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外伝:有望な怪物達 その2:ワイドショー

博士「この編集版のビデオを..セットして、見てみるとしよう」

博士が、ゆっくりと椅子から立ち上がる。しかし、半身不随のため、右足を引きずってTVに近づく。眼鏡を左手だけでかけ、本棚に手をかけて、ビデオをTVにセットし、ゆっくりと戻っていく。右手はだらりと下がったまま、動かない。

芋虫と蝶の写真が背景にあり、複数の人物が早口で興奮気味に喋る。センセーショナルなワイドショーによくある、何かと馬鹿笑いする芸能関係の男達、そして、観客からの爆笑が発現の後に湧き出てくる。

TVの男①「今、遺伝学で面白い話題があるんですよ。芋虫と蝶を掛け合わせたら、何ができると思います?」

TVの男②「バタピラー(butterpillar)でしょう」

TVの男①「他には?」

TVの男②「キャターフライ(catterfly)とか!」

TVの男①「あちゃー!」

TVの男②「そんな馬鹿なって思いますよ!」

TVの男③「その本読んでいますがね、すごく腹を空かした芋虫のところが読み終わらないんですよ..話が何処に行こうとしているのかわからなくもないんですが、読まずに捨てたくもないですしね」

TVの男④「ということは、いくつかの種では一つの動物の生活史を半分再現する、ということですか?」

TVの男①「いいえ、あくまで異なる種の間で起こる、と言っている人の考えですね。私はあり得ないと思っていますが」

博士は目を見開き、黙って録画を見続けている。

TVの男③「わけがわからない..何が起こっているのか..複雑でわからないから、こわい..それが貴方の考え(男②に対して)?」

TVの男①「彼の名前を言おう。ドナルド・ウィリアムソン、リバプール大学の科学者だった。雑種形成説と呼ばれている考えです。2つの異なる種が交雑するという、奇抜な考えですね」

TVの男④「もの凄い考えですね」

TVの男①「素晴らしい考えですよ」

TVの男③「時々、サントロペにいるような老人が綺麗な若い女性を好きになって..似ていますかね?芋虫が金持ちなら、あるかもしれません」

TVの男④「そんな醜い金持ち男はいませんよ」

TVの男①「彼が証拠にしているのは、ルイディア・サルシというヒトデです。小さな幼生として一生を始めるのですが、体内にもっと小さなヒトデを持っているんです。幼生が成長すると、ヒトデは幼生の外に出て、幼生は海底に定住し、お互いに別れます。これが普通なんだそうです。注目すべきなのは、この幼生は成体であるヒトデに消化されずに、独立した生物として数ヶ月間生きることなんです。まるで同じ時期に芋虫と蝶が生きているみたいですね。彼によると、何百万年も昔、海では何百・何千もの精子と卵が混ざって、何百万という種でなくても、たった一日の出来事でも、2倍の種がこの受精で生じたんだそうですよ。彼は、不可能ではないと考えています。信じて良いかはわかりませんが、可能性には興味が惹かれますよ。でも、何かが全くかみあわないんですよね..」

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