暗殺者の眼差し⑥
その頃大型ショッピング施設のアパレル店で働いていたわたしは、次の日足取りも軽く職場へ向かった。
お昼休憩で職場の同僚たちからあの彼氏どうなったのーと聞かれ、前日の出来事を一部始終話した。
普段から皆で恋バナで盛り上がったりしていたが、わたしの話はどうしても皆のテンションを下げてしまう。
その度申し訳なくなるので、もっと楽しい話題を話せるようになりたいと切に願っていた。
前日の話をすると皆一様に
「痛くて大変だったけど別れられたなら良かったね」
と、わたしが男と無事に区切りをつけたことを労い祝福してくれた。
別れて周りから祝福されるだなんて、わかってはいるけどやはりロクな付き合いではない。
皆に報告できたことでジワジワと別れたと言う現実が真実味を帯びてきて、開放感となんとも言えない高揚感が湧き上がってきた。
これから毎日楽しくしていこう……!!
その日は、こんなに仕事が捗ったのは久しぶりと言った具合でとにかく調子が良く、一日気持ちよく働けたのを覚えている。
その日の仕事終わり、お昼と同じメンバーで従業駐車場まで歩いていた。
仕事もテキパキ終えて楽しかった!いい日だったな〜と単純なわたしはごきげんだった。
たわいもない話題で談笑していた時に、女の子の1人が足を止めて向こうを指差し、小さく叫ぶように言った。
「待って……!!」
「ねぇ、こったんの車の横に停まってる黒い車、あれはこったんの彼氏の車……?」
血の気が引いたのがわかった。漫画で言う、おでこにサーッと縦線が浮かび上がる、あのかんじ。
まさに女の子が言ったとおり、わたしが昨日別れたはずである男の車が、職場の従業員駐車場に停めたわたしの車の横になぜか停まっている。
「うん、あれそうだ。やばい。わたし隠れるから先に帰ってて、ごめんね!!」
踵を返し、今来た方角へ走り出そうとしたとき、
「キャーッ!!」
っと皆が叫んだ。
男の車のドアが開き、男がこちらに向かって走ってくる……!!
「こったん、彼氏来たよ!!逃げて!!」
「やべー!明日話す!わたし行くね!!」
言うより先に脚が走り出していた。 小さな群れをぬけてわたしはひとり店の方角に足を向かわせる。
しまった!今日はピンヒールで出勤していた……!
足がもつれてうまく走れない……!!
ダダダッとすぐ後ろで音がしたと思ったら、右腕を掴む感触があった。
捕まった……!!
勢いがついていたわたしの身体は、ガクンと揺れてつんのめりそうになった。
「逃げてんじゃねーよ!」
頭の後ろから聞き覚えのある声。もう二度と聞きたくなかったのに。クソ……!!
ゆっくり振り向いて、乱れた息を整えながら男を睨みつけて言った。
「なんの用事?」
ここは職場の敷地内だ。薄暗いとは言え、たまに人も通るしさすがに暴力は振るうことができないだろう。 そんなことをしたら警備員につまみ出されるはず。
「話があるから来い。」
「わたしは話すことなんかない!!腕を離して!触らないで!」
男は逃がすものかとわたしの右腕をさらに強く握ってわたしを引っ張り始めた。
「話があるんだよ!」
強い力で半ば引きずられるようにして駐車場の男の車の横まで連れていかれた。
「痛い!離して!!」
目的を果たしたからか男の力が弱くなり、わたしは男の手を振り払った。
つづく。