対戦形式で見る通行人|脚本

※note創作大賞漫画原作部門に応募した脚本の完成版となります
縦書き版はこちらとなります↓


あらすじ

人ひとりしか通れない狭い歩道。

そんな歩道に、わざとぶつかってくる男、道を譲らない女、ヤクザ、いつも譲ってばかりの男、の四人の男女が集結する。

お互いがすれ違う瞬間、誰が譲って、誰が譲らないのか。

プライドを賭けた四人の戦いが、いま幕を開けるーー

登場人物

リョウヘイ(26) フリーター
ノリオ(44) 会社員
アイリ(20) 大学生
トマシノ(44)  ヤクザ

アイリの友人
リョウヘイの同僚
リョウヘイの母

脚本

◯道
  人ひとりしか通れない狭い歩道。
  路肩を挟んだ車道では車が行き交う。
  リョウヘイ(26)、歩道の真ん中を歩いている。
  ひ弱な体つきとは裏腹に、リョウヘイ、鬼の形相をしている。
  正面からノリオ(44)がやってくる。
  ノリオ、どことなく殺気立っている。
  二人、互いの目が合う。
  二人がすれ違うには、どちらか一方が路肩か民家の敷地内へとコースを変えなければならない。
  が、ふたりとも道を譲る気配がない。
  二人、歩道をまっすぐ歩き続ける。
  近づく二人の距離。
  普通ならどちらかが譲っている局面。
  が、まだどちらも譲らない。
  二人、いよいよ至近距離まで迫って…

◯タイトルが表示される
  「対戦形式で見る通行人」

◯以下のリーグ表が表示される

◯テロップ画面
  「1戦目」の文字。

◯道(冒頭シーンの5分前)
  人ひとりしか通れない狭い歩道。  
  ノリオ、歩道を歩いている。
  ノリオ、ズボンのポケットをまさぐる。
ノリオ「(舌打ち)…ケータイ忘れた」
  ノリオ、踵を返す。

   ☓   ☓   ☓

  アイリ(20)、スマホを見ながら歩いている。
  正面からノリオ、やってくる。
  ノリオ、アイリの姿に目をやる。
  アイリ、ノリオの姿に気づかず、スマホをいじっている。
  ノリオ、そんなアイリを見下すように眺めている。
  二人の距離、近づく。
  ノリオ、まっすぐに進む。
  アイリ、相変わらずスマホを見ている。
  二人の距離が間近に迫る。
  ノリオ、それでもよけることなく、わざとぶつかるかのように進んでいく。
  アイリ、やっとスマホから顔をあげる。
  目の前にノリオの姿。
  二人、ぶつかりそうになる。
  アイリ、寸前で路肩に降りる。
  ノリオ、何事もなかったかのように歩道を進んでいく。
  アイリ、むっとしながら、そんなノリオの後ろ姿を眺める。

◯テロップ画面
  「ノリオの勝ち」の文字。

◯以下のリーグ表が表示される

◯テロップ画面
  「2戦目」の文字。

◯道
  ノリオ、歩いている。
  背後にアイリの姿が見える。 
  アイリ、むっとした顔でノリオを睨んでいる。
  ノリオ、悠然と歩く。
  正面からヤクザの風貌をしたトマシノ(44)、やってくる。
  二人、互いの存在に気づく。 
  ノリオ、俄に顔がこわばる。
  トマシノ、表情一つ変えない。
  二人の距離が近づく。
  二人、互いに道を譲る気配がない。
  ぐんぐん近づく二人の距離。
  と、ノリオのすぐ前方にコンビニが見える。
  ノリオ、吸い込まれるようにコンビニに入っていく。

○コンビニ・中
  ノリオ、トイレの前にいく。
  トイレ、鍵がかかってる。
ノリオ「(舌打ちし)入ってんのかよ」

○道
  トマシノ、コンビニの前を通過する。
  ノリオ、コンビニから出てくる。
  背を向けて歩くノリオとトマシノの姿が映し出される。

◯テロップ画面
  「トマシノの不戦勝」の文字。

◯リーグ表

◯テロップ画面
  「3戦目」の文字。

◯道
  アイリ、歩きスマホをしている。
  スマホのLINE画面に以下のメッセージ。
「今ぶつかってくる男に遭遇した」
「え。大丈夫?」
「きもすぎた。ヤクザだったら絶対避けるくせにw」
「確かにw」
  アイリ、ふと立ち止まる。
アイリ「(ぼそり)…コンビニで支払いするの忘れてた」
  アイリ、踵を返す。
  アイリ、歩く。
  正面からトマシノがやってくる。
  アイリ、トマシノのいかつい風貌を見て、顔がひきつる。
  トマシノ、アイリを見るなり路肩に降りて道を譲る。 
  アイリ、何となく恐縮している。
  二人、すれ違う。

◯テロップ画面
  「アイリの勝ち」の文字。

◯以下のリーグ表が表示される

◯ノリオのアパート・外
  ノリオ、家に忘れてきたスマホを手にして出てくる。
  ノリオ、もと来た狭い歩道を歩き出す。

◯コンビニ・外
  アイリ、支払いを済ませて出てくる。
  アイリ、友人に出くわす。
  二人、笑顔で手をふりあう。
  アイリ、友人とともにもと来た狭い歩道を歩き出す。

◯道(俯瞰視点)
  ノリオの前方にアイリ(とその友人)。
  さらにその前方にトマシノ。
  三人、等間隔で歩いている。
  そして三人の前方にリョウヘイの姿。
  リョウヘイ、三人のほうへ向かって歩いている。 

◯テロップ画面
  「4戦目」の文字。

◯道
  リョウヘイ、歩いている。
  リョウヘイ、ナヨナヨした見た目で、いかにも弱そう。
  正面からトマシノがやってくる。
  リョウヘイ、トマシノを見るや否や速攻で路肩に降りる。

◯テロップ画面
  「トマシノの勝ち」の文字。

◯リーグ表

◯道
  リョウヘイ、うつむいて路肩を歩いている。
  その正面、トマシノ、肩で風を切って歩道を歩いている。

◯テロップ画面
  「世の中には二種類の人間がいる」の文字。

◯ホテル・中
  トマシノ、ベッドで女2人と3Pをしている。

◯テロップ画面
  「歩道を歩く人間と」の文字。

◯リョウヘイの部屋
  リョウヘイ、パソコンの前に座り、乳首をいじりながらAVを見ている。

◯テロップ画面
  「路肩を歩く人間」の文字。

◯道
  リョウヘイとトマシノ、すれ違う。
  リョウヘイ、うなだれる。

◯テロップ画面
  「5戦目」の文字。

◯道
  リョウヘイ、歩いている。 
  正面からアイリと友人、やってくる。
  アイリと友人、横一列で歩道と路肩を歩きながら楽しげに話している。
  リョウヘイ、そんな二人を見る。
  民家側にはちょうどブロック塀があり、民家側によけるスペースはない。
  リョウヘイとアイリたちの距離が近づく。
  リョウヘイ、よけるにもよけられずに困っている。
  アイリたち、リョウヘイのことには気にもとめず、歩道と路肩を占拠している。
  リョウヘイ、さすがにむっとする。
  お互いの距離が接近する。
  リョウヘイ、しかたなしに後ろを振り返り、車がこないことを確かめ、車道へとはみ出してアイリたちをよける。

◯テロップ画面
  「アイリの勝ち」

◯リーグ表

◯道
  アイリたち、何事もなかったように去っていく。
  リョウヘイ、微かに体を震わす。

◯テロップ画面
  「6戦目」の文字。

◯道
  リョウヘイ、体を震わせて歩いている。
リョウヘイの声「(ぼそりと)いつもよけていた」

  以下、回想シーンが続く

◯別の道1
  リョウヘイ、歩いている。
  正面から年寄り、やってくる。
  リョウヘイ、距離が詰まらないうちに コースを変更して年寄りをよける。
リョウヘイの声「いつもいつもよけてきていた」

◯別の道2
  リョウヘイ、歩いている。
  正面から、日傘を差し、キャリーバッグを引いた女がやってくる。
  女、悠然と道の真ん中を歩いてくる。
  リョウヘイ、しかたなく端っこギリギリに移動してよける。
リョウヘイの声「よけない女」

◯別の道3
  リョウヘイ、歩いている。
  前方の曲がり角から歩きスマホをする男が出てくる。
  男、リョウヘイに向かって進んでくる。
  リョウヘイ、しかたなくよける。
リョウヘイの声「よけない男」

◯別の道4
  リョウヘイ、歩いている。
  正面から手をつないだカップルがやってくる。
  カップル、歩道を独占している。
  リョウヘイ、しかたなく路肩へ降り、カップルをよける。
リョウヘイの声「よけないカップル」

◯別の道5
  リョウヘイ、歩いている。
  正面から横一列で歩くサラリーマンの集団がやってくる。
  リョウヘイ、端っこによける。
リョウヘイの声「よけない集団」

◯別の道6
  リョウヘイ、歩いている。
  正面から自転車がやってくる。
  自転車、歩道から降りることなくリョウヘイに突っ込んでくる。
  リョウヘイ、思わず路肩へ降りる。
リョウヘイの声「よけないチャリンコ!」

◯別の道7
  リョウヘイ、うつむいて歩いている。
リョウヘイの声「…いつもよけてきた。26年間いつもよけてきた」

◯リョウヘイの部屋
  リョウヘイ、机に突っ伏している。
リョウヘイ「(唇を噛み)俺ばっかり…俺ばっかりだよ!」

◯アルバイト先の休憩室
  リョウヘイ、椅子に座って昼飯を食べている。
声「ラストストロー現象って知ってる?」
  リョウヘイ、顔をあげる。
  いつの間にか隣の椅子にリョウヘイの同僚が座っている。
同僚「重い荷物を背負い、我慢に我慢を重ねていたラクダがいてさ、最後は1本の藁を積んだだけで倒れてしまったって話」
リョウヘイ「…」
  同僚、リョウヘイの肩を優しく叩き、
同僚「リョウヘイ見てると、なんか心配でさ」

◯道
  リョウヘイ、車道に出てアイリたちに道を譲る。
  アイリと友人、平然と去っていく。
  リョウヘイ、体を震わせている。
リョウヘイの声「もうよけるのやだよ! おかあさん! 僕やだよ!」

◯イメージ映像
  リョウヘイの母親の顔のアップ。
  母親、慈愛に満ちた顔で、
母親「もういいんだよ。あんたは今までずっと我慢してきた。もう我慢することなんかないんだよ」

  回想(とイメージ映像)、おわり

◯(戻って)道 
  リョウヘイ、鬼の形相になる。
  正面からノリオ(44)がやってくる。
  ノリオ、どことなく殺気立っている。
  互いの目が合う。
リョウヘイの声「殺す」
  リョウヘイ、闘争本能を滾らせる。
  二人とも道を譲る気配がない。
  近づく距離。
  ノリオ、リョウヘイの鬼の形相を見て、少しばかり動揺する。
  二人、至近距離まで迫る。
  そしてぶつかりそうになった瞬間…
  リョウヘイは路肩へ、ノリオは民家の敷地のほうへ、同時によける。
  二人、どうにかすれ違う。

◯スロー映像
  同時によけた場面がスローモーションで映し出される。
  ノリオがよけるよりわずかに早く、リョウヘイの足が路肩についている。

◯テロップ画面
  「ノリオの勝ち」の文字。

◯リーグ表

◯道
  リョウヘイ、全身を震わせながら天を仰ぐ。

◯以下の結果画面が表示される

◯テロップ画面
  以下の文字が出る。
  「同点が三人いた場合、決勝戦の選手はくじ引きで決める」

◯運営の部屋
  机の上に抽選箱。
  黒ずくめの男、抽選箱に手を入れ、カラーボールを一つ取り出す。
  カラーボールには「トマシノ」の名前。
  黒ずくめの男、再度抽選箱からカラーボールを一つ取り出す。
  カラーボールには「ノリオ」の名前。

◯テロップ画面
  「決勝戦」の文字。

◯道
  トマシノ、歩いている。
トマシノ「(ぼそり)…店寄るの忘れた」
  トマシノ、踵を返す。
  正面からノリオ、やってくる。 
  互いに目が合う。二人、互いの存在に気づく。
  ノリオ、俄に顔がこわばる。
  トマシノ、表情一つ変えない。
  二人の距離が近づく。
  二人、互いに道を譲る気配がない。
  ぐんぐん近づく二人の距離。
  と、ノリオのすぐ前方にコンビニが見える。
  ノリオ、吸い込まれるようにコンビニに入っていく。

◯テロップ画面
  「優勝はトマシノ」  

◯スナック店・中
  トマシノ、入ってくる。
  スナックのママへ、
トマシノ「組長から頼まれてきた」
  ママ、トマシノへみかじめ料の入った封筒を渡す。
トマシノ「おう。悪いな」
  トマシノ、封筒を懐にしまう。

◯テロップ画面
  「おまけ映像」の文字。

◯コンビニの中
  ノリオ、入ってくる。
  ノリオ、トイレへ繋がる狭い通路を歩く。
  正面からいかつい外国人がやってくる。

(おわり)

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