ストーリー、プロット、あらすじの違い
少し前に「つんく♂中2プロジェクトコンクール」に参加した。
以下はその応募要項。
プロットコンクールなのにあらすじを書けという。
これを書いた方はおそらくプロットとあらすじの違いを理解していないのだろう。
(別に落選を根に持っているわけではないけれど、)用語くらい正しく使ってほしいと思う。
この記事では、
・ストーリーとプロットの違い
・プロットとあらすじの違い
の二つを解説していきます。
・ストーリーとプロットの違い
ストーリーとは何かを考えたとき、
漫画なら「ドラゴンボール」、映画なら「タイタニック」、小説なら「セカチュー」、(世代なので)
これらの作品内に描かれている筋を指してストーリーと呼ぶことに異論はないはずだ。
物語の筋すなわちストーリーであることは皆が知っている。
ところが、ストーリーをプロットと区別する意味で用いた場合、途端にわかりづらくなる。
サムネイルにもした下記の図を見てほしい。
※Wikipediaより引用
一般的に、
ストーリー 出来事を時系列で並べたもの
プロット 出来事を因果関係で並べたもの
とされている。
言い換えると、
出来事を「それから(そして)」で繋げたものがストーリー、
出来事を「だから」で繋けたものがプロット、
ということになる。
(wiki内の「アナと雪の女王」の例えがわかりづらかったので)僕のほうで一例を出すと、
チョコを食べた(それから)テレビを見た(それから)歯が痛んだ(それから)またテレビを見た(それから)歯医者にいった
がストーリーで、
チョコを食べた(だから)歯が痛んだ(だから)歯医者にいった
がプロット。
と、こんな具合だ。
この定義は一見正しいように思えるが、
よく考えるとおかしい。
「タイタニック」を例に出す。
タイタニックは回想形式で描かれた映画で、
トレジャーハンターが海に沈んだタイタニックを探索する場面から始まり、
その後回想として本編であるローズとジャックのラブスーリーが始まるという構成になっている。
この話を先ほどのストーリーとプロットの定義にそれぞれ当てはめると、
出来事を時系列に並べるストーリーでは、
まずラブスーリーを描いて、その後トレジャーハンターがタイタニックを探索するという、支離滅裂な展開になる。
一方でプロットは出来事を因果関係で並べたものだから、
トレジャーハンターがタイタニックを探索する(だから)ジャックの絵を発見する(だから)ニュースで絵を見たローズがトレジャーハンターと接触する(だから)ローズがジャックとの思い出を語り出す、
と矛盾なく話が成立する。
これでは、ストーリーを強くするための役割であるプロットのほうが、ストーリーよりも上にきてしまう。
プロットを理解するのが苦手だという人をたまに見かけるけれど、この辺りのややこしさが原因なのだろう。
出来事を時系列で並べたもの(ストーリー)
出来事を因果関係で並べたもの(プロット)
この二つを同列に扱うから説明がややこしくなるのであって、ペアで示すものではない。
出来事を因果関係で並べたもの(プロット)、というのは、
冒頭にあげた「ドラゴンボール」や「タイタニック」、「セカチュー」など、完成されたストーリーのペアとして本来は使われる。
すでにセリフやディテールなど(肉付け)が施されたストーリーから因果関係のみ(骨組み)を抜き出したものがプロットで、
ストーリーのアウトラインとか設計図などとも呼ばれている。
桃太郎のストーリーを例に出せば、
http://hukumusume.com/douwa/koe/jap/08/01.htm
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。
おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。
「おや、これは良いおみやげになるわ」
おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。
引用したストーリーのうち、
太字箇所のドンブラコ、ドンブラコという描写は因果関係に関与しないのでプロットには書かない。
「おや、これは良いおみやげになるわ」というセリフに関しても、プロットでは因果関係だけを抜き出して、おじいさんのために桃を持ち帰ることにした、と書けば済む。
つまり、登場人物の動機、行動、結果といった因果関係のみを描いたものがプロットで、
プロットにディテールを加えたものがストーリー、だといえる。
これがストーリーとプロットの違いで、
この説明ならプロットを難なく理解することができると思う。
では、出来事を時系列で並べたもの(ストーリー)とは何なのかといえば、
プロット技術を説明する上で便宜的に用いた定義なのだと僕は解釈している。
先ほどプロットについて説明したが、煩わしいことにプロットとプロット技術は意味合いが異なる。
ストーリーから因果関係を抜き出したものをプロットと呼ぶのに対して、
プロット技術とは、ストーリーの素材を効果的に使ってストーリーを組み立てる技術のことをいう。
つまり、プロット技術を駆使してストーリーを作るには素材が必要となるわけだが、
その「ストーリーの素材」こそが、
出来事を時系列で並べたもの(ストーリー)
の正体であり、本来のストーリーとは程遠いものだ。
いわばストーリー未満と呼べるもので、これをストーリーと呼ぶから説明が複雑になり、
タイタニックの例で示したようにストーリーよりもプロットのほうが上にきてしまう矛盾が生じることになる。
繰り返すように、ストーリーの素材とプロットを比較することがそもそも不自然で、
出来事を時系列で並べたもの(=ストーリーの素材)
のペアとして示されるべきは、
出来事を因果関係で並べたもの(プロット)
ではなく、
出来事を時系列で並べたものを効果的に再構築する技術(プロット技術)
としなければいけないのがわかると思う。
この関係性なら、あくまで素材と技術の関係なので矛盾が生じない。
では具体的にプロット技術とは何を指すのか。
シナリオセンターに通っている(いた)方なら栗ようかんの例えを知っていると思う。
栗ようかんを包丁で切るときには、栗(おいしい部分)が最も大きく見えるようにして切れ、というもので、
この切り口のことをプロット技術という。
(仮にあんこしか見えない切り方なら栗ようかんの良さが伝わらないのはいうまでもない)
言い換えれば、プロット技術とはストーリーを最も映える形に組み立てる技術であり、
再び桃太郎を引き合いに出すと、
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました。
おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。
「おや、これは良いおみやげになるわ」
おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。
出来事を時系列順に並べるのであれば、当然おじいさんの芝刈りシーンも描かなければならないが、ストーリーではそれが省略されている。
あるいは、おばあさんが洗濯にいくための支度シーンもあるはずだが、そんなものを描いたところで意味がないので描かれていない。
この「省略」はプロット技術の一つだ。
それ以外にも、
桃太郎が鬼を倒すシーンをまず見せてから話を始めるのも一つの手としてあるし、(シーンの並び替え)
もしかしたら芝刈り中のおじいさんにスポットを当てるのもありかもしれない。(焦点の当て方)
もちろん因果関係も重要で、ストーリーには因果関係が強いほうが面白くなるという原理があるので、
流れてくる桃を見た(だから)いい土産になると思った(だから)家に持ち帰った
という組み立て方になっている。
ここまでをまとめると、
①ストーリー未満(ストーリーの素材。出来事を時系列で並べたもの)
②プロット技術(①を使って③を組み立てる技術)
③ストーリー(②によって組み立てられた①)
④プロット(③から因果関係を抜き出したもの。出来事を因果関係で並べたもの)
この流れを覚えることでストーリーとプロットの違いを理解できるのではないだろうか。
ストーリーとプロットとはこのような関係によって成り立っているのであって、①と④を同列に語ることはできないし、意味がない。
ゆえに、
ストーリー 出来事を時系列で並べたもの
プロット 出来事を因果関係で並べたもの
この説明は間違いだし、サムネイルの図もまるで意味をなしていない。
(いないとは思うが)Wikipediaを鵜呑みにしてストーリーとプロットの違いを教える講師がもしいるとすれば、何もわかってない人なので極力関わらないほうがいいと思う。
代わりとしていっちーくらぶがオススメ。
(招待するので年会費無料。チームライティングによってコンクール受賞を目指します)
・プロットとあらすじの違い
あらすじもプロットと同じくストーリーの要約であるが、
ストーリーの骨格を示すことを目的とするプロットに対して、
あらすじはストーリーの魅力をいかに伝えるかがメインなので、ストーリーの正確性は必ずしも重視する必要がない。
言い換えれば、ストーリーを意訳したものがあらすじということだ。
また、あらすじには文字数の融通が利くという特徴がある。
プロットの文字数はその性質上、元になっているストーリーの長さにある程度比例するため、
例えば「タイタニック」のプロットを100文字で書き起こすことは不可能だが、あらすじではそれができる。
もちろんここでいうあらすじとは結末まで書かれたものだ。(結末まで書かれていないものもあるが、あれは宣伝用なのでここでは触れない)
したがってあらすじの文字数が少なければ(100文字とかなら)意訳的になるし、反対に2000文字あれば当然プロットに近いものになる。
また桃太郎を例に出す。
あらすじというのは基本的に短いものなので、仮に桃太郎のあらすじを100文字で書くとするとストーリーを大胆に意訳する必要が生じる。
意訳が前提なので正確性は捨てる。
川から流れてきた桃をおばあさんが拾うシーンを省いて、いきなり「桃太郎は桃から生まれた」
と書き始めてもいいだろう。
この場合、おじいさんとおばあさんが出てこないだろうし、キビダンゴも出てこないだろう。
「桃から生まれた桃太郎が鬼退治をする」というストーリーの核となる部分のみに焦点をあて、その他の人物は省略されるはずだ。
したがってイヌ、サル、キジの家来の活躍は描けないだろう。
もし描くならば、本来なら三匹それぞれの活躍があるところを家来ひとまとめにして活躍したことにするなど、誤解を恐れない大胆さも時には必要だ。
ストーリーの本質を見失うことなく、ストーリーの内容を取捨選択をして一点集中で書くことがあらすじでは求められる。
ゆえにあらすじを使えばいかなる文字数であってもストーリーを表現することができる。
言い換えれば、あらすじがうまい人というのはストーリーを伸縮自在に操る力が優れているということだ。
ここまで説明すれば、冒頭にあげた「つんく♂中2プロジェクトコンクール」の要項のおかしさに気づくだろう。
「プロットを1000文字以内」ならストーリーの長さが制限され、おそらく書けて30分の話になるが、
「あらすじを1000文字以内」では五分の話から二時間ものを想定した話まで自由に書けてしまう。
「プロット」と「あらすじ」、たかが四文字の違いだがこの違いは大きく、ストーリーのことを何もわかっていないのが要項からにじみ出ている。
あらすじよりさらに短いものにログラインがあるが、ログラインについてはこの記事で書いた。
https://note.com/furaidopoteto/n/nda687bac1944
いかがだったろうか。
長々と書いてしまったけれど、
ストーリー作りに関わるならばこれくらい知っておいてほしい。
ろくにストーリーを知らないくせに能書きを垂れるのもいいけれど、それをやるにもまずは正しい用語の使い方を覚えてください。
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