暗殺者の眼差し②
付き合った経緯などは覚えていないが、何回か遊んでから付き合うことになったと思う。
初めこそ普通に楽しかった。
食事に出かけたり、レンタル店で映画を借りて家で観たり、ドライブに出かけたり、花束やアクセサリーをプレゼントしてもらったりもした。
男は当時流行っていた改造車のチームに所属していて、その仲間内でもわたしは彼女として認識されていた。
チームの人たちは皆同い年で見た目こそイカつい雰囲気だったが、皆優しくしっかりした好青年だったのでわたしもだいぶ打ち解けた。
チームで大黒ふ頭に改造車を見に出かけたり、年越しイベントで某有名遊園地へ行ったり。
男の隣で今まで見た事のない景色を見たり、穏やかな日常を過ごしたりと半年程経過した頃、少し雲行きが怪しくなってきた。
男はわたしより以前に女性と付き合ったことがなかったのではないかと思う。
その劣等感からなのか、単なる嫉妬なのか、わたしが以前少し話したであろうお別れした初めての彼氏の話を引き合いに出して、喧嘩になることが増えた。
お別れした初めての彼氏はと言うと、別れのきっかけになった別の女とよろしくやっているとの情報が風の噂で耳に入っていたので、わたしは連絡を取ったりはしていなかった。
つまりは元彼と浮気したり連絡を取ったりしていないのに、よくわからない曖昧な理由で男がキレる事が増えたのである。
とても理不尽で救いがない。
そして時間が経過するとともに、喧嘩になるといつしか男の手が出始めた。
言わゆるDV(ドメスティックバイオレンス)と言うやつだ。
毎回殴られたり蹴られたり、それは痛い。
そして典型的な泣き落とし。
わたしを痛めつけた後に毎回泣きながら謝ってくる。
「なんで好きなのに殴っちゃうんだろう、ごめん。」
「俺が悪い。だから嫌いにならないで欲しい。」
毎回こんな御託を並べていたと思う。
そんな一連の流れが気づけば常習化してしまった。
当時のわたしはと言うと、自己肯定感が低いのもあってか感覚が麻痺していた。
男にすがる気などサラサラなかったが、1人になりたくなかったのかもしれないし、男を通じての友人もふえたし、それなりに情もあったのかもしれない。
身体と心を同時に削られながらも、こんなわたしですら必要とされているならと、特にアクションも起こさないままさらに2年の月日が流れた。
その間ももちろん定期的に痛めつけられていた。
人の本質は変わらない。その場でいくら泣いて取り繕っても数日経てば元の木阿弥だ、そんな事はよく分かっている。
相手が変わるなんて期待しても無駄だだししていない。
いつまでこんなことを続けるのか、綱渡りのような感覚だった。
ただ、やられっぱなしもシャクだと感じるようになっていた。
わたしの殺気はこの頃から滲み出てきたんではないかと思う。
やるかやられるか。Dead or Alive。
自分を護るという本能的感覚からわたしも強くなり、非力ではあるし勝てるわけがないけれど、蹴り返したり殴り返したりするようになっていった。
つづく。
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