漫画で覚える凸凹の書き順|脚本

※note創作大賞に応募した脚本の完成版となります
↓縦書き版はこちらとなります


あらすじ

※全10話から成る短編となります

サラリーマンの一角(40)はぼったくりバーの被害に遭い、金を払わなかったことでバーのオーナー十角(35)に切腹させられる。

一角の息子六角(16)は父の無念を晴らすため十角の店へ乗り込むも、返り討ちにされ、その場に居合わせた三角(22)に助けられる。

三角も師を殺された因縁から六角と同じく十角への復讐に燃えていた。そんな三角に六角は弟子入りし、厳しい修行を積む。

そして三角と六角の二人は再び十角の店に訪れ、十角との死闘の末、父と師の敵を取り、一件落着と相成る。


登場人物

六角(16) 高校生
三角(22) 大学生

一角(40) 六角の父
二角(30) バーの従業員
四角(60) 三角の師
五角 謎の剣豪
七角(30) 二角の双子の兄
八角(42) バーの従業員
九角(42) 一角の友人
十角(35) バーのオーナー


脚本

1話

○渋谷の繁華街(夜)
  多様な国籍の人々が歩いている。
  会社帰りの一角(40)と九角(42)、並んで歩いている。
  侍のコスプレをした呼び子の二角(30)、一角と九角へ近づき、
二角「バーでもどうっすか?」

○侍バー・店内
  入口の脇に置かれたハンガーラックに侍のコスプレ衣装が掛けられている。
  ラックの前に「ご自由にどうぞ」の看板。
  テーブル席に一角と九角の姿。
  一角、羽織と袴を着、腰に刀を差している。
九角「(見て)一角さん。似合ってますな」
一角「(照れる)いや、九角さんも着ればよかったのに」
  一角、お猪口を手に取り、酒をすする。
一角「ところで九角さん。娘さんはおいくつに?」
九角「先日中学生になりました」
一角「そうですか。難しい年頃でしょう」
九角「まあ色々と。一角さんの息子さんは高校生で?」
一角「ええ。育ち盛りで、図体ばかりがでかくなって。背丈も抜かれてしまいましたよ(と笑う)」

      ×   ×   ×

  一角と九角、すっかりできあがっている。
一角「そろそろ出ましょうか」
九角「ええ」
  一角、二角を見り、手をあげる。
  二角、やってくる。
  二角、テーブルに伝票を置く。
  一角、見て、
一角「(驚く)何だと?」
九角「…?」
  伝票に以下の文字。
  「会計金額 30万8千円」
一角「30万8千円?」
九角「何ですと?」
一角「君、どういうことだ?」
  と二角を見上げる。
二角「衣装代のほうが30万になります」
一角「ふざけるな。衣装代がかかるなど一言も聞いていない(と声を荒げる)」
  と、侍のコスプレをした十角(35)、やってくる。
十角「この店のオーナーの十角です」
  十角、腹を立てる一角へ、
十角「お客様、どうなされましたか?」
一角「どうもこうもない。この伝票を見たまえ。ぼったくりじゃないか」
  十角、伝票を一瞥し、
十角「左様ですか」
一角「左様だとも。こんなデタラメがあってたまるか。私は払わんぞ」
十角「しかし、そうすると切腹していただければならません」
一角「切腹だと?」
十角「ええ。お客様の選択肢は二つです。一つ。大人しくお金を支払っていただく。二つ。切腹をする。どちらを選びます?」

○一角の家・六角の部屋
  六角(16)、机で勉強している。
  とLINEの音が鳴る。
  六角、机に置かれたスマホを手に取る。
  スマホには一角からの以下のLINEメッセージ。
  「俺の命も今日限りだ」
六角「(見て)…親父?」

○バー・店内
  一角、白装束姿でカウンターの上に座らされている。
  一角、顔面蒼白で短刀を握っている。
  他の客ら、一角を興味深げに眺めている。
  十角、打ち震える一角を見て、
十角「切腹を選んだか…」
  九角、一角の危機を前に、放心したように突っ立っている。

○道
  六角、スマホを握りしめて疾走している。

○六角の部屋(回想)
  六角、机でスマホをいじっている。
  スマホ画面に一角との以下のやり取りが流れていく。
  「これから腹を切る」
  「腹?」
  「最後にお前に会いたかった」
  「よくわかんないけど、警察は?」
  既読がつくが、返信はない。
  「親父? 警察!」
  ややあって、
  「いや、警察はいい」
  「なんで!」
  「警察を呼ぶほどのことでもない」

○(戻って)道
  六角、疾走する。
六角「親父! 死ぬなっ!」
  LINEの音が鳴る。
  六角、おそるおそるスマホを見る。
  一角から以下のメッセージ。
  「人の世は 夢幻の 一夜かな」
  六角、父の死を悟って、
六角「親父…親父っ!」

○バー・店内
  白装束姿の一角、深呼吸する。
  一角、短刀を腹に添える。
  が、なかなか覚悟が決まらない。
  十角、焦れったそうに、
十角「一角奴! 左から右へ真一文字に掻っ捌け!」
  一角、目を閉じ、
一角「…息子よ。生きろっ!」
  一角、勢いよく短刀を腹に突き刺す。
  一角、顔を凄ませながら、左から右へ真一文字に腹を掻っ捌く。

○机の上(俯瞰視点)
  半紙が置かれている。
  画面外から習字の筆を持った手が現れ、左から右へ勢いよく横線を一本引く。
  半紙の上半分に「-」(凸の一画目)が記される。



2話

○一角の家・居間(翌日・夜)
  喪服姿の人々がテーブルを囲み、酒を飲んでいる。
  そばに一角の眠る棺が置かれている。
  棺の前には六角の姿。
  六角、拳を握りしめ、じっと棺を見つめている。

○同・六角の部屋
  六角、燃えたぎるような瞳で、乱雑に押し入れを漁っている。
  六角、押し入から金属バットを取り出す。

○侍バー・店内
  店内に八角(42)、二角、客の三角(22)の三人。
  みな侍のコスプレをしている。
  八角、カウンターで酒を作り、カウンター席に座る三角に差し出す。
  三角、酒をあおる。
  と、乱暴に入口の扉が開く。
  三人、視線を扉へ向ける。
  扉の前に金属バットを手にした六角が立っている。
  六角、鬼の形相。
八角「(ぼそりと)…二角。お客だ」
  二角、六角へ近づき、
二角「未成年は立ち入り禁止だ」
六角「お、親父の仇だ!」
二角「親父?」
六角「お前らが…切腹させた!」
二角「切腹? ああ。昨日の(と事情を呑み込む)」
  三角、酒を飲みつつ二人の様子を黙って眺めている。
  二角、カウンターにいる八角へ、
二角「八角さん。構わないよな」
  八角、無関心で酒器を拭いている。
  二角、六角の正面に立つと、鞘から刀を抜く。
  薄暗がりの中で白刃が鈍く光りを放つ。
二角「…小僧。渋谷区に住む外国人の数を知ってるか?」
六角「…?」
二角「わからないなら勘でもいい。この街の外国人は、多いか、少ないか」
六角「(苛立つ)多いに決まってる! 約一万人だ! それがどうした!」
二角「それなら話は早い。じゃあ、この店が治外法権で、警察が介入できないってことも知ってるよな?(とにやり)」
六角「…(雄叫び)うおおおおお!!!」
  六角、二角に突撃する。
  六角、金属バットで二角を殴りつける。
  二角、刀で防ぎ、激しい金属音が響きわたる。
  六角の攻撃は続き、火花を散らしてぶつかりあう刀と金属バット。
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ!
  六角、一瞬、よろける。
二角「(隙を見逃さず)もらった!」
  二角、六角の肩めがけて大上段から刀を振りおろす。
  六角の片腕が吹き飛ぶ。

○机の上(俯瞰視点)
  凸の1画目が書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、勢いよく筆を振りおろす。
  半紙の上半分に縦線が一本引かれ、凸の二画目が記される。



3話

○侍バー・店内
  六角の右腕が金属バットもろとも吹き飛び、床に落ちる。
  六角、片腕を失い、
六角「(絶叫する)」
  八角、無関心に酒器を拭いている。
  二角、満足げに刀を鞘に収める。
  二角、カウンターで飲む三角へ近づき、
二角「お騒がせいたしました」
三角「…」
二角「八角さん。後始末どうします?」
  八角、顔をあげて正面を見る。
八角「(微かに眉が動く)」
三角「…?」
  三角、振り返る。
  六角、床に落ちた金属バットを拾おうともがいている。
六角「仇…親父の仇!」
  六角の目から大粒の涙が溢れる。
  三角、そんな六角をじっと見つめ、
三角「…」
  六角、どうにか金属バットを拾いあげる。
  ふらふらと二角へと近づく。
二角「ほぅ」
  二角、鞘から刀を抜き、六角と向き合う。
二角「いいだろう。もう一本も切り落としてくれる」
  二角、六角へ斬りかかる。
声「待て!」
  二角の動きがとまる。
  三角、椅子から立ち上がり、
三角「その勝負、この三角が引き受けよう」
  三角、六角のもとへいく。
  三角、二角と向き合い、鞘から刀を抜く。
二角「…お客さん、死んでも知りませんよ」
三角「こちらのセリフだ」
  二角、三角に斬りかかる。
  両者の刃が激しくぶつかりあう。
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ!
三角「(叫ぶ)ゼッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーート!!!!」
  三角、二角をZ字に斬りつける。
  二角の体、バラバラになる。

○机の上
  凸の2画目まで書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、勢いよく筆をくねらせる。
  半紙の上半分に「Z」のような字(凸の三画目)が記される。




4話

○橋の上
  片腕を失った六角、立っている。
  三角、缶ジュースとビールを手にしてやってくる。
三角「おい」
  と缶ジュースを六角に投げ渡す。
  三角、片手で受け取る。
三角「(缶ビールを示し)未成年。それともこっちにするか。痛みに効く」
  六角、缶ビールを開ける。
  六角、酒を飲む三角をじっと見据え、
六角「…あの」
三角「ん」
六角「いや、なぜ俺を助けてくれたんです?」

○(回想)侍バー・店内
  二角の肉体がバラバラになって床に散乱している。
  三角、刀を鞘に収める。
  六角、呆然と立ち尽くしている。

○(戻って)橋の上
  三角、意地悪そうに、
三角「助けないほうがよかったか?」
六角「あ、いや…」
三角「君は俺に似ている」
六角「え」
三角「俺にもいるんだ。必ず倒さなければならない相手が」

○山道(回想・一年前)
  三角と四角(60)、侍姿で歩いている。
三角の声「俺の師匠は名の知れた剣豪で、俺と師匠は武者修行のために全国を回っていた」

○道場
  四角と道場主、木刀を握りしめて対峙している。
  道場生と三角がその様子を固唾を飲んで見守っている。
  四角と道場主、互いに一歩も動かない。
  静寂を破るように、道場主、四角へ飛びかかる。
  四角、木刀を振り下ろす。
  道場主の肩に一撃が入る。
  三角の表情が輝く。
  崩れ落ちた道場主、肩を押さえ、
道場主「…四角殿。お見事」

○宿・部屋(夜)
  三角と四角、食べている。
  三角、ふと箸をおく。
  三角、姿勢を改め、
三角「お師匠、一つお尋ねしたいことがあります」
四角「なんだ」
三角「お師匠はなぜ試合でL斬りをお使いにならないのでしょうか」
  四角、食べながら、
四角「あれは殺人剣だ。試合では役に立たない代物だ」
三角「しかし、私はお師匠の弟子でありながら、まだ一度もこの目でその奥義を見たことがないのです。私はそれが…(とうつむく)」
  四角、箸をとめ、
四角「…三角よ。泰平の世に殺人剣は不要のだ。あの技を見たことがないのは平和の証なのだよ」
三角「…」

○宿の外
  近くに山が見える。

○宿・部屋
  三角と四角、布団を並べて寝ている。
  と微かな物音。
  四角、ぱっと目を開ける。
  四角、立ち上がり、枕元の提灯をともす。
  三角、目を覚ます。
  四角、そっと襖を開け、廊下を挟んだ庭に目をやる。
  暗闇の中、巨大な影がうごめいている。
  四角、襖を閉じると、着替えを始める。
三角「…お師匠?」
四角「熊だ」
三角「熊?」
  四角、刀を腰に差し、
四角「三角、よく見ておきなさい」
  三角、はっとする。
  四角、庭へ出る。
  四角、巨大な熊と対峙する。
  熊、咆哮をあげ、四角へ飛びかかる。
四角「L斬り!」
  四角、熊の脳天へ刀を振り下ろす。
  熊の上半身を真っ二つに切り裂くと、腹の辺りで刃の角度を曲げ、腹を掻っ捌く。
  熊の体、バラバラになる。

○机の上(俯瞰視点)
  凸の3画目まで書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、勢いよく筆を走らせる。
  半紙の上半分に「L」のような字(凸の四画目)が記される。



5話

○橋の上
  三角、缶ビール片手に欄干にもたれている。
三角「あのとき、師匠は俺のためにL斬りを見せてくれたんだ」
  六角、じっと耳を傾けている。
三角「ところが、それ以来、師匠は変わってしまった。まるで殺人剣に取り憑かれたかのように、手当たり次第に人を斬りまくるようになった」

○野原(回想) 
  四角と剣豪、真剣を構えて対峙している。
  三角、その様子を固唾を飲んで見守っている。
  四角と剣豪、互いに一歩も動かない。
  静寂を破るように、剣豪、怒号をあげて四角へ飛びかかる。
  四角、剣豪の脳天へ刀を振り下ろす。
  三角、思わず目をつぶる。
  肉を裂く音があたりに響く。
  三角、目を開ける。
  四角が鞘に刀を収めている。
  すぐそばにバラバラになった剣豪の死体が転がっている。
  四角、平然とした様子で三角へ、
四角「…次の相手を探そう」
三角「…」

○(戻って)橋の上
  三角、缶ビールを強く握りしめ、
三角「(悔やんで)俺が軽はずみにL斬りを見たいなんていったから。それがいけなかったんだ」

○竹藪(回想)
  四角と五角、対峙している。
三角の声「そしてその日はきた」
  五角、虚無僧の格好をしており、天蓋で顔を覆っている。
四角「名は?」
五角「五角」
  四角、丸腰の四角へ、
四角「五角よ。刀はどうなさった」
五角「刀は不要」
四角「刀なしでどうやって戦うのだ」
五角「心配には及ばぬ。戦う前からお主との勝負はついている」
四角「なんと?」
五角「これより10秒後、金色の刃がお主の頭上に降り注ぐだろう」
  三角、二人のやりとりを息を殺して見守っている。
五角「10、9、8、7…」
四角「ほざくな」
  四角、五角に斬りかかる。
  五角、ひらりひらりかわす。
五角「6、5、4…」
  四角、斬りかかる。
  五角、かわす。
五角「3、2、1…定めだ」
  その瞬間、四角の頭上に雷が落ちてくる。
  四角、雷に打たれ、絶命する。

○机の上(俯瞰視点)
  凸の4画目まで書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、勢いよく筆を振り下ろす。
  半紙の上半分に漢字の「凸」のできあがる。



6話

○竹藪(回想)
  雷に打たれ、地面に倒れる四角。
  三角、はっとする。
三角「お師匠!」
  と四角のもとへ駆け寄る。
三角「お師匠! 返事をしてください!」
  四角、すでに息絶えている。
  三角、憎しみに満ちた目で五角を睨む。
  三角、刀を抜こうとする。
五角「慌てるな。お主とは必ず再会する日がくる。それもまた定め…」
  五角、去っていく。

○(戻って)橋の上
  三角、缶ビールを飲み干す。
  三角、空き缶を川へ投げ捨てる。
三角「そういうわけだから、俺もお前と同じで、仇を取らなきゃいけないってわけ」
  三角、隣にいる六角へ、
三角「こんな時間だ。未成年。補導されないうちに大人しく家に帰れ」
六角「…」
  三角、ひとり歩き出す。
声「俺にZ斬りを教えてください!」
  三角、立ち止まる。
  六角、感情をぶちまけるように、
六角「全員! あの店の奴ら全員! この手でぶっ潰したいんです!」
  三角、振り返る。
  三角、六角の必死な顔を見て、
三角「(微笑む)名前は?」
六角「え」
三角「お前の名前」
六角「六角! 一角の息子、六角です!」

○山の中(数日後)
  六角と三角、侍姿で巨大な木の前に立っている。
  三角、大木を示し、
三角「いいか。この木が倒れるまでZ斬りを続けろ。そうすればお前はZ斬りを会得できる」
  六角、挑むように大木を見上げる。

  以下、カットバックが続く

  隻腕の六角、左手一本で刀を握っている。
  六角、大木を斬りつける。
  六角、思うように刀が振れず、刀を落としてしまう。
三角「何をしている! もう一回!」

     ×     ×     ×

  六角、大木をZ字に斬りつけている。
  大木の表面に僅かに「Z」の字が刻まれている。
  六角、息を切らせながらZ斬りをする。
  そばで見ていた三角、
三角「もっと強く!」
  六角、Z斬りをする。
三角「もっと!」

       ×   ×    ×

  六角、かけ声とともにテンポよくZ斬りをしている。
六角「ゼット! ゼット! ゼット!」
  大木に刻まれた「Z」の彫りが大分深くなっている。
  三角、木陰で寝そべっている。

    ×    ×     ×

  雨が降っている。
  さらに彫りが深くなった「Z」。
六角「ゼーッーーート!」
  六角、大木に重い一撃を打ち込む。
六角「ゼーッーーート!」
  六角、もう一度打ち込む。
六角「ゼーッーーート!」
  六角、もう一度打ち込む。
  その弾みで刀が折れる。
  見ていた三角、無言で六角に別の刀を渡す。
  六角、刀を受け取り、大木に一撃を打ち込んでいく。

  カットバック、おわり

  深々と「Z」が刻まれた大木。
  三角、大木を眺めて、
三角「(六角へ)次でしとめろ」
六角「…はい」
  六角、大きく深呼吸をする。
  六角、刀を構え、
六角「(叫ぶ)ゼッーーーーーーーーーー」
  六角、Z字に斬りつけるも、Z斬りの途中で刀が大木に引っかかり、抜けなくなる。
  六角、狼狽する。
三角「お前ならやれる!」
  六角、最後の力を振り絞る。
  刀、貫通する。
  大木、ミシミシと音を立てて傾き、やがて轟音とともに倒れる。
六角「(雄叫び)ゼッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーート!!!」

○机の上(俯瞰視点)
  上半分に「凸」と書かれた半紙が置かれている。
  画面外から習字の筆を持った手が現れ、勢いよく筆を走らせる。
  半紙の上半分に「Z」のような字(凹一画目)が書かれるが、墨が足りずに最後の横棒がかすれている。



7話

○雑居ビル・外(翌日・夜)
  六角と三角、侍姿で立っている。
六角「俺ひとりでも倒せるのに…」
三角「何いってるんだ。お前はもう俺の弟子だ。お前ひとりじゃ心配だ(と笑う)」
  六角、頷く。
六角「(気を引き締め)いくぞ。六角」
三角「はい! お師匠!」
  二人、ビルの入口へ入ろうとする。
  と背後から声。
声「私も連れていってくれ!」
  二人、振り返る。
  侍姿の九角、立っている。
六角「あんたは親父の…」

○侍バー・店内(回想)
  白装束の一角、顔面蒼白で短刀を構えている。
  九角、なすすべなく立ち尽くしている。

○(戻って)雑居ビルの前
六角「(声を震わせ)あんたは…あんたは…親父を…」
  六角、唇を噛みしめてうつむく。
九角「そう。見殺しにした。臆病者の私のせいで一角さんは死んだんだ」
六角「…」
九角「六角くん。許してくれとはいわない。私が憎いなら私を殺せ。しかしその前にやることがある。奴らをこの手でぶちのめす。一角くん。私にも手伝わせてくれ」

○侍バー・店内
  三角、六角、九角の三人、入ってくる。
店内には七角(30)のみ。
  七角、二角と瓜二つの姿をしている。
三角「(三角を見て)お前は…」
七角「(三人を見て)お前たちか。店ン中で暴れ回ってくれたのは」
三角「お前は?」
七角「二角の兄。七角」
  七角、鞘から刀を抜き、構える。
  三角、あたりを見回す。
  カウンターの奥に扉がある。
三角「(六角へ)聞け。あの先におそらくボスがいる。ここは俺に任せてお前たちは先にいけ」
六角「でもお師匠…」
三角「いいから」
九角「六角くん。いこう(と促す)」
  六角と九角、カウンターへと走る。
  二人、扉の奥へと入っていく。
  三角と七角、睨み合う。
七角「最初にいっておく。俺は二角より強い」
九角「そうじゃなきゃ相手にならない」
七角「ほざけ!」
  七角、三角に斬りかかる。
  両者の刃が激しくぶつかりあう。
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ!
  三角、一瞬、よろける。
七角「(隙を見逃さず)もらった!」
  三角、七角の肩めがけて大上段から刀を振りおろす。
  七角の片腕が吹き飛ぶ。

○机の上(俯瞰視点)
  上半分に「凸」、下半分に「凹」の一画目まで書かれた半紙が置かれている。
  画面外から習字の筆を持った手が現れ、勢いよく縦線を振り下ろす。
  半紙の下半分に凹の二画目が記される。



8話

○侍バー・バックヤード
  薄暗い室内。
  六角、九角、入ってくる。
  八角、胡座をかいて待ちかまえている。
八角「(ぼそり)…お客さん。ここは立ち入り禁止だ」
六角「(冷たく見下ろし)ボスはどこだ」
  八角、気だるそうに立ち上がる。
八角「ボスならこの奥だ。ただし、人を通すなと命じられている」
  六角、刀を抜く。
六角「勝負!」
  六角、八角へ斬りかかろうとする。
  九角、六角を制止し、
九角「(耳打ちする)六角くん。ここは私に任せて六角くんは隙をついて先に進め。いいな」
  九角、言い終えるなり八角へ斬りかかる。
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ
  キンキンキンキンッ!
  六角、隙をついて奥の扉へと走る。
  八角、六角を見逃さず、走る六角へ一太刀を浴びせにかかる。
  九角、間一髪、八角の刃を防ぎ、六角を守る。
  六角、扉の向こうへ消えていく。
  八角、九角へ斬りかかる。
  キンキンキンキンッ
  キンッ…
  八角の眼光が光る。
  八角、九角の腹めがけて刃を水平に走らせる。
九角「!」
  九角の腹から鮮血が飛び散る。

○机の上(俯瞰視点)
  凸と凹の二画目まで書かれた半紙が置かれている。
  画面外から習字の筆を持った手が現れ、勢いよく横線を引く。
  半紙の下半分に凹の三画目が記される。



9話

○侍バー・店内
  七角、泡を吹いて倒れている。
  片腕を失った三角、七角を冷たく見下ろしている。

○同・同(回想・5分前)
  テロップで「5分前」の文字。
  七角、三角めがけて刀を振り下ろす。
  三角の右腕が吹き飛ぶ。
  と、間髪入れず、三角、七角の後ろに回り込み、左手一本で七角の首を絞めあげる。
  七角、もがき苦しむ。
三角「ウェーーーーーーイ」
  七角、必死に抵抗するも、抜け出せない。
三角「肉を斬らせて骨を断つ。この諺に続きがあるのを知ってるか?」
  七角、何かいおうとする。
  三角、さらに力強く首を締めあげる。
  七角、口から泡を吹く。
三角「時間切れ。正解は、骨を断たせて泡を吹かせる、でした」
  七角、息絶える。
  三角、七角を首を締め終えると、カウンターの扉へと向かう。

○同・バックヤード(現在)
  八角の肉体、バラバラになって床に散乱している。
  流血している九角、八角の死体を冷たく見下ろしている。

○同・同(回想・5分前)
  九角、腹から血を出して悶絶している。
  八角、無表情で眺めている。
  九角、振り絞るように、
九角「…ずっと親父が嫌いだった」
八角「…?」
九角「殺人剣を使うからだ」
八角「…何をいっている」
  九角、手のひらの血を眺め、
九角「血は争えんな」
  九角、人が変わったように、勢いよく八角に斬りかかる。
  と、室内の扉が開く。
  三角、入ってくる。
九角「L斬り!」
  九角、八角の脳天へ刀を振り下ろす。
  八角の上半身を真っ二つに切り裂くと、腹の辺りで刃の角度を曲げ、腹を掻っ捌く。
  八角の体、バラバラになる。
  三角、呆気にとられ、
三角「お師匠…?」
  九角、振り返る。
三角「あなたは一体…」
九角「私の名は九角。Lを継ぐものだ」

○机の上(俯瞰視点)
  凸と凹の三画目まで書かれた半紙が置かれている。
  画面外から習字の筆を持った手が現れ、勢いよく筆をL字に走らせる。
  半紙の下半分に凹の四画目が記される。



10話

○侍バー・オーナーの部屋
  六角、入ってくる。
  虚無僧の姿をした男、待ちかまえている。
六角「…?」
男「一角の息子だな」
六角「…お前がボスか」
男「左様」
  六角、刀を抜く。
六角「親父の仇!」
  六角、十角へ突進する。
  強風が吹き、六角、弾き返される。
六角「…?」
男「慌てるな。まだ役者は揃っていない」
  六角、再び十角へ突進する。
  六角、強風で弾き返される。
男「ムダだ」
  六角、狼狽する。
  と、扉が開く。
  三角と九角、入ってくる。
男「(見て)揃ったか」
三角「(男を見て驚く)お前は…」
  男(以下十角)、顔を覆っていた天蓋を取る。
十角「我は十角。もっとも、昔は五角と名乗っていたが」
三角「(かっとなり)お師匠の仇!」
  三角、十角へ突進する。
  三角、強風に吹き飛ばされる。
  三角、壁に頭を打ち付け、意識を失う。
六角「お師匠!」
十角「(六角へ)予言しよう。10秒後、お前の頭上に金色の刃が降り注ぎ、この物語の幕が閉じる」
  九角、六角の前に出て、
九角「そんなことはさせない!」
  九角、十角へ突進する。
  九角、強風に吹き飛ばされる。
  九角、壁に頭を打ち付け、意識を失う。
十角「10、9、8…」
六角「(叫ぶ)うぉーーー!!」
  六角、十角に斬りかかる。
  十角、ひらりひらりかわす。
十角「7、6、5…」
  三角、意識を取り戻し、
三角「六角…し、死ぬぞ…に、逃げろ…」
  六角、何か思いつき、その場に腰をおろす。
十角「…?」
六角「…予言が当たるなら、俺が死ねばどうなる?」
十角「…なんだと?」
  六角、服を脱いで腹を晒す。
  六角、腹に刀を突きつける。
三角「(見て)…や、やめろ」
六角「(呟く)…親父、今いくぞ」
  六角、刀を腹を突き刺す。
  六角の目がかっと見開く。

○六角の部屋(回想)
  六角、机で勉強をしている。
  ドアがノックされる。
  ドアが開き、一角、入ってくる。
一角「勉強か」
六角「…なあ、親父」
一角「なんだ」
六角「天国ってあるのかな」
一角「(微笑む)あるさ。一角、くるか?」
  六角、立ち上がる。
  六角、一角とともにドアの向こうへと消えていく。
 
○机の上(俯瞰視点)
  凸と凹の4画目まで書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、墨が足りずにかすれていた凹の一画目の横線を重ね書きする。

○(戻って)オーナーの部屋
  六角、腹を掻っ捌いて絶命している。
  十角、六角の亡骸を見つめながら、
十角「5、4、3…」
  十角、天を見上げ、
十角「2、1…これも定めか」
  その瞬間、十角の頭上に雷が落ちてくる。

○机の上(俯瞰視点)
  凸と凹の4画目まで書かれた半紙。
  画面から筆を持った手が伸びてきて、勢いよく縦線を振り下ろす。
  半紙に漢字の「凸凹」が完成する。

(おわり)

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