いいタイトル、ダメなタイトルの映画

映画に触れたときに最初に目にとまるのがタイトルだ。

人名のようなもので「流星」とかだとカッコよく思えるし、反対に「太郎」とかなら印象に残らない。

タイトルには人を惹きつける魅力があり、
小説界隈には「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」という言葉もあるようだ。



タイトルをどう付けるか、を考えた時、
まず思い浮かぶのは内容を表したタイトルだ。

タイタニックを舞台にした話なら「タイタニック」、侍が七人出てくる話なら「七人の侍」、はみ出し者の警官が主人公の話なら「ダーティハリー」。

これらは「名は体を表す」の言葉に従って、
ズバリ内容を表している。

侍が七人出てくる話なのに「八人の侍」では不自然なのはいうまでもない。

冒頭にあげた人名を例に出せば、

(誤解を恐れずにいえば)「流星」なら間違いなくイケメンでなければならない。

仮にずんぐりむっくりのおっさんが「流星」なら、浮いた名前になってしまうし、

中身に合った名前をつけると今度は地味な名前になり、印象に残らなくなるだろう。

「名は体を表す」形式のタイトルは、
内容に根付いた名前という意味では手堅いタイトルの付け方だと思うが、

いいタイトルかどうかはまた別の話だ。


では、いいタイトルとはどんなものか。

いいタイトルの条件には以下の3パターンあると思っている。

① 内容を表しており、かつ、語感のいいもの
② 書き手の眼差しを感じるもの
③ 文学的あるいは詩的なもの

① 内容を表しており、かつ、語感のいいもの、

は前述した「名は体を表す」の条件に加えて、言葉の響きのいいタイトル。

例えば「時をかける少女」はどうだろうか。

タイムリープする少女が主人公だから「時をかける少女」

内容的には別に"タイムリープ少女"でもいいのだが、それよりも"時をかける少女"のほうがイメージが広がる。

内容を的確に表した結果、
印象に残るタイトルになった、

そんな好例だと思う。



② 書き手の眼差しを感じるもの

言い換えると、書き手の思いが詰まったタイトル。

僕のお気に入りのタイトルの一つである、

「ボーイズドントクライ」

を紹介する。

性同一性障害の男(見た目は女)の屈辱的な半生を描いたこの映画に、

ボーイズドントクライ(男の子は泣かない)

このタイトルをつける書き手の眼差し。

内容を表すのなら「トランスジェンダー」でも「ブランドン・ティーナの半生」でも何でもいい。

だけど「ボーイズドントクライ」

タイトルだけで感動してしまった。
(ただしストーリーは微妙)

他にも、

「問題のない私たち」
「一番美しく」


なんかも書き手の意志をビリビリ感じるタイトルで、僕好みだ。




③ 文学的あるいは詩的なもの

内容とは関係ないように思えるが、言葉の美しさゆえに惹かれるタイトル。

思いつくのは、

「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」
「潜水服は蝶の夢を見る」

の二つ。

タイトルに惹かれて観た数少ない映画だ。

余談だが思わずタイトル買いした小説も以下のように色々ある。

存在の耐えられない軽さ
限りなく透明に近いブルー
アルキメデスは手を汚さない
さようなら、ギャングたち

どれも読み終わらないうちにブックオフに売ってしまったけれど。(ストーリーがよくわからなかった)




一方で悪いタイトルも当然ながらある。

僕が考える悪いタイトルは以下の3パターン。

① タイトル詐欺のもの
② 食傷されたもの
③ 印象が薄い、または、覚えられないもの

以下、タイトルが残念だと思う映画をいくつか取り上げて解説していく。



1 未来のミライ

一言でいえばタイトル詐欺。

タイトルと内容とが明らかに噛み合ってない。

このタイトルにするのであれば、ストーリーをボーイミーツガールの型にして、ヒロインの立ち位置にミライを据える必要がある。

実際のストーリーはどうなっているかというと、実質ロードムービーの形をとっており、

主人公のクンちゃんが遭遇するいくつかのエピソードの一つにミライが登場するに過ぎない。

なので騙された感が強く、それなら、

「クンちゃんの大冒険」
(このタイトルもひどいけど)

とかのほうが内容を表しているだけまだマシだったのでは。



2 ゼログラビティ

タイトル詐欺とは少し違うが、 
悪名高い邦題として知られている作品。

原題は「Gravity」で、
邦題は原題と真逆の意味になっている。

この映画ではタイトルがストーリーにおいて重要な役割を果たしており、
ラストでタイトルの真意が明かされる作りになっている。
(詳しいことはネットで検索して頂ければわかる)

なのだが、邦題のせいでその優れた仕掛けが台無しになってしまった。

ただしゼログラビティのほうが中二病を刺激してくる感じは認めざるを得ない。



3 それでも夜は明ける

名作だと思う。

原題は「12 Years a Slave」。
意味は 12年の奴隷として。

僕はいいなと思った映画は必ず二回以上観ることにしているのだけれど、

この映画に限ってはタイトルがひどすぎるせいで一回観たきりだ。

「それでも」とか「恋する」とか、そういう食傷された言葉がついたタイトルを見てしまうと手に取る気になれない。

この邦題を考えた人は本当に罪深いと思う。

あと、少し昔の作品だと「物語」がつくタイトル。

「アラバマ物語」とか「近松物語」「ハチ公物語」。

物語をつければ許されると思っている。
(近松物語は名作だけど)

あるいは「奇跡」もそうだ。

「奇跡」がつくタイトルで面白い映画を観た試しがない。

中身がないから、タイトルで強く見せようとしているのがバレバレだ。



4 ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ 

優れたストーリーを持った名作にも関わらずタイトル名が覚えられないから好きになれない。

原題は「Lock, Stock and Two Smoking Barrels」

随所に言葉遊びが使われているタイトルで、ハッキリとした意味はないようだ。

このタイトルに邦題をつけないのは仕事放棄しているのと同じだと思う。

「それでも夜は明ける」と同罪だ。

中学生二年生ならカッコいいと思えるタイトルかもしれないが、そういう歳でもないので、

ちゃんと考えてタイトルを付けてほしい。

本当はこの作品が定期的に観たくなるのだけれど、名前を覚えられないから「スナッチ」で我慢している。



5 愛が微笑む時

最後、5本目。

隠れた名作の筆頭であると同時に、印象に残らないタイトルの筆頭。

韓国映画「ハローゴースト」や、(おそらく)「想い残し」もこの映画を下敷きにしていることからわかるように、

後の作品に影響を与えるストーリーを持った名作なのだが、

隠れているのはタイトルのせいだと思わざるを得ない。

原題は Heart and Souls 
意味は 心と魂

この邦題なら「心と魂」でも変わらない。

やっつけ仕事にも程がある。

初めて映画に対してかわいそうと思った。

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