命は酒によりて軽し~緊急事態に酒愛を⑫
ある朝、僕は夢から目覚めたとき、自分がベッドの上で一匹の大きな毒虫に変ってしまっているのに気づいた。
いやいやいやいや違う。身体が、自分のそれとは別物のようになっている。重い。
僕は頭を起こすことに注力した。大丈夫だトランスフォームしてない。
だがなぜだ。足が動かない。正確に言うと、右足の膝から下に力が入らない。
ベットの足元には血の付いた靴下が…。
スティーヴンキング『ミザリー』のワンシーンが脳裏に浮かぶ。
いやまさかキャシーベイツが、いやまさかハンマーで、いやまさかーいやあああああ。
いや。まぎれもない僕の部屋だ。大丈夫だ拘束されていない。タイプライターもない。
トゥルトゥルと固定電話が鳴る。
驚くほど重い身体を、腕の力だけで引きずり受話器にたどり着く。
「お前、すげえ勢いで側溝に落ちてたけど大丈夫だったかー。そのまま歩いてったから大丈夫だとは思ったけどー。」
生きて、生きて還ってきていたのか!ポール、ミラクル!ナイスカムバック!
擦りむいたスネの血を拭い、タクシーを呼び整形外科に向かった。
ドクターの高音が二日酔いの頭蓋骨に響く。
「捻挫しちゃったんねー湿布出しとくねー」
右足に感謝しかないです
同じ人類とは思えない。
おじさんは、羽生君に、申し訳ない気持ちしかないです。
※右足に感謝しかないです…怪我を乗り越えた金メダリストの尊い名言
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