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#03 「疲れた」 臨界点のうた ~ チャットモンチー 『チャットモンチー BEST 2005-2011』 (2012)

そうだ、チャットモンチー観にいこう

頭で考えることに微細なものなど一つもない、偶然にも傍らを通るものを捉えることの中にしかそれはない。偶然に傍を通るものに託すしかないのだ。

自分で言うのは全く恥ずかしいのですが、今までこのnoteに書いてきた記事の中で「ここ好きだな」とか「この表現良いよな」と思う箇所も、まあ、あるわけです。が、そのようなワードなりフレーズなりというのは往々にして、日常のふとした瞬間に浮かんだものだったりする。そんなフレーズを書き留めたメモを元に文章を組み立てることが多い。冒頭の一文もまさにメモの中からこの記事に相応しいものを見繕ってコピペしたものだ。日本語として洗練されていないとしても、それが浮かんだ瞬間の高揚感をそのまま出力することを優先している。

ともあれ、傍を通るものを信用してみる。前回に書いた残業続きで気持ちが沈んでいる時期になぜかライドの「Here And Now」と同時に「シャングリラ」も頭の中で鳴り響いていた。そして、ふと「チャットモンチーのライブでも観にいけば気分が晴れるのかも知れない」と思い至った。普段はアピア40とかUFOクラブとか、文字通り場末のライブハウスにしか足を運んでいなかったけれど、もうちょっとオーバーグラウンドなものも観てみようかという気分になった訳です。それでライブの予定を調べるつもりで何気なくバンドの公式サイトにアクセスしてみると、そこに「LAST ALBUM RELEASE IN 2018」と告知されていた。その夜、2018年7月をもってバンド活動を休止することが発表された。

普段からチャットモンチーを聴いていたという訳ではない。過去に一度だけ、ラジオから流れてきた「シャングリラ」を聴いて、こういう曲をやっている人たちなのかと認識した程度でした。しかし、なぜかそのメモリアルな日に「シャングリラ」と彼女たちのことを思い浮かべていた。

全くの偶然であるけれど、このようなシンクロが起きることは度々ある。やはりこれも空耳であるに違いない。以前にも書いているように、空耳とは身体性に根ざした鋭敏な感覚が、愚鈍な意識の表層に対して「今あなたが求めているのはこの旋律ですよ」と囁きかけることによって聴こえてくると考える。なので、自らの身体が「シャングリラ」を渇望していたのは間違いないところですが、それは決して" 励まし "を求めてのことではない、というのは前回の記事でも指摘した通りです。では、何を求めていたのだろうか?

グロテスクな心象風景

ともあれ、プレイリスト「疲れた」に「シャングリラ」を追加しようと思い『チャットモンチー BEST 2005-2011』を購入しました。が、困ったことにここに収録されている大半のナンバーにはあまり心が動かなかった。つくづく、自らの感性とJ-POP的なモノとの相性の悪さを思い知らされた。

「宛先の不在性」それが「負の音楽」の必須のファクターだ。以前、このnoteで「どこに向かって鳴らされているのか、にわかには判別できない音楽の方に惹かれる」と書いた。けれどもこの嗜好は、真っ直ぐにリスナーへと音楽を届けることを至上命題としたJ-POPの理念とは相容れない欲求というものだ。しかし「シャングリラ」はこの理念に少し抗っている、ように聴こえる。

この曲に関して、サビにおける秀逸なコード進行だとか、男心を解りすぎている歌詞だとかの要素は言わずものがなの前提とした上で、それがこちらに刺さるかどうかはまた別の問題だ。世界を打つ力、それがそのまま、解釈や意味の付与を経ずにこちら側に直に響いてくるかどうかが、死活的に大事なのです。結局のところ、世界に対するその人の" あがき "を見るよりしょうがない。

そのような身悶えのような軋轢の音は、むしろこのベスト盤以降、解散に至る過程の中でこそ露わになってゆくような印象があるけれど、バンド初期における「シャングリラ」のマグマのようなほとばしりには、たまたまその脇を通りかかった者の身体にも、彼女たちのあがきの痕跡を刻みつけるほどの力がある。それが数年を経た後でも振動するのを止めず、日常的な疲弊をトリガーとして意識の領域まで浮上してくるのは当然のことだったのかも知れません。

この歌は一見、励ましソングのようにも聞こえるけれど違う。「シャングリラ」は、出来なかった、成せなかった、たり得なかった、自らのグロテスクな渇望を許し、祝福するための歌、そのように聴こえる。そのような気分が自分の中からこぼれ落ちるのをのを感じる。

ここに漂う、到達するのとは別の、完成させるのとは別の佇まい、偶然にして" 溢れ出した "ような剥き出しの佇まいに憧れる。noteに載せる文章にしても「いや、これ俺が書いたんじゃないけど…」そう思えたのだったら、たぶん勝ちだ。

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