の上(夜)
龍、桜の木に寄りかかっている。
龍、じっと考え込んでいる。
波瑠、やってくる。
波瑠、龍の横に座る。
波瑠「悪かった思ってるよ。あんな形で龍の前から突然いなくなって」
龍「…」
波瑠「事故なんか遭わなきゃ、二人でもっと色んな思い出を作れた」
龍「…」
波瑠、手にしているハンカチを見つめる。
波瑠「…実はな、他の女子と一緒で私も菊池君のこといいなと思ってた」
龍「…」
波瑠「あの日サッカー部の応援いったのは、ほんまは菊池くん目当てやったんや」
龍「…」
波瑠「うちらの高校は相手チームに大差で負けてた。菊池くんや他の男子は試合を投げてしもうてた。でも龍だけは違ってたんや。最後の最後まで戦ってた。私な、龍のその顔に惚れてしもうたんや」
龍「…」
波瑠、立ち上がる。
波瑠、龍へハンカチを差し出す。
波瑠「どんなことがあっても最後まで絶対にあきらめない。私がハンカチを渡した人はそういう人です」
龍「…」
龍、ハンカチを受け取る。
龍、ハンカチを強く握りしめる。
龍「…わかったよ。波瑠」
龍、立ち上がる。
波瑠「(笑顔になる)」
○車内
運転席にデス助、隣にデス太。
フロントガラスの向こうから龍と波瑠が走ってくる。
デス助「(気づいて、窓から顔を出す)龍さん?!」
龍「帰ります! 乗せてください!」
デス助「そりゃいけねえ! ウロボロスの野郎、今夜バカンスに出かけちまうって話だ! 急がねえと帰れなくなっちまいますぜ!」
○猛スピードで走る車
○空港・外
車、停まる。
龍と波瑠、車から飛び降りる。
龍と波瑠、走り出す。
○空港・中
龍と波瑠、必死に叫んでいる。
龍「ウロボロスさん!」
波瑠「ウロボロスさん! いたら返事してや!」
× × ×
龍「ウロボロスさん! おりませんか?!」
ヘビ柄のファッションに身を包んだウロボロス(27)、振り向く。
× × ×
ウロボロス、息を切らした龍を見て、
ウロボロス「(舌打ち)…めんどくせえな」
龍「そこを何とか!」
ウロボロス「ちゃちゃっと済ませるからじっとしてろ」
ウロボロス、両手を龍へ向け、念を込める。
龍「待ってください!」
龍、辺りを見回す。
波瑠、息を切らして走ってくる。
龍、波瑠のもとへ向かう。
龍「…何とか間に合ったよ」
波瑠「よかった」
龍「…うん」
波瑠「あきらめたらアカンよ。龍の人生を」
龍「…うん。あきらめない」
ウロボロス「(じれったい)おい! まだか!」
波瑠「(寂しげに)…お別れやな」
龍「…」
波瑠「龍。私がいなくても幸せになるんやで?(とおどける)」
波瑠、笑顔のまま龍に背を向ける。
波瑠、歩き出す。
波瑠の笑顔が歪み、大粒の涙が溢れる。
龍の声「波瑠!」
波瑠、立ち止まる。
波瑠、涙で濡らした顔で振り返る。
龍、泣き出しそうな顔で波瑠を見ている。
龍「波瑠!」
波瑠「龍!」
二人、お互いに駆け寄る。
二人、抱き合い、キスをする。
○大学キャンパス
龍、目を覚ます。
龍、顔を覆ったハンカチを取る。
頬を伝った一筋の涙がきらりと光っている。
龍「…夢…なのか?」
龍、ハンカチをじっと見つめる。
とサッカーボールが転がってくる。
遠くに工藤が立っている。
龍、ハンカチをしまう。
龍、ボールを蹴り飛ばすと、笑顔で工藤たちの方へ走り出す。
(おわり)
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