足りない料理店#完成された物語
こちらのお題に参加させて頂きました。
楽しいお題をありがとうございます。
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ある料理店に雇われた女はすぐに店のおかしさに気づいた。
客の一人が麻婆豆腐を頼んだ時のことだ。
運ばれてきた麻婆豆腐には豆腐が入っておらず、いわば麻婆だった。
客は不審に思い、そのことを店側に告げると店長がやってきて、
「失礼致しました。今すぐ豆腐を入れて参ります」
しばらくして豆腐入りの麻婆豆腐が客のもとに届けられた。
別の客が鍋を頼んだ。
鍋には具材として入っているはずの豆腐が入っていなかった。
それに気づいた客が声を荒げると店長がやってきて、
「失礼致しました。今すぐ豆腐を入れて参ります」
しばらくして豆腐入りの鍋が客のもとに届けられた。
別の客が冷や奴を頼んだ。
鰹節とネギのみが運ばれてきた。
客は動揺した様子だったが、何もいわずにお代を払って出ていった。
「なぜ豆腐を出さないのです?」
女は店長に訊ねた。
「たまに豆腐を持ってくる客がいるんだ」
と店長が答える。
「店に文句の一つもつけられない、メンタルという名の豆腐をね」
(おわり)
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