目覚ましき隣人|脚本
※ラジオドラマコンクール「南のシナリオ大賞」に出しそびれたシナリオとなります
あらすじ
会社員の和哉(23)は遅刻魔。
目覚ましをセットしても朝起きれない。
ある朝、家の外から異様な嗚咽が響き渡り、和哉は目を覚ます。
以来、毎朝ジャスト6時になると謎の嗚咽が聞こえてくるようになる。奇しくも嗚咽が目覚まし代わりとなり、和哉は会社に遅刻せずに済むようになる。
しかしある日、嗚咽の時間が8時に繰り下がったことで和哉は遅刻してしまう。激怒した和哉はついに嗚咽の主と対峙する。
嗚咽の主である坂上(40)は最近和哉のアパートに越してきた隣人で、和哉へ「自分は咽の病気だ」と釈明するが、「病気なら病院にいけ」と和哉は怒鳴り散らす。
一方、和哉もまた会社の人事部から「遅刻を直すために病院にいったらどうだ」といわれ、最後通告を言い渡される。
向かったメンタルクリニックで和哉は坂上と鉢合わせする。
坂上は、嗚咽は仕事へ行くことへのストレスからくる心因性のものだと明かし、和哉に詫びる。理由を知った和哉は自分も寝坊という朝の悩みを抱えていることから同情し、坂上に詫びる。
こうして二人は完治を約束する。
しかし、相変わらず和哉は起きれず、そうして嗚咽は轟くのだった。
人物
和哉(23) 会社員
先輩(29)
上司(50)
人事部(30)
蕎麦屋の店主
車掌
看護士
坂上(40) 和弥のアパートの隣人
脚本
SE 目覚まし時計の音
ジリリリリリ…
ジリリリリリリ…
ジリリリリリリリ…
鳴り止まない目覚まし時計
重なるようにしてオフィス街の喧噪が響きわたる
和哉「申し訳ありません!」
上司「…君、今何時だと思ってる?」
和哉「…すみません」
上司「もっと社会人としての責任を持ってくれないと困る」
和哉「…はい」
上司「朝起きれないのなら夜早く寝る。前にも同じことをいったよな」
SE ドアの開閉音
店主「らっしゃい!」
和哉「…博多ラーメンで。トッピングで煮卵ください」
店主「博多ラーメン一丁!」
先輩「…へえ。遅刻してきた奴が煮卵なんかのせちゃうんだ」
和哉「(驚いて)先輩…」
先輩「(店主へ)すみません、自分にも同じの一つ!」
SE 麺をすする音
先輩「入社一年目にして三度目の遅刻か。お前のメンタルが羨ましいよ」
和哉「別にそんなんじゃないですよ」
先輩「新記録だな。新人王狙えるぞ」
和哉「茶化さないでくださいよ。こっちは真剣に悩んでるんですから」
先輩「…寝坊ねえ。しかしそんなに起きれないものか?」
和哉「(ため息)」
先輩「まあそう落ち込むな。どうだ? 今晩、ぱーっと飲みにでもいくか?」
和哉「…ムリですよ」
先輩「先輩の誘いを断るってか」
和哉「今日は帰って速攻で寝るんで」
SE 麺をすする音
重なるようにして、羊の数える和哉の声
和哉「羊が1匹羊が2匹羊が3匹羊が4匹…」
和哉「羊が144匹羊が145匹…」
和哉「羊が512匹…羊が513匹…羊が514匹…」
和哉「羊が…」
SE 目覚まし時計の音
ジリリリリリ…
ジリリリリリリ…
ジリリリリリリリ…
鳴り止まない目覚まし時計
突然(外から)男の異様な嗚咽
目覚まし時計の音、とまる
先輩「…えづき声?」
和哉「ヤバい咳っていうか。明らかに肺をやられてるっていうか」
先輩「でも何で急に聞こえだしたんだよ」
和哉「たぶん、自分の隣に引っ越してきた奴がいて、ソイツがアパートの外廊下でえづいてたんだと思います」
SE 麺をすする音
和哉「もうびっくりするぐらいうるさくて。う゛ぇええぐべああああーーーーーーうわああーー! って感じで」
先輩「…大げさにやってるだろ」
和哉「いや、ほんとなんですって」
先輩「もっかいやってみ」
和哉「う゛ぇええぐべああああーーーーーーうわああーー!」
先輩「最後のうわああーーってのは何なんだよ」
和哉「いや、わかんないですけど」
先輩「…でもさ、お前、そのおかげで今日は遅刻しないで済んでんじゃん」
和哉「え?」
先輩「嗚咽の主は最近越してきたんだろ? てことは今後もえづく可能性が高いな」
和哉「いやいや、冗談やめてくださいよ…」
SE 目覚ましの音
(被せるように)男の嗚咽
先輩「…おう。何だ?」
和哉「6時ジャストです」
先輩「6時?」
和哉「昨日話したえづき声ですよ。しかも昨日と全く同じ時間、6時ジャストです」
先輩「そうか。それなら明日も楽しみだな」
以下カットバック
SE 目覚ましの音
(被せるように)男の嗚咽
和哉「おはようございます!」
上司「おはよう」
SE 目覚ましの音
(被せるように)男の嗚咽
和哉「おはようございます!」
上司「8時か。最近は早めの出勤じゃないか。いい心がけだ」
SE 男の嗚咽
先輩「あれから例のえづき声はどうだ?」
和哉「もう目覚ましは使ってないです。絶対6時に聞こえてくるんで」
SE 男の嗚咽
和哉「よし。今日で一ヶ月無遅刻か」
カットバック終わり
SE 男の嗚咽
和哉「…朝か」
SE 朝の駅のホームの喧噪
車掌「…一番線に到着する8時47分発準特急新宿行きの待ち合わせを致します。発車までしばらくお待ちください」
和哉「え?」
車掌「えー、ただいま8時47分発準特急新宿行きの待ち合わせを致しております」
和哉「8時47分…(と絶句)」
SE 麺をすする音
先輩「つまりこういうことか。6時ジャストのえづき声が今日に限って8時過ぎだった。でもお前は6時だと思い込んで出勤したものだから大遅刻をやらかした」
和哉「…フツー6時だと思いますよ」
先輩「それで、会社はなんて?」
和哉「…それが」
以下、回想
上司「少し褒めたらこれか」
和哉「いえ、違うんです」
上司「何が違うんだ」
和哉「…申し訳ありませんでした」
上司「私はもうかばいきれん。あとは人事部が君をどう判断するかだ」
回想、終わり
和哉「…てな感じで(ため息)」
SE 麺をすする音
重なるようにして、目覚ましの音
男の嗚咽
目覚まし、とまる
激しい足音
ドアが乱暴に開く音
和哉「(怒鳴る)うるせえんだよ!」
坂上「(嗚咽)」
和哉「うるせえっていってんだよ!」
坂上「…(嗚咽)」
和哉「何なんだよ! 毎朝毎朝!」
坂上「(苦しげに)す、すいません…朝の冷気を吸うと…(嗚咽)」
和哉「うるせえんだよ! 病気なら病院いけよ!」
SE オフィス街の喧噪
上司「おい。人事部の人間が呼んでる」
和哉「…はい」
SE ノックの音
ドアの開閉音
人事部「…入社一年目で四回の遅刻。しかも四度目は無断遅刻となってますね」
和哉「…申し訳ありません」
人事部「今後も続くようなら勤怠不良を理由に解雇などの厳しい措置を考えなくてはなりません」
和哉「…はい」
人事部「寝坊が治らないのなら一度病院で診てもらったらどうですか」
和哉「はぁ」
人事部「精神的なもの、もしくは何か重大な疾患が原因かもしれない」
SE ドアの開ける音
和哉「失礼しました」
SE ドアを閉める音
和哉「(ボヤく)…病院にいっても治らねえんだよ」
SE 病院のロビーの雑音
看護士「坂上さん、坂上和哉さん」
和哉、坂上「あ、はい!」
坂上「…あ」
和哉「あ」
以下フラッシュバック
和哉の声「うるせえんだよ! 病気なら病院いけよ!」
フラッシュバックおわり
坂上「…どうも」
和哉「…はあ」
SE 病院のロビーの雑音
坂上「すみません、同姓同名だと病院で戸惑っちゃいますね」
和哉「(そっけない)そうっすね」
坂上「…心因性のものなんです。私の咳」
和哉「…」
坂上「私、人間関係が大の苦手でして、朝起きて、これから同僚や上司と会うんだと思うと胸が苦しくなって咳がとまらなくなるんです」
和哉「…」
坂上「毎晩のように思います。朝を迎えるのが怖い。とはいえ私のせいであなたには迷惑をかけている。ほんとに申し訳ない」
和哉「…気持ち、わかります」
坂上「え?」
和哉「いえ、自分の場合、朝、起きれないから。たぶん生まれつきなんですよ。子供の頃から何があっても目を覚まさなかったから。それが原因で遅刻も多くて、病院にいったこともあるけど、結局、治らなくて」
坂上「…そうなんですか」
和哉「会社の人間にいわれました。病気なら病院にいけ。正直、悔しかったです。でも同時に、ついかっとなってあなたに同じことをいってしまった自分にも反省してます」
坂上「とんでもない。私、お隣さんとこうして話せて気が楽になりました」
和哉「それならよかったです…」
坂上「お隣さんと知り合いかどうかで朝も全然変わってくる気がします。もしかしたら薬より効くかもしれない」
和哉「そうですね」
坂上「お互い、明日はいい朝を迎えられるといいですね」
SE 歯を磨く和哉
和哉「よし。歯磨きも済んだし、気合いを入れて少し早めにセットしとくか、5時50分…いや、5時55分…いや、3分前でいいか」
SE 時計の秒針の音
和哉「羊が1匹羊が2匹羊が3匹羊が4匹…」
和哉「羊が144匹羊が145匹…」
和哉「羊が512匹…羊が513匹…羊が514匹…」
和哉「羊が…」
SE 目覚まし音
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
ジリリリリリ…
坂上の嗚咽
目覚まし、とまる
(おわり)
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