備忘録:ショスタク博士の思索:ヒドラの出芽・感染阻止の仕組み・腫瘍形成に関して
ショスタク博士の共生と進化に関する考えについて、自身が発表した論文などを検索したものの、ヒドラの成立については、非公式の卒業論文≪裏≫のこれまでの章を上回る発表は見られなかった。しかし、彼の興味関心は共生までのドラマよりも、そのイベントによって如何なる新機軸が生み出されたか、に移行していたようで、2010年代後半からは、この関係の発表が見られた。
ヒドラは出芽という無性生殖によって子孫を増やすことができるが、この出芽自体が、共生の産物だというのである。ヒドラの共生の起源は、アメーバ様の細胞が表皮のマット(板形動物がモデルとなる)への感染から始まり、後者は前者を拒絶できなかったが、共生関係を確立後、別の形式の「排除の仕組み」を確立したと考えている。これが出芽になる。
この出芽は、三段階からなる。
①刺胞の器官を持つアメーバ様細胞が、ヒドラの腸細胞の祖先となった。
②ヒドラは日常的に過剰な細胞を生産し、これらが体内を移動して出芽領域に集まる。
③集まった過剰な細胞は芽体となり、大きさと細胞分化が統制のとれた個体として「排除」される。
彼は数多くの文献を渉猟し、この考えを披露している。①についてはこれまで述べた通りだが、②においては、例えば、ヒドラの過剰な細胞が出芽領域に移動して芽体になり、触手や口丘などの器官に分化していく報告のあること、③においては、例えば、表皮だけのヒドラでは出芽形成ができないこと、をあげている。その他のヒドラの出芽に関して発表された情報を吟味し、彼は、出芽は個体の全長を制御する仕組みではなく、細胞レベルで発生過程が逆行した恒常性維持、という見方を持っている。
もう少し拡張した発想をすると、過剰な細胞を個体繁殖という形で排除するのが出芽であるならば、過剰な細胞にとどまり個体繁殖にもつながらず共生関係にもならないのが、腫瘍ということになるだろう。(実際、ヒドラでは自然環境下で腫瘍が出来ることが知られている)
無性生殖と腫瘍形成との関連性に関しては、出芽は分化した多細胞性の無性生殖の単位であり、新しい場所に親の形態を生み出すが、これ自体が腫瘍の転移が個体に有利になった状態に匹敵するもの、としており、生命現象として出芽と腫瘍の形成は密接な関係にある、というショスタク博士の認識が、末尾の使用文献には散見されるのである。
使用文献
Origin of Asexual Reproduction in Hydra S.Shostak著 Biomed Sci&Tech Res 10(3) 2018
Modular Morphogenesis : Determinate Rythmic Budding in Hydra S.Shostak著 J Cell Biol Cell Metab Volume 6 Issue 1 2019
Hydra's Ghost S.Shostak著 THE EUROPEAN LEAGY 2018
Hydra's complexity : Budding and cancer S.Shostak著 Trends in Developmental Biology Vol.10 p.31-36 2017
参考文献
Dynamic interactions within the host-associated microbiota cause tumor formation in the basal metazoan Hydra K.Rathjeら著 PLOS PATHOGENS March 19 2020
ヒドラの自然環境下での腫瘍形成とその要因についての論文になる。スピロヘータの共生が原因になるが、これだけ体内にいても腫瘍ができるわけではなく、また、22度の温度刺激があると、腫瘍細胞ができる確率が高くなる模様。