マジで回想する5秒前|脚本
回想形式ならぬ
走馬灯形式の脚本となります
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あらすじ
道路に飛び出したまさる(7)がトラックに轢かれそうになったことに端を発し、まさるを含む5人の命が危険にさらされ、走馬燈が連鎖する。
それぞれの人生を映し出した走馬燈によって、息子のまさるを残して消えた直樹(32)に関して思わぬ事実が炙り出される。
《登場人物》
中井まさる(1)(3)(5)(7) 小学生
秋山(1)(7)(12)(15)(22) 大学生
市川(30)(38) フリーター
吉村(1)(10)(25)(30)(35)(50)(58) トラックの運転手
中井総一郎(1)(7)(15)(18)(30)(40)(45)(50)(80) まさるの曾祖父
中井直樹(7)(25)(32) まさるの父親
中井誠(7)(17)(25)(30) まさるの祖父
あいの(23)(24)(26)(28)(30) まさるの母親
りな(15)(18) 秋山の彼女
幸子(25) 吉村の妻
脚本
○川に架かった大きな橋
車が行き交っている。
中井まさる(7)、歩道を歩いている。
まさるの手にはアイスの当たり棒が握られている。
橋の向こうにコンビニがみえる。
まさる、コンビニに気づき、とっさに車道を横切ろうとする。
まさるが車道に飛び出すと、目の前からトラックが猛スピードでやってくる。
トラックのクラクションが鳴り響く。
まさる、アイスの棒を持ったままトラックの前に立ち尽くす。
以下、フラッシュバックが続く
○まさるの家・リビング
テレビからアンパンマンのアニメが流れている。
まさる(1)、テレビを指さし、
まさる「(舌足らずに)アンパンマン!」
あいの(24)、やってくる。
あいの「(喜ぶ)すごいじゃない! アンパンマンっていえるようになったの! ママは? ママっていってごらん」
まさる「(無言)」
あいの「あれは?(とテレビを指さす)」
まさる「アンパンマン!」
○同・台所
まさるの声「ママ!」
まさる(3)、バタバタ駆けてくる。
まさる、洗い物をしているあいの(26)の体にしがみつく。
まさる「大好き」
あいの「もー甘えん坊さんなんだから」
○道
まさる(5)、あいの(28)と歩いている。
目の前に若い夫婦と小さな女の子。
三人、仲良く手をつないで歩いている。
女の子「ママとパパはどうして結婚したの?」
まさる、三人の姿をじっと見つめる。
○まさるの家・リビング
まさる、あいの、ホットケーキを食べている。
まさる「ママ。うちのパパはどこ?」
あいの「…」
あいの、手をとめて寂しく微笑む。
○夜空
あいのの声「パパはお星様になったの」
まさる、切ない顔で星空を見上げる。
○まさるの家・リビング
まさる(7)、当たりとかかれたアイスの棒を振りかざす。
まさる「ママ! ママ!」
まさる、テーブルでノートパソコンをいじっているあいの(30)のもとへ駆け寄る。
まさる「あたり!」
あいの「そう。よかったね」
まさる「取り替えてくる!」
あいの「車に気をつけてね」
フラッシュバック、おわり
○(戻って)橋(5秒前)
秋山(17)、自転車をこいでいる。
正面にまさるの姿。
まさる、車道へ飛び出してゆく。
秋山「(見て)?!」
トラックのクラクションが鳴り響く。
秋山、自転車から飛び降りる。
秋山、まさるのもとへと疾走する。
秋山、棒立ちのまさるを抱きかかえると、反対車線へ飛び込む。
秋山、何とかトラックをかわす。
が、反対車線から別のトラックがやってくる。
トラックのクラクションが鳴り響く。
秋山、迫り来るトラックを見て、
秋山「(絶叫)うあああわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! …う、う、うわああああああああああああああああああああ!!!」
以下、フラッシュバックが続く
○秋山の家・リビング
テレビからアンパンマンのアニメが流れている。
秋山(1)、テレビを指さし、
秋山「(舌足らずに)アンパンマン!」
○道
ミンミンゼミが鳴いている。
秋山(7)、木にとまっているセミを手で捕まえる。
捕まえたセミを見て、
秋山「(得意げな顔)」
○サッカーグラウンド
サッカーの試合中。
秋山(12)、ドリブルしている。
背中に見える背番号は10。
秋山、シュート。
ボールがゴールネットを揺さぶる。
秋山、ガッツポーズ。
○高校・グラウンド
秋山(15)、サッカーの練習をしている。
声「秋山!」
秋山、振り向く。
コーチの直樹(25)、立っている。
秋山、ダッシュで直樹のもとにいく。
直樹「今度の試合、レギュラーでいく。頼んだぞ」
秋山「(嬉しい)はい!」
○同・校舎裏
秋山とりな(15)が立っている。
秋山、緊張した様子で、
秋山「県大会、必ず勝つから…優勝したら俺と付き合ってほしい!」
りな「…はい」
二人「(笑顔)」
○道
秋山とりな、歩いている。
目の前に直樹と身重のあいの(22)の姿。
秋山「コーチ!」
直樹、秋山に気づく。
直樹、手で挨拶する。
直樹とあいの、去っていく。
りな「お似合いの夫婦だね」
秋山「うん」
りな、そっと手を伸ばして秋山の手を握る。
秋山、顔を真っ赤にする。
○秋山の部屋
秋山とりな、ベッドに腰かけている。
二人、そっと口づけを交わす。
○秋山の部屋
秋山(18)とりな(18)、ベッドで激しく抱き合っている。
○秋山の部屋
秋山(19)と年増の女、ベッドで激しく抱き合っている。
○秋山の部屋
秋山(20)とフランス人の女二人、ベッドで3Pしている。
○ホテル会場
「八王子高校第55期生 同窓会」の看板。
秋山、仲間と酒を飲んでいる。
秋山、直樹を見つける。
秋山「コーチ!」
秋山、直樹のもとへいく。
秋山「お久しぶりです」
直樹「おう。秋山か」
秋山「奥さんとお子さん、元気っすか?」
直樹、酒を一気にあおる。
秋山「コーチ?」
直樹「…息子は、とっくに捨てちまったよ」
秋山「…?」
フラッシュバック、おわり
○(戻って)橋(5秒前)
市川(38)、歩道を歩いている。
前方からトラックのクラクションの音。
市川「?」
別のトラックからもクラクションの音。
市川、思わず立ち止まる。
トラック、まさると秋山をよけるためにハンドルを切る。
トラック、市川のほうへ突っ込んでくる。
市川、棒立ちで動けない。
以下、フラッシュバック
○マクドナルド・店内
市川(30)、窓際の席でひとり黙々とチーズバーガーを食べている。
市川「(味わって)うん」
フラッシュバック、おわり
○(戻って)トラックの車内(5秒前)
吉村(58)、運転している。
突然、反対車線にまさるが飛び込んでくる。
対向車のクラクションの音。
直後、まさるを抱えた秋山が目の前に転げ込んでくる。
吉村、ブレーキを踏みながらクラクションを鳴らす。
秋山、迫りくるトラックを見て、
秋山「(絶叫)うあああわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! …う、う、うわああああああああああああああああああああ!!!」
吉村、止まりきれずハンドルを切る。
目の前に棒立ちの市川の姿。
吉村、さらにハンドルを切る。
トラック、橋の欄干に直撃する。
トラック、欄干を突き破り、
吉村「!!」
以下、フラッシュバックが続く
○吉村の家・居間
ブラウン管テレビからアンパンマンのアニメが流れている。
吉村(1)、テレビを指さし、
吉村「(舌足らずに)アンパンマン!」
○空き地
吉村(10)、仲間とサッカーをしている。
○披露宴会場
花婿姿の吉村(25)、花嫁の愛子(25)と並んで座っている。
誠(25)、マイクの前に立っている。
誠「吉村くん、愛子さん、結婚おめでとう。こうして畏まったままだと話しにくいので、いつも通りヨッシーと呼ばせてもらいます」
吉村「(笑う)」
○居酒屋
吉村(30)、誠(30)、飲んでいる。
吉村「誠。今日、直樹が青あざ作って俺んとこにきたよ」
誠「イタズラしたんだ。しつけだよ」
吉村「殴ることがしつけか?」
誠「…」
吉村「おい。殴ることが子供のためかって聞いてんだ」
誠「(かっとなる)うるせえな! そんなこと俺だってわかってんだよ!」
吉村「…」
誠「(酒をあおる)」
○吉村の家・門
吉村、玄関から出てくる。
直樹(7)、青あざを作って立っている。
吉村「…また誠に殴られたのか」
直樹「お父さんは僕のことが嫌いなんだろうか」
吉村、直樹を抱きしめる。
○誠の家・和室
喪服姿の吉村(35)、棺桶の前に立っている。
棺桶の中の誠の死に顔を見つめて、
吉村「バカ野郎…」
○吉村の家・居間
吉村(50)、直樹(25)、向き合っている。
直樹「一緒になりたいと思う人ができました」
吉村「そうか。おめでとう」
直樹「(微笑む)」
吉村「俺には子供ができなかった。お前を息子同然だと思ってる」
直樹「はい」
吉村「(笑う)孫の顔がみれるのが楽しみだ」
フラッシュバックおわり
○(戻って)川(5秒前)
総一郎(80)、ボートに乗っている。
ボート、橋の下を通過する。
直後、ボートの真上に巨大な影が現れる。
総一郎「(見上げる)」
橋からトラックから落ちてくる。
総一郎「…」
以下、フラッシュバックが続く
○総一郎の家・居間
白黒テレビからアンパンマンのアニメが流れている。
総一郎(1)、テレビを指さし、
総一郎「(歪んだ笑みで)バイキンマン」
○小学校・うさぎ小屋
総一郎(7)、うさぎを蹴り飛ばす。
○夜道
バイク、停まる。
総一郎(15)、現れて、ライダーを殴りつける。
ライダー、地面に転げ落ちる。
総一郎、バイクを盗んで走り出す。
○夜の校舎
総一郎、金属バットを手に窓ガラスを壊して回る。
○雑木林
女、息を切らして逃げる。
総一郎(18)、舌なめずりで追いかける。
○総一郎の家・居間
総一郎(30)、缶ビールをあおる。
缶ビールが空になる。
総一郎「(叫ぶ)誠! 酒買ってこい!」
誠(7)、近くで宿題をしている。
総一郎「酒買ってこいっていってんだ!」
総一郎、誠を足蹴にする。
総一郎、怒りに任せてしつこく蹴る。
誠、呻く。
○総一郎の家・玄関
誠(17)、ボストンバッグを抱え、靴を履いている。
総一郎(40)、背後から、
総一郎「どこへいく?」
誠「この家から出る」
総一郎「…そうかい、勝手にしろ」
誠、総一郎を睨みつける。
誠「俺は絶対にあんたのようにはならない」
○総一郎の家・居間
総一郎(45)、缶ビールをあおる。
○雑木林
若い女、息を切らして逃げる。
総一郎、舌なめずりで追いかける。
○総一郎の家・居間
総一郎(50)、缶ビールをあおる。
○雑木林
フランス人の女、息を切らして逃げる。
総一郎、舌なめずりで追いかける。
○河原
総一郎(80)、ワンカップ王関を飲んでいる。
近くで直樹(32)、佇んでいる。
総一郎、直樹のもとへいく。
総一郎「最近、よくみかけるな」
直樹「(軽く会釈する)」
総一郎「若いのに悩みか?」
直樹「…」
総一郎、ワンカップを差しだし、
総一郎「飲むか?」
直樹「(首を振る)」
総一郎「まァ座れ」
総一郎、座る。
直樹、座る。
総一郎「俺ァ80年生きた。やりたいことだけをやって生きた。本望だ。それでいいと思ってる。そうじゃなきゃ生まれた甲斐がねえ。俺からいわせれば悩むなんざ馬鹿馬鹿しい」
直樹「…息子を殴りました」
総一郎「…」
直樹「俺は親父に毎日のように殴られてた。だから俺は親父のようにはならないと誓った。でも、俺も息子を殴った。だから、自分自身が怖くて、息子を捨てて逃げました」
総一郎「それで、逃げてどうする」
直樹「堪えます」
総一郎「…」
直樹「息子の幸せのために、じっと堪えます」
直樹、立つ。
直樹、去っていく。
フラッシュバック、おわり
○(戻って)川
総一郎、落下するトラックを見上げている。
衝突音とともに暗闇が訪れる。
○まさるの家・リビング(翌日)
テレビからニュースが流れている。
アナウンサーの声「昨日、橋からトラックが転落する事故がありました。トラックは川を渡っていたボートに直撃し、ボートに乗っていた中井総一郎さんが死亡。トラックの運転手はケガを負いましたが、命に別状のないとのことです」
(おわり)
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