常連のオトコ
常連の男
外見はごくごく一般的な中肉中背のメガネ男子、独身サラリーマンの飲み友達がいる。 そのオトコは大衆酒場が好きでよく一人でもあちこち行っているようで、時々飲みに誘われることがある。
今まで降りたことのない、ご飯も食べたことがない駅の商店街の一角にその居酒屋はあった。 はしご酒だったので私自身も記憶がおぼろげなのだけれども、いかにもサラリーマンが仕事帰りに立ち寄るような酒場だった。私はそういう所は好きなので瓶ビールや今日のおすすめ、お刺身などを注文して乾杯を。
そのお店に何故入ったかというとそのオトコが以前、よく同級生と集まった後や会社帰りに同僚たちとよく飲みに行き、ボトルキープしてある焼酎をしょっちゅう飲んでいたらしく、その懐かしさと当時の思い出も含て久しぶりに行きたくなったらしい。
そのオトコはもうすっかり酔っぱらっていておんなじことを何度も言っていたので私は少し辟易していたけれど一応あいづちは打っていた。
「いやぁ~、懐かしい、懐かしいよ~。この店はもうね、何度も何度も来てて、週に何度もね。よく通ってたな~。もうね常連だよ、常連! 」。
そして新たなビールを運んで来た女将さんに
「久しぶりに来ちゃいましたよ~、懐かしいな~! よく高橋さんと来ててボトルキープも何回もしてたよなぁ~、いやぁ懐かしい~、高橋さんとよく来てたなぁ~」
そうしたらその女将、
「高橋さん?っちょっと覚えてないわぁ、あの事は会社帰りのグループが何組も来てたしねぇ、でもありがとうね」と言いながら厨房に戻ってしまった。
その後もメニューを追加注文する度にそのオトコは
「ここのお店はねぇ、そうそう唐揚げがウマいんだよなぁ~、たまらないね~。久しぶりですなぁ、女将さん~」
と又同じことを何度も言い、女将に声を掛けて、覚えてないのよねぇ、みたいなことを言われていたのでなんだかこちらが恥ずかしくなってしまった。
結局最後までその女将はそのオトコを思い出すこともなく、適当に懐かしいと言われたことに話を合わせていたようだった。
やはりお店の常連というものは自分で言うものではないな、とそのホロヨイ
オトコを見て思ったのだった。 (※ 画像はそのお店ではありません)