このまちで えいがをみること2024
長らく通っていた映画館が閉館し、地元の映画館に観たい映画が来なくなって少し足が遠のき始めた一方、3年間我慢した東京行きを解禁し、東京国際映画祭と香港映画祭2023で新たな映画の波に触れたことで、香港映画への愛が復活した…というのが昨年の我が映画生活。
そうそう、この記事と同じ内容のZINEも発行したところ、おかげ様で完売。
そんなわけで、2023年に好きだった映画について。
洋画編
3年ぶりに東京で観て、冷めかけていた情熱を一気に引き戻してくれた映画。とても気に入って地元でもう一度観たいと願っていたのに、地元スルーされた…悔しい。
今年の目標は、この映画の上映会をやることです。
だからこのZINEを作ったのだ(としつこく宣伝させていただく)
人形遊びはもちろん通っているのだが、ええまあリカちゃんだったので通ってはいません。でも、人形であることを逆手にとってあんな話を作るのだから面白いし興味深い。何を食べてたら思いつくのグレタよ。そしてグレタもマーゴットもオスカーにノミネートされていないのは解せぬ。
これもまた「いったい何喰ってたらそんな(後略)」案件だが、おばちゃんにも、アジア人にも、マイノリティにも、この世の中に居心地の悪さを感じている人のための光となるような映画だったと今思う。そして親切でいることって大切だけど、行うはそれほど易くはないよね…それでも、This is a life.
女性の人権を軽んずる事件が次々に報じられる今日この頃であるからか、去年はこのような映画をよく好んで観ていた。凶行に走る男の思想には宗教はもちろんだけど、「有害な男らしさ」も窺えて、普段からそのような思想にふれる機会が多いこともあって頭を抱える。
この映画でカンヌの女優賞を受賞したザーラ・アミール・エブラヒミは、今年の東京国際映画祭で上映された『タタミ』で監督デビュー(ザル・アミール名義)したそうで、これもまた興味深い。一般上映希望。
若い父親と娘のバカンスを振り返るおセンチな話なのだが、旅の記録はやはり残しておかなければいけないな、などと思った。90年代末の欧州の雰囲気も興味深い。実在したら父親は50代後半くらいかな。
先に書いたことと重なるが、昨年は女性の受難とエンパワーメントを描いた映画が本当に多かった。
その受難に向き合い、議論を戦わせる女性たちの意見も様々で、自分がこの立場にあればどうだろうか、と考えた。
「人の振り見て我が振り直せ」とは言いたくないが、一応人を指導する身でもあるので、どんなに嫌であってもハラスメントにならないように十分気をつけよう…と思いました。とはいえ指導しても否応なく下に見られてすっげー嫌(この後本業で経験してる嫌なことを思い出したので終了)
『羅小黒戦記』以来の衝撃を受けた中国アニメ。
高クオリティのCGに、チャウ・シンチーを思わせるノリ、ただのサクセスストーリーでは終わらず、辛さや厳しさもしっかり見せる心意気、これは心を掴まれる。中国と言えば眉を顰める人が以前に比べて増えてきているように思えるのだが、面白さに国の思想やら何やらは関係ない。
この映画で取り上げられたワインスタイン事件に相当するおぞましいスキャンダルが最近日本で立て続けに起きている。新聞と雑誌との違いはあれ、きっかけが記事という点で共通項がある。映画では事件記事ができるまで非常に苦労があったことも書かれているから、日本で倍以上の苦労があったに違いないと予想できる。反撃もあるけど、それに負けないでほしい。
映画の感想とはやや関係ないコメントになるけど、最近読んでいるノルウェーが舞台の20年前くらいの警察小説に主人公の恋人がロシアに出張する場面が登場したので、この映画で描かれたロシアと北欧の距離感を思った。
邦画編
愛を描いていて、それでいて愛だけじゃない映画。痛切な思いを感じるけど、その一方でしみじみする。感情をあれこれと揺り動かされるよい映画であった。AFAでの高評価もわかる。
これもまたしみじみする映画だった…変に感動ものにしない、淡々とした展開もよかった。「岸井ゆきのにハズレなし」とはよく言ったものだ。
水木大先生(と呼んでいる)生誕100周年にふさわしい映画。
アニメ版鬼太郎はカラーの2期と戸田恵子さん主演の3期で育ったし、遠野が好きなので妖怪図鑑も持っているし、もちろん鬼太郎の出自もよく知っているというような程度のファンであるが、南方に出兵した大先生のプロフィールや横溝正史+京極夏彦といった伝奇推理の趣で、昭和という時代の暗部を再構築したのに感心した。しっかりと反戦映画である。
子供の頃に読んだこの本がこれまでアニメ化されてこなかったのは本当に不思議だったが、現在の世界状況を考えると、今アニメ化しないともう世界が変わってしまうからではないか…と少し思った。『この世界の片隅に』と比べて云々みたいな評もあるらしいが、比べちゃいけないでしょ。
ところで私事なのだが、この映画の監督の苗字は母の旧姓と同じ。
珍しい苗字なのでもしかして母方の祖父母と同郷?と思って調べたら全然違ったのであった。まあそういうことだ。
2年前のTIFF上映と、NHKでの先行放映(国際共同制作作品)で気になっていたのだが、共同脚本が朝ドラ『らんまん』を手掛けた劇作家長田育恵さん(井上ひさし最後の弟子の一人とか)と聞けばますます興味がわく。モチーフとしている『遠野物語』で語られる民話にも明治期の社会状況が伺えるが、閉鎖的な地方で生きる女性にスポットを当てたのも興味深い。
山田杏奈ちゃんはドラマ『17才の帝国』で初めて知ったけど、『ゴールデンカムイ』でアシㇼパさんに抜擢されたのは、この映画を観てたので大いに納得したのであった。当分成長しないでほしい(おい)
これを観るきっかけは、大阪アジアン映画祭で起こったある事件。
それがあまりにもひどかったので(興味ある人は要google)それなら応援しなければ!と仙台まで観に行った。観てよかった。若者の世の中との向かい合い方を描いた映画だけど、歳を経た自分にもかなり響いた。
評判よかった1は当地未上映。ったくなんでよー観たかったのに。
でもちさまひコンビは2から観ても大丈夫だった。ついていけた。
現在撮影中の3も楽しみ。
柳の下に何匹いる類のネタだけど、舞台となる貴船の美しさとテンポの良さでフォローされててよい。こういう意外な伏兵的映画は好きだが、この次の作品が大変なんだよね(と遠い目をする)
リメイクにはどうしても辛い評価をしてしまうし、オリジナルには及ばないというのも悪いが、これは思った以上に良心的なリメイクだったと思う。でもその分『言えない秘密』が(強制終了)
正直に言うが坂元裕二脚本がなぜ人気があるのか私にはわからない。
『花束みたいな~』も全然刺さらなかったし、TVドラマは私が苦手な恋愛や夫婦ものばかり。でも何か引っかかるものがあれば観るし、この映画はそのひっかかりで興味深く観た。
しかしおかしいことに、カンヌで脚本賞を受けたのに、日アカで脚本賞候補にならなかったのはなぜだろう?日本の映画評論業界(特にえーがげーじつ界隈)はアンチ是枝多そうだなとは感じるのだが、それでも脚本賞スルーは解せぬ。なおAFAではちゃんと脚本賞ノミネートされている。
旧作編
ああ、もう30年も経ってしまったのか…
そしてレスリーが逝ってしまって20年…
この時代、天安門事件があったとはいえ、改革開放により香港や台湾と交流をし始めた中国、この「両岸三地」が文化的な共有により歴史の光と闇を重厚なエンターテインメントとして描いたこの映画を産み出せたのは本当にすごい。中国からは今後これを超える作品は出てこない、と言いたい。
『牯嶺街少年殺人事件』ばかりがエドワード・ヤンじゃない。
激動の60年代の中学生の青春も、躍動する90年代の若者の青春のいずれも描けるのが実に魅力的。初見当時は少し年上だった主人公たちの年齢を追い越してしまったが、それでもあの時代を思い出しながら楽しく観た。
実はなぜか2だけが地元未上映。だから初見はDVDだったし、その後六本木ヒルズでのオールナイト上映などでも観ている。
しかし、巨大スクリーン&ブラッシュアップされた音響で3部作をぶっ続けで観て、一番良かったのが2だった。おい地元映画館、なぜこれを上映しなかった…
3年前の9月(ちょうどシャンチーが上映されていた頃)に盛岡で上映されていたのだが、多忙な中観たので感想も書けなかった。それからちょうど2年経って宮古で上映してくれると知り、なんとかスケジュールをやりくりして観に行った。初めて東屋さんの蔵にも入れた。
宮古まで行くのは本当に大変だが、中華圏の作品をまた上映してくれるのなら行きたい。
早池峰の賦
この作品のみ初見。今から40年前の北上山地の集落の生活が写されている。神楽はどこでもあり、その気になれば見に行けるのだが、その土地土地で神楽を営む人々の生活も結びついているということに気づき、興味深く観られた。そして、もっと真剣に民俗学を学んで、神楽を追いかけたかった…と昔の夢を少し思い出した。
結びに
昨年観た作品は数えてみたらだいたい80作品くらいだった。これには市外・県外で観た作品ももちろん入っている。某館の会員制度がリニューアルされ、実質値上げになったとはいえリピーター割引は依然と同じくらいの率なので、通えばそれほど財布に痛手はないのだろうけど、それよりもスクリーン数減少の方が痛い。気に入ったアニメ映画を毎週おかわり鑑賞できるくらいの年齢じゃないし、おかわり鑑賞したい映画はだいたいこっちに来ない。これを言うといつもながらの愚痴になるので、これ以上は言うまい。
おそらく今年は鑑賞回数は減ると思う。それは致し方ないと思う。その分、観たい映画のための活動は地道にしていきたい。
自分が選んだ映画が楽しめたらそれはそれでいいのだろうけど、昨年はそうじゃなかった作品も幾つかあった。そのへんについてもどこかでこっそり書いて気持ちは整理したい。
そんなところでざっくりとだが、昨年の映画生活をまとめてみた。
今年は鑑賞本数がどんなに減ってもいいから、自分が観たい映画を確実に観たいし、観たい映画のためなら遠出だってしたい。というか地元でももっと多様な作品を上映してください。
客の入る映画だけが映画じゃないんだ。