仮称「今日未明、雨のち曇りか晴れか」

「さようなら」
彼女のその言葉に俺は用意していた言葉を飲み込んだ。
そして精一杯の顔をつくり「さようなら」とその場限りの言葉を捻り出した。
大きな荷物を持った彼女を見送ると、
他の誰1人いない田舎の無人駅のベンチに腰をおろしたのだった。

和「まぢかよぉ、うわぁ絶対今後ないじゃん」「片道2時間だろ、全然行けるし、なんならLINEも秒で返すしさぁ、絶対に寂しい思いなんてさせないのに」 

和「はぁー、あんなに優しくしてくれたのに終わりは呆気ないな..…..…次の電車で俺も終わらせてやろうかなぁ」

尻「早まるなよ」
和「!?な、なんだお前は、いつからそこに..…」

ベンチの横に座るのはスーツを着た大柄な男性?
?ハテナの文字がつくのはその顔がおおよそ人の顔の形からかけ離れていたからだ

尻「お前とはご挨拶だなぁ、母親に初対面の人との口の聞き方とかは教わらなかったのかい」
和「普通、初対面の奴はそんなに馴れ馴れしく声掛けて来ねぇよ。というかお前、一体なんなんだ?」
尻「おれか?おれは...…どうやらお尻のようだな」
和「な、ふざけ.…」
尻「冗談だ、冗談。和樹が考えている方で【こうであっては欲しくない方】を言っただけだ。」
和「俺の考えていることがなんで分か...…というかなんでお前、俺の名前を知ってる?」
尻「まだ、生まれたばっかでね上手く説明出来兼ねるよ。名前を呼ぶなら気さくに【HEY 尻】とでも呼んでくれ。そして......…君のことならよく知ってる、君がとっくの昔に振られていた事とかね」
和「何が言いたい?」
尻「和樹、君はさっき【今しがた】彼女との関係が終わった、そのように言ったね?でもそれは違う。もう数ヶ月前から終わってたはずだ」
和「お前に何がわかる?知ったような口を.…」
尻「上京の理由!忘れた訳じゃあるまい」
和「!?そ、それは.....…人と会うためだ」
尻「まるで友達に会いに行くみたいにいうんだな?それが最後の抵抗か?本当は分かっているはずだ。仕方ない一から説明しよう」
和「やめろ!」
尻「お前は3ヶ月前に彼女に好きな人が居ると告げられ、そして別れた。だがその後も友達というポジションから連絡を取り続けた」
和「やめてくれ。」
尻「それでこの夏に、上京する理由はもちろん就職活動でも進学でもない。彼女の好きな、君より背の高くて、スーツも良く似合うダメ押しでイケメンな先輩に会いに行くため..…」
和「やめろぉおぉおぉおぉお!!!!」 
尻「はぁ、君が今日やったのは彼女の見送りじゃない、ただの家出の手助けだ」
和「..…そうだよ、おまえのいう通りだ。おれはフラれた後も惨めったらしく縋り付いた。相談役という友達のポジションに。彼女の為ならって彼女にも自分にも嘘をついて、報われなくても良いと、宣いながらもワンチャンないかなぁって、笑うなら笑うがいいさ」
尻「笑わないよ。」
和「そして今でも自分に対しての言い訳を作って、騙して、理由をつけて。それでも彼女が好きなんだ。好きをやめられないんだ」
尻「そうだな」
和「..…なぁ、俺、さようならって言った時ちゃんと笑えてた?お前なら知ってるんだろ」
尻「俺はお前の知らないことは知らない、けれども」
和「ああ、そうだな彼女は笑ってたそして..….さようならって言ってた」
尻「ただの友達に対してさようならって普通は可笑しいよな?彼女は、君の気持ちにはちゃんと気付いていたんだよ。その上で甘えてた。でもそれじゃあいけない!今回ちゃんとお別れをしようと思って、最後に君に笑顔を送ったんだろうね」
和「俺もあの笑顔に、言葉にこたえられるかな」
尻「だから俺が現れた」
和「結局お前ってなんなんだ?」
尻「君が嫌いな君自身。正論で君のことを追い立て、姿も君の心の中の借り物」 
和「いやいや、それなら尻とか嫌すぎるw」
尻「これは彼女が看病してくれた時の桃缶、でも君が【尻だったら嫌だなぁ】って思ったでしょう?そのせい」
和「たしかに、そんな姿の奴に正論パンチされるのは嫌すぎるな」

和「なぁ尻?」
尻「....…」
和「....…Hey 尻?」
尻「なんだ?」
和「本当嫌すぎんな、おまえwwwでもあのな、ありがとう」
尻「別にこんなのうんちっちだよ」
和「なんだよその言い回し、それは絶対言ってないって!」
尻「いやいや、言ってるって!そうじゃないと尻得ないだろ?」
和「上手いこと言いやがって」
尻「それじゃあ」
和「もう行くのか?」
尻「君の心がスッキリしたみたいだからな、まだ晴れてない、曇り?みたいなもんだけどもう大丈夫だろ?」
和「また会えるの?」
尻「君の心が雨だか晴れだか曇りだか、自分でもよく分かんない天気になったら、まぁきっと」
和「その時は姿を変えて欲しいな」
尻「そう思うなら多分またこの姿だよwそれじゃあ、またな」
和「うん、またな」

不思議な夏の夕暮れだった。自分が自分に諭されるような
あれから数年経つが彼を見てない
少し俺は成長したのだろうか?
だが彼に会いたい気持ちはある。いや会って言いたい。
「うんちっちは絶対言ったことない」
私の心のモヤモヤはいまだ晴れていない。










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