接客時の言葉遣いで気をつけたいのは文法や敬語のレベルよりもその印象

以前から、販売員をやるうえで大切にしていることを聞かれたときは「自分自身がリアルにお客側でいること」と答えています。

私がお客様だったらされたくないことはしない、というのとは少し違って、売る側に浸かってしまうと買う側の感じ方やモノの見え方に鈍感になってしまうからです。

たとえば売る側にいると、教育として丁寧な言葉遣いや正しい敬語は当たり前になっていて、そこにフォーカスすることは多くなるし、正解が決まっているのでフォーカスしやすい部分でもあります。

しかし、実際に接客で求められるのは、語学的正解ではなくお客様的最適解だと感じます。

ここから、販売員が発する言葉が塗り替えるヒト・モノ・空間の印象について考えていきます。

先日、秋物が揃い始めたショップを見て回りました。

あるブランドで、ルックブックを見て以来入荷を楽しみにしていたブルゾンを見つけたのでそれを伝えると、販売員さんが羽織らせてくれました。ところがイメージしていたより少し生地が薄くて、ほとんど買うつもりでいたのに気持ちが躓いてしまったのです。

「どうしよう…欲しかったけど、やっぱりちょっと違う…生地の落ち方が弱いなぁ」

その様子を見て、販売員さんは「少し素材も変わるけどアイテムとしては近い雰囲気のものがありますが、ご覧になりますか?」と、別の商品を持ってきてくれました。

先のブルゾンと沈黙の対峙をしていては間が持たない気がしたので、一応羽織らせてもらうことにしたのですが、袖を入れた瞬間にデザイン的に自分に合わないと感じて、肩まで乗せずに試着をやめました。

「あ、すみません、やっぱり大丈夫です。ちょっとここのデザインが…」と、まだ言葉を選びながら話している私に販売員さんがこう重ねてきたのです。

「お嫌いですか?」

え?

嫌い…?なんで?

数秒固まりましたが、「好きなブランドなのでいきなり嫌いとか思いませんけど、この袖のデザインが私には着こなせそうにないのでやめておきます」といってお店を後にしました。

初対面の人はもちろん、そんなに気心知れた仲でなければ、本心の「好き」や「嫌い」はなかなか相手に見せないものだと思います。

言うほど「好き」ではないけど、相手は好きそうだなと思えば、「いいよね」と言ったり、実は「嫌い」だけど相手は好きそうだなと思えば、「分からない」とか「あまり知らない」とかで濁すことが日常にもあると思います。

特に「嫌い」の自己開示は軋轢を生むこともありますし、良好なコミュニケーションを心がける人なら軽はずみには使わない単語です。

「好き」より「嫌い」が憚られる理由は、印象が悪いから

嫌いという単語からは、それを口にする人のイヤそうな表情や言い方、拒絶する体勢などが連想され、決して空気はよくありません。もちろん主張としては誰もが許されることですが、一発でその場の空気を不穏なものにする危険をはらんだ言葉です。

もしかしたら、販売員さんは、試着を途中でやめた私の感想をより具体的につかむため、「お嫌いですか?」と聞いたのかもしれないけれど、私はたとえ嫌いでも「こういうのは嫌いなの」とその販売員さんに教えてあげるほど心は開いていませんでした。

それから、好きじゃない=嫌い、というわけでもないのに、私の反応を見て「このお客様はこれがお嫌い」と勝手に決めつけられた気がして、自己開示を強制された上に事実を捻じ曲げられた感があったため、それ以上コミュニケーションを取る気がなくなりました。

この辺りはコーチングを勉強すると具体的に理解が深まる部分ですが、相手の話を最後まで聞かずに決めつけるのは、コミュニケーションを破綻させる代表例です。

お客様の言葉にならないことばを言葉にするときに気をつけること

今回、私は感想を言葉にできないことはありませんでしたが、販売員として店頭にいると、販売員に対してイメージしているモノや気にしていることなどを具体的に言葉にして伝えるのに苦労しているお客様をよく見かけます。

お客様の、言葉にならないことばを正しく理解するためには、ヒアリングしながら販売員が具体的な言葉に言い換えるとよいのですが、その際にマイナスイメージのある言葉は避けたほうが、言いにくいことでも印象は悪くなりません。

たとえば

きつい→タイト

汚い→汚れがある

苦しそう→生地に線が入る

手入れが面倒→お手入れをしたほうが良い

似合わない→メイクや髪型も合わせて変えたほうがよさそう

などです。

カタカナ英語に言い換えるのが一番手っ取り早いのですが、やりすぎると何を言っているか分からなくなるので、お客様に伝わることばで、工夫をしてみてください。







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