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竜とそばかすの姫|細田監督、君は何もわかっていない

細田守監督の「デジモンアドベンチャー僕らのウォーゲーム」を初めて観たとき、すごい人がいるもんだな、と思った。

題材こそ個人的に馴染みのないデジモンだったが、そんなことが気にならないくらいストーリーとして完璧で、今でも見返している作品の一つだ。

(これをセルフリメイクしたのが「サマーウォーズ」。改悪が多く、お世辞にも出来がいいとはいえない)

以来、細田映画はすべて観るようにしていたが、脚本という点では残念ながら「僕らのウォーゲーム」を越える作品は未だ生まれていない。

しかも悪いことに細田監督が単独で脚本を書き出した「バケモノの子」以降は脚本のクオリティが悪くなる一方で、今作の「竜とそばかすの姫」も単独執筆ということで不安はあった。

(ちなみに「僕らのウォーゲーム」の脚本を書いたのは吉田玲子さん)

前置きが長くなって申し訳ないが、僕の抱いていた不安は見事に的中したので、以下脚本的に気になった点をいくつか箇条書きにしていきます。

(本当はもう少し時間をかけて記事を書きたかったのだけれど、駄作に二時間付き合わされてウンザリしているので)

※ネタバレあり




①ツカミがない

上映が始まってからいくら待っても引き込まれるシーンが一向に訪れない。

後述する「ストーリー構造の歪さ」が大きな原因の一つになっているが、それでも一つくらいは「おっ」と思わせるシーンがあっても罰はあたらない。

それすら一つもないのは、細田監督のストーリーを描く際のタッチが恐ろしく未熟なせいだと思われる。

「竜とそばかすの姫」のストーリーはシリアスなので、コメディタッチなら「コメディタッチのシリアス」、シリアスタッチなら「シリアス(シリアスタッチのシリアス)」になるが、悪い意味でどっちつかずになっている。

シリアスタッチにしてはのっぺりしすぎているし、コメディタッチにしては遊び心がなさすぎる。(どちらも初心者が陥りがちなパターン)

タッチの程度が低いから個々のシーンさえも殺してしまっており、観ていて味気ない。

個人的にツカミを感じたのは上映開始から1時間過ぎくらいだろうか。

駅でカミシンとマドンナが鉢合わせするシーン。やりとりの間が何ともおかしかったのだが、

それではツカミとして遅すぎる。



②「聞いたか坊主」地獄

シナセン(脚本教室)に通っていた頃に「聞いたか坊主」という言葉を習った。

説明セリフの一種で、「こんなことがあった」「アイツがああした」など、ガヤの噂話によって観客に情報を伝えるやり方だ。

サスペンスドラマなんかで事件のあったアパートの前で主婦たちが被害者についてあれこれ話すシーンがあるが、あれがそうだ。

「聞いたか坊主」は初心者以外でも使うことはあるものの、基本的にはよろしくない。まして常用するのは脚本初心者以外にはまずいない。


細田監督はまさに常用者だった。

ガヤのネットユーザーらによる聞いたか坊主のオンパレード。
一度や二度の話ではない。
数えたわけではないが、10回近くはあったのではないか。
うんざりした。

恥ずかしくないのだろうか??



③メインのストーリーが二つある

メインストーリーが二つある作品を極まれに見かける。

例えば「殺したい女」がそうで、「夫に殺されそうになっている妻が誘拐される話」と「愛人の女が男を警察に売る話」の二つが混じっている。

「殺したい女」の作品をつまらなくしている原因は簡単だ。

メインストーリーが二つあるからだ。

このように過去の映画作品から学んでいる人であれば一つの作品でストーリーを二つ書こうなんて思わない。
(もちろん型を逆手に取るならばストーリーを二つ書いてもかまわない。それはまた別の話)


「竜とそばかすの姫」にはメインストーリーが二つある。

一つ目が、

母の死によってわだかまりを抱えた主人公が竜を助けることでわだかまりを克服する

二つ目が、

自分に自信のない主人公が仮想空間でスターになってイケメンの幼なじみと結ばれる

作品を分解すると、別々といっていい二つのストーリーがごっちゃになっていることがわかる。

ゆえに焦点の弱い、とりとめのないストーリーになってしまう。

・主人公がスターになったことと、竜との交流に何の関係があるのか?

・主人公の母の死と、幼なじみとの思い出に何の関係があるのか?

・竜を助けることと、幼なじみに思いを寄せるに何の関係があるのか?

関係性のない二つのストーリーを詰め込んでしまうから、こんなふうに観客は疑問に思ってしまう。

百歩譲ってバラバラに見えていたそれらの要素が最終的に一つに収束するというならまだしも、それがない。

竜は竜の話。恋は恋の話。で終わった。

細田監督、ストーリーは一つに絞りましょう。(基本中の基本です)



④主人公と竜との交流が描かれていない

この映画を駄作たらしめている理由の一つに「主人公がなぜ竜を助けようとしているのかがわからない」がある。

原因は二つあって、

一つ目、

主人公が竜を助ける動機として「母の死に対するわだかまり」があるが、
ストーリーというのは現在進行形で描かれるものであって、過去のエピソードは基本的に単なる設定なので、観客が受け入れるに足る「動機」として成立していない。

だから観客はわからない。

二つ目、

主人公と竜との交流が描かれていないので感情移入のしようがない。

たとえば「タイタニック」であれば、ジャックがローズの自殺をとめたり、晩餐会でローズがジャックの肩入れしたり、そういうエピソードがふんだんに展開されている。

だからこそ観客はジャックとローズの関係に真実味を感じるのであって、竜とそばかす姫の間にはそれがない。


要するにこの映画は「役に立たない設定を引きずったまま」「展開のないストーリーを描いている」という、初心者にありがちなパターンに陥っているということだ。





いかがだろうか。

本当はもう少し丁寧に記事を書きたかったが、予想以上の駄作だったのでレビューする時間がもったいないと思った。

(映像や声優に関してはよくわからないので言及しません。個人的にはすごくよかったと思っている)

映像はいいといわれているのだから、細田監督は大人しく脚本家とタッグを組んで映画を作るべきだと思う。


最後に、
作中のセリフを細田監督へ捧げて記事を終わりたいと思う。

「君は(脚本について)何もわかっていない」

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