闇堕ちへの誘い(いざない)①
別記事で少し触れたが、若かりし頃の私はというと、世の中で言う「ギャル」に近かかったと思う。
ノリよく友人とワイワイ楽しく遊び暮らし、恵まれた楽しい日々を過ごしていた。
のんびりした田舎の小娘だからか、あまり人を疑ったりせず、我ながら中身はピュアだったのでは無いかと振り返って思う。
そんな20歳すぎくらいの時の出来事。
近くの街にひとり買い物に出たわたしは、なにやらその駅前で不思議な光景を目の当たりにした。
当時はその町の駅ビル、近隣ビル、商店街にお気に入りのギャルショップが多数あり、優柔不断なわたしは友人を待たせるのも気を遣うので、よく一人でその界隈を闊歩して、店から店を渡り歩いてショッピングを楽しんでいたものだった。
駅前のロータリーはいつもはそれほど込み合っていないのに、その日は少し様子が違った。
品川ナンバーのシックな高級セダンが数台停車している。
車種までは覚えていないが、恐らくメルセデス・ベンツやTOYOTAのマジェスタなどだったと思う。
周りの同じくらいの女の子よりも若干車に関しては知識があったので、その日のその光景はなんとも言い難い違和感があった。
そしてもうひとつ、その違和感の原因。
わたしと年頃が同じくらいの、言わゆる当時の「ギャル男」と言った風体の青年たちが、その高級セダンの周りを歩いていく若い女性に声をかけている。
多分セダンに乗ってきた面々なのだろう。
それにしても、高級車と今どきの若者たち。その組み合わせがなんとも不釣り合いで、わたしはなにか良からぬものを感じた。
なんだあれ。
田舎の駅前に似つかわしくない、キャッチ、または勧誘と言った雰囲気だ。
めんどくさそうだな。やりすごそう。
駅前を歩きながら、自然と歩調も早まる。
が、時すでに遅し。
まさに自分の庭と言うべきテリトリーにおいて、それまで警戒などせずに歩くことが常だったわたしの、危険予測センサーがいきなり真っ当に機能するわけもなく。
気づけば連れ合いかのような小気味のいいテンポで、ダメージデニムのスリムな脚が隣を歩いていた。
ロックオンされていたのに気付かなんだ。
「!!」
「何笑ってるんですか、お姉さん?」
笑ってはいない。
隣に並ぶまでの素早さ・あまりの自然さに唖然として言葉を失ったわたしに、ダメージデニムのスリムな彼が畳み掛ける。
「ちょっとだけお話聞いて貰ってもいいですか?」
「今急いでるんですよね……。」
「本当にちょっとだけなんで、お話だけでも……。」
パッと右を見たらこの田舎にはいないタイプの、都会の洗練された雰囲気のイケメンが笑顔でわたしの顔を覗き込んでいた。
正直ドキッとした。と同時に、わたしの危険予測センサーが脳内で叩き割れた。
これが"ただしイケメンに限る"の力なのねと、今になって思う。そう、イケメンとは最強スペックなのである。
「歩きながらなら……少しは聞けます。」
ちょっと相手のペースに飲まれていた。
つづく。